注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、TBSスパークルの新井順子氏だ。
『Nのために』『アンナチュラル』『MIU404』『最愛』など、数々の人気ドラマを生み出してきた新井氏。昨年放送された日曜劇場『下剋上球児』が記憶に新しいが、次なる作品として、川口春奈が主演を務める4月期の金曜ドラマ『9ボーダー』が発表されたばかり。新ドラマも注目を集めている新井氏が制作において心がけていることとは。また、テレビの力やドラマを取り巻く環境について感じていることなど話を聞いた。
――当連載に前回登場した、カンテレでドラマ制作を手がける岡光寛子プロデューサーが、新井さんについて「気概があって、ポジティブな空気をまとっていらっしゃって、確固たる軸があって、明るくて、フットワークが軽くて、とにかくかっこいい。憧れのプロデューサーです。社会問題をエンタメとして昇華させドラマにする手腕に感銘を受けており、いち視聴者として新井さんが手がける新作をいつも心待ちにしています」とおっしゃっていました。
ありがとうございます。べた褒めですね(笑)。今放送されている岡光さんの『春になったら』も見ています。余命3カ月の父が出てくるお話で重めなのかなと思ったら明るいテイストで、奈緒さんと木梨憲武さん親子のキャスティングも素晴らしいなと。いろいろと設定が面白いなと思ったので、どうやって企画を立ち上げたのか、今度飲みながら教えてください!
――岡光さんとは何度かお会いしたこともあるそうですね。
2回ぐらい一緒に飲んだことがあります。交流会みたいな感じで、お互いの局について「うちはこうだよ」みたいな話をしました。
――ここから新井さんのお話を聞いていきたいと思います。まず、テレビの世界を目指したきっかけから教えてください。
子供の頃からドラマをよく好きで見ていました。そして、中3の時の文化祭で舞台をやらないといけなくて、投票で8クラスのうちの上位3クラスか4クラスが市民会館みたいなところで披露できるという感じだったんです。そこに残るためにはどうしたらいいかというところで、「イケメンを主役にしよう」「みんなが知っている『金田一少年の事件簿』を取り入れよう」などとプロデューサーみたいなことをして、自分で台本も書いて、これを仕事にしたら面白そうだなと思いました。
――中3の時にすでにプロデューサーのようなことを。
そうなんです。中学で舞台をやったから、高校1年の文化祭でもそういうことができるらしいということで、また舞台をやってほしいとお願いされて。2年生の時は断りましたが、3年生の時もまた舞台をやって、「あなた主役をやりなさい」「あなたはピアノを演奏しなさい」とか、今と同じようなことをしていました(笑)
「自分が本当に面白いと思うものを作る」 わかりやすさも大切に
――実際にテレビの世界に入って数々の作品を生み出されていますが、作品作りにおいて大切にしていることをお聞かせください。
自分が本当に面白いと思うものを作る。あと、わかった気にならないというのも意識しています。難しい台本で理解できないところがあった場合など、恥ずかしがることなく「どういう意味ですか?」とちゃんと聞くように。テレビは幅広い年齢の人たちに見せるものだと思うので、小学生でもわかるようにするというのは意識しています。
――わかりやすさは初期の頃から意識していたのでしょうか。
特に意識するようになったのは『アンナチュラル』からな気がします。事件モノは難しくなりがちですが、どの世代にもわかるようにしたいなと。
――『アンナチュラル』や『MIU404』など社会問題を取り入れたドラマを手掛けられている印象もありますが、社会問題を物語として発信する面白さなど感じていますか?
そうですね。最近どんなニュースがあるのか見てヒントを得たりしますが、そういうものから引っ張ってこないと事件の動機などが似通ってくるんです。自分の発想だけだと限界がありますが、ニュースはネタの宝庫で、ドキュメンタリーもそうです。あと、友達が言っていたことや家族で起こったことなども使い放題。そういうものはリアリティがありますし、移動中に女子高生が話していた会話から引っ張ってくることもあります。