――昨今は見逃し配信の再生数が注目されるなど、ドラマの見られ方が変わってきていると感じます。そういった意味で、どうすれば選んで見てもらえるか、ドラマ作りも変わってきたのではないでしょうか。

そうなんですよね。とても難しい問題なのですが、まず圧倒的な独自性、そして時代性が必要だと感じています。やはり何か面白そうだなと思ってもらえるきっかけがないとチャンネルを合わせてもらえない、TVerなどの配信でも再生してもらえないというところがある中で、弊社の上司は「とにかく話題になるものを作れ、そのために何かを仕掛けなさい」とよく言います。それは内容でも役者でもセットでも演出でもSNSでも何でもいい。真似事や既視感のあることでは何も生まれない。今の時代をとらえたオリジナリティのあるチャレンジをしなさいと。今このジャンルが流行っているからそのジャンルで作るという流れとはほぼ真逆ですね。

――なるほど。周囲に流されて作ると同じジャンルの横並びになって埋もれてしまう。

はい。とはいえ、ドラマは時代を映す鏡ではあるので、まったく意識しないわけではない。ですけど、流行っているからということで作ってしまうと、そこは今の視聴者の皆様は目が肥えてらっしゃるので、見透かされてしまう。

――確かに。これは僕がとあるバラエティ番組の収録現場で見た裏話ですが、マツコ・デラックスさんが似たことをおっしゃっていました。番組スタッフに「そういったテレビ的お約束、演出の都合上のウソに視聴者は皆、気づいている。だから皆、テレビを見なくなったんだ」と。

さすがマツコさんですね。そういった意味で私たちも視聴者の方々に見透かされないよう、そして私個人としては作り手の温度や思いがきちんと伝わるドラマ作りを軸にしています。常に学び、アップデートして、見てくださる方が自分自身の物語としてちゃんと置き換えられるようなドラマ作りをしていきたいです。

――独自性で言えば、カンテレさんは是枝裕和監督で初連ドラを作ったり(『ゴーイング マイ ホーム』)、バカリズムさん脚本で初連ドラを作ったり(『素敵な選TAXI』)と、新たなことに次々と挑戦していっている印象もあります。

キー局と同じ戦い方をしても勝てないので、話題になるドラマを作ろうという意識が潜在的にありますし、そういう先輩方の背中を見て育ってきました。またキー局と違って外部のスタッフと組みやすい環境なのも準キー局ならでは。カンテレの東京支社はドラマもバラエティも編成も営業も一つのフロアにあって風通しがよく、アットホームで、ドラマのアドバイスや感想を同僚からもらえる。新しいことに挑むときも上司が背中を押してくれますし、私がやりたいことをやっていくのにちょうど良い規模なのかもしれません(笑)

  • 長濱ねると菊池風磨

    『ウソ婚』(毎週火曜23:00~)
    9月12日放送の第10話は、今も匠(菊池風磨)を忘れられない紗智(中村ゆりか)の切ない恋心を知った八重(長濱ねる)が、一大決心。八重が自分から離れていくことを予感した匠は…
    (C)カンテレ

■『ウソ婚』は「菊池風磨さんのフルコースに」

――現在、『ウソ婚』が放送中ですが、そこにはどのような独自性、話題を作る仕組み、仕掛けなどを作っているのでしょう。

1つの目標は主演の菊池風磨さんの“フルコース”にしようと。以前、『嘘の戦争』で助監督を務めていたのですが、彼のチャーミングな部分であるとか、バラエティ番組で見せる知的だけどユーモアやセンスがある部分が素敵だと感じていました。さらに、Sexy Zoneとして活動するときはカッコいいスター性がある。そんな彼の魅力を最大限に引き出す脚本と演出を心がけています。

――原作で匠(菊池)はドSなキャラですが、ドラマではかわいらしい部分がありますよね。

そうなんです。それは原作の時名きうい先生にもご理解をいただけました。…というのも、時名先生は『ジャにのちゃんねる』で見る菊池さんが一番お好きらしく(笑)、ドSでモテるのに初恋相手の前では不器用でなかなか感情をうまく表現できないという部分が素敵に見えたら、菊池さんの格好良さもチャーミングさも両方出せるかなという狙いです。

あとは、少女漫画原作の王道ラブコメを抑えながら、それだけにとらわれない面白い仕掛けを作りたいなと。そこで取り入れたのが黒澤明監督の名作『羅生門』スタイルです。1つの出来事を、登場人物それぞれの視点で描くことで、あのとき実はこうだったのか、こういう感情だったのかという気づきがあり、また再度1話に戻って見てもらえたら、何度も味わってもらえたら、という思いがあります。

脚本の蛭田直美さんが、登場人物の心の機微を表現するのが本当に素晴らしい方で、原作をリスペクトしながらすごく丁寧に作っていただいています。キャストもスタッフも皆、そこへ向けて前のめりに制作できていると感じています。また、映像のルックや芝居の深度にもこだわりたく、『アバランチ』でご一緒した同世代の山口健人監督にお願いをして世界観を構築してもらいました。