――『ぐるナイ』にはどのような経緯で参加されたのですか?

桜田(和之、現・静岡第一テレビ会長)さんに誘っていただきました。『お笑いウルトラクイズ』のプロデューサーもされてて、ロケ現場でトラメガ持って芸人さんたちを誘導されてたのが桜田さんで、毎回現場でご挨拶すると「君、いつも来てるよね」って優しく接してさって。その後、僕がフリーになったときに、ゴールデンの番組を2本紹介していただきました。1本は『バラ珍(嗚呼!バラ色の珍生!!)』で、もう1本が夕方からゴールデンに昇格した『ぐるナイ』です。全然レギュラーがなかったときに急に2本もお仕事をくださり、ものすごく助かりました。

――そこで「ゴチ」を考案されたわけですが、どのように企画したのですか?

番組の状況としてはゴールデンに上がって1年ぐらい経って、ちょっと視聴率が不安定な時期で。当時は金曜19時だったので、何か料理モノのコーナーがあったほうがいいと思い、ちょうどとんねるずさんの「食わず嫌い王決定戦」(フジテレビ『とんねるずのみなさんのおかげです』)が大ヒットしてて、ゲストと何か食べながらゲームをするみたいなのをぼんやりと考えてました。

ゲームといえば子どもの頃、『目方でドン』(日本テレビ)という番組が大好きで。簡単にいうと、自分の奥さんを巨大な天秤の片方に乗せて、もう片方に奥さんの体重に近づくよう家電製品をいろいろ運んできて、最後天秤が吊り合ったら全部もらえるという、シンプルかつダイナミックなゲーム番組だったんです。僕も挑戦者が持った家電をお茶の間で一緒に予想してて「ラジカセ 1kg」とかメモに書きながら観てたんですが、これを「値段の分からない料理」に置き換えたら成立するなと思ったんですよ。

『目方でドン』は、最後に巨大な天秤が釣り合うか傾くかっていう絶対見たくなる落とし込みがあって、「ゴチ」も最後に何か荒っぽい画が欲しいなと思って。食事の流れだから最後はお会計なので、一番予想が遠い人が全員分を払う、しかも本当に自分の財布からガチで払うというのが、刺激があっていいのではと思い、会議に企画を出しました。

――もう現在の完成形ですね。

ただ、1人のディレクターから「それって払った体(てい)でいいんだろ?」って意見が出て、「いや、体じゃ面白くないですし、ガチで払うからリアルな表情が撮れるんですよ」って主張したんですけど、「本当に払わせたら、ゲストは誰も出ないよ」と言われまして。会議もネガティブな空気に包まれたんですけど、後日ナイナイさんにプレゼンしたら、「そこは演技できない」「実際に払わないとリアクションできない」って話になり、ガチの自腹で行くことになりました。

――最後の結果発表は、本当に皆さんリアルな表情ですもんね。

いまだに「本当に払ってんの?」って聞かれますけど、初期の頃にある女優さんが負けて、財布から払って「はいOKです」って収録が終わったんですけど、「え? お金返してよ」ってプロデューサーが詰め寄られて。「すいません、これガチなんですよ」って説明したら、カンカンに怒っちゃって(笑)。逆にこれが広まって、演者さんの間で「あの番組、ガチだぞ」ってリアリティーが高まって、良い効果を生みました。

  • 「ゴチになります!24」(左から 羽鳥慎一、増田貴久、宮野真守、矢部浩之、岡村隆史、小芝風花、盛山晋太郎) (C)NTV

■生々しいリアルファイトじゃないと『めちゃイケ』に勝てないと思った

――この“ガチ感”が、「ゴチ」を人気コンテンツに押し上げたんですね。

ナイナイさんの番組をやってると、どうしても『めちゃイケ(めちゃ×2イケてるッ!))』(フジテレビ)を意識していて、こんなこと言ったら怒られちゃうかもしれないですけど、『ぐるナイ』は緻密に作り込まれた『めちゃイケ』に一生勝てないと思ってました。『めちゃイケ』が極上のプロレスショーだったら、『ぐるナイ』は生々しいリアルファイトじゃないと、とても追いつけない。だからガチな自腹にこだわって良かったと思います。

――『めちゃイケ』は終了して『とぶくすり』からのトータルで25年。『ぐるナイ』は4月で30年目に突入して、放送期間も抜きました。

「ゴチ」がスタートして3年目ぐらいのときに、ちょっと自腹の刺激が薄れてきたと感じまして、何かもう1つさらなる“圧をかける”ことを考えなきゃと思ったんです。そこで、年間で一番支払った人がクビになるっていうルールを思いついて、1年間のペナントレースにして、最後に誰かが卒業するってシステムなら毎年その特番は見てもらえそう、と思って提案したんですけど、当時の総合演出に「ナイナイが負けたらどうするんだよ」って猛反対されまして。冠番組のMCがクビだなんて最高にくだらないって思いましたけど、さすがになので、ナイナイさんの場合はクビになったら1年間出場停止ということで落ち着きました。それから、毎年誰かが卒業して新しい人が入ることで、座組みに鮮度が生まれてます。

――もう1つ“ガチ感”が加わったんですね。

クビが決まる瞬間は、こちらも心が痛くなるくらい、つらい瞬間ですね。僕、中島健人さんが大好きなんですけど、生放送でケンティーがクビになって号泣してる姿を見て、申し訳なくて心の中で謝りました。柳葉敏郎さんのときの涙もグッときました。でも、「仲間が去る」っていうバラエティ番組はあまりないので、これはこれで青春だと思っていただけたら。

――1年間で生まれるゴチメンバーの絆がすごいですよね。毎年、新メンバーの方を取材させていただくのですが、皆さん「収録がいつも楽しくてしょうがないです」とおっしゃるんです。

そこは、ナイナイさんがファミリー感を作る天才なんだと思います。カメラが回ってないところでもゴチメンバーと楽しくおしゃべりしてて、収録も長時間なので仲良くなって、普通の番組の収録より情が湧くのだと思います。

――長年にわたる中で、他にもブラッシュアップしている点はあるのですか?

毎年、ちょっとずつ何かを上乗せしていこうと意識してます。おみや代を払うとか、支払いのお金が足りない人は所持品を質屋に売るとか、最初は男性だけだったところに女性を加えようと思ってオセロの中島(知子)さんが入ったり、クビの発表を生放送にしたり、前の年にやってないことを1個足していこうという考えでやってきています。

――今年から、イケメン男性枠が俳優さん(高杉真宙)から声優さん(宮野真守)になりましたよね。正直、企画を考えたときに、これだけ長寿で国民的な人気コーナーになるというのは、想像されていましたか?

ここまで長く続くとは思いませんでしたけど、クビ制度を導入したことでゴチが“永久サイクル”になったらいいなという思いはありました。今回の声優の宮野真守さんとか、異ジャンルの魅力ある方を積極的にキャスティングしていただいてるプロデューサーの皆さんのご尽力のおかげです。それと、毎回ロケで最高の美食をご提供していただいてるお店の方々にも感謝しています。

――12月にクビになる人が決まって、1月に最低1年間のレギュラーメンバーになる旬の方をブッキングするのを毎年やるって、改めて考えるとすごいですよね。収録も長丁場の番組ですし。

クビ決定の収録には、以前は毎回立ち会ってましたが、深夜3時半くらいまでやってたときもありました。羽鳥(慎一)さんは当時『ズームイン!!SUPER』をやられていて、「ゴチ」の収録終わりでそのまま生放送に行ってましたから(笑)