――ご自身が手掛けられた作品の中で、特に大きな転機になったと感じているものは?

『夜行観覧車』だと思います。失敗したら次はなかったと思いますし、この作品をやってから企画が通りやすくなりました。俳優さんにも出演してもらいやすくなった気がします。

――『夜行観覧車』をはじめ、『Nのために』『アンナチュラル』『最愛』『下剋上球児』など数多くの作品でタッグを組んでいる塚原あゆ子監督と組むようになった経緯も教えてください。

私がAPで塚原さんが3番手のディレクターだった頃に初めて一緒の作品をやったのですが、『夜行観覧車』をやると決まって監督をどうしようかとなった時に、原作が湊かなえさん、脚本が奥寺佐渡子さん、Pが私で、監督を女性にしたら“女性で作る作品”と打ち出せるかなと思い、女性がいいんじゃないかという話に。塚原さんは当時まだTBSプライム帯でチーフをやったことがありませんでしたが、NHKで1本チーフで撮っていて、主演の鈴木京香さんも快諾してくれたので塚原さんがチーフ監督に決まりました。

――当時から塚原さんの演出に光るものを感じていたのでしょうか。

NHKの『ラストマネー -愛の値段-』などのサスペンス感が好きで、『夜行観覧車』もサスペンスだったのでいいなと思いました。

――その後、さまざまな作品で塚原さんとタッグを組んできましたが、一緒に作品を作る面白さをどのように感じていますか?

発想が豊かですよね。いろんなことを考えていて、何か新しいことをしようとするチャレンジャーですし、探求心がすごいなと思います。

出演俳優のブレイクでテレビの力を実感 “新しい発見ができる”強みも

――近年はネット配信が盛り上がっていますが、そんな中でテレビの役割をどのように考えていますか?

配信作品や映画は好んで見ようとしないと出会えませんが、テレビはタダで見られて、たまたまつけたらやっていた、などと偶然作品に出会うこともある、新しい発見ができるというのが強みだと思います。いろんな世界を知ることができ、世界が広がる。例えば『下剋上球児』は、野球が好きだからなんとなく見てドラマって面白いんだと思ったり、ドラマが好きだから見た人が野球に興味を持ったり。知らない世界を知ってほしいという思いがあります。

――新井さん自身もテレビを見て視野を広げて。

そうですね。4月クールの金曜ドラマを担当していますが、それはなんとなく見たドキュメンタリーがすごく印象に残っていて、そこから着想を得ました。あと、ドラマが話題になって出演していた俳優がいきなり売れることがあり、そういう時にもテレビの力を感じます。『最愛』の高橋文哉くんも主演をやったりCMに出演したり、『中学聖日記』でデビューした岡田健史(現・水上恒司)くんも、映画の主演をやられていて、初めて会ったときの頃を思い出したりして、親のような気持ちになるときがあります(笑)。マネージャーさんはいつもこんな気持ちになっているのかなとも。

  • 新井順子プロデューサーが手掛ける4月期のTBS系金曜ドラマ『9ボーダー』で3姉妹を演じる畑芽育、川口春奈、木南晴夏(左から)

連ドラ枠が増え「スタッフもキャストも取り合いになっている」

――連ドラ枠が増えている状況についてはどのように感じていますか?

スタッフもキャストも取り合いになっているのが現状です。すべての作品を追いきれないことで、登場人物の名前がそっくりとか、ストーリーが似ているとか、そういうことが出てくる……いや、もう出ているのかもしれませんね。

――作り手としては、そのあたりのドラマの状況がどうなっていくといいなと考えていますか?

もっとドラマ枠を減らして1作品あたりの予算を増やし、時間をかけてクオリティの高い作品が作れるようになるといいなと思っています。今は次から次に作らないといけないですし、枠に対して人が少ないから忙しい。次の作品のためにインプットする時間もなく、脚本家さんも取り合う状況になっているので。