• 『全力!脱力タイムズ』有田哲平 (C)フジテレビ

――『全力!脱力タイムズ』でご一緒されている有田さんのすごさというのは、改めてどんなところでしょうか?

バナナマンの設楽(統)さんが、有田さんのことを「タレントの能力をトーク力とかでグラフにしたら、五角形に近い人」と言っていたんですけど、まさにそうだと思います。特にすごいのは、僕が「AとBで悩んでるんですけど、どうですかね?」と相談すると、普通は「A´」とか「B´」で返ってくるところを、有田さんは両方の要素を入れながら「C」にして返すんです。「Aだとこれが足りない、Bだとこれが多すぎる。じゃあ分かった、Cにしよう」って、これくらいのスピードで。そのやり取りが、もう300回続いてるんです。

――瞬時にアイデアを出されるんですね。

有田さんはよく、「お前がゼロイチを持ってきてくれないと俺は考えられないから、お互い様だ」って言ってくれるんですけど、僕はあの人もゼロイチで考えられると思います。たぶん、昔からプライベートで遊びに行ったときに思ったこととか、普段から「これ変だよね」みたいに感じたことを引き出しにブワーッと入れられて、「この場合はこんなのあったな」って持ってくる速度が速いんですよ。

――有田さんから言われたことで、特に印象に残っているのはどんなことですか?

よく注意されるのは、「階段を上っていくような感じで番組を作らなきゃいけないのに、目先の笑いを作ろうとするな」と言われるんです。今のテレビって、なるべくコンパクトにするために、フリがあってオチ・フォローを飛ばしてすぐボケで笑いにして、ぎゅうぎゅうにするんですよ。それがリズムになってチャンネルを変えられないというのがあるんですけど、日常会話でフリからボケなんてないだろうと。だから有田さんは、フリになってるか分からないような会話から、「あれ? これってもしかして…」ってなって笑いに行くのが理想であって、その理想に向けていろんなカモフラージュをしていくのが『脱力』なんですよ。

今のテレビは、なるべくエピソードや展開を入れるためにコンパクトにコンパクトに編集するのが正しいんですけど、それをすると怒られるんです。なので、その上げていく前の笑いが一切ない“分からない”時間が10分くらい続くのが、作っていて結構怖いんですよね。

――毎分の視聴率もありますし。

そうなんです。今のテレビって10分あったら3コーナーまでいけますから。だからADさんには、よく「これは真似しないでね」って言います(笑)。ただ、根本的には報道番組をやってるという設定があるので、本当だったらオープニングから何もやらないのがいいんですよ。あそこで1つ笑いがあると、来てくれた俳優さん、女優さんが安心するからやってるんですけど、ゲストもだいぶ一周してきたので、そろそろオープニングのネタもやらなくなると思います。「あれ? 本当に今日は報道番組なのかな?」って思わせることが大事なんで。

あと有田さんって、アンテナがすごくて、『しゃべくり007』(日本テレビ)とか他の番組で会ったゲストが『脱力』に来るってなると、その人の情報を僕に教えてくれるんです。「上田(晋也)との対応でこんな人だと思う」とか「この人はいろいろやってくれるから、もうちょっと積極的にいっても大丈夫」とか言ってくれて、その通りやってみるとドンピシャなんですよ。本当にいろんなところで観察して、分析して、どんどんストックして、それをこちらに反映してくれるから、僕らはすごく助かります。

――そのおかげで、先ほどおっしゃってていた「ゲストにフィットした企画」ができるんですね。

ゲストは基本的に役者さんが多いので、自分の色じゃなくてもキャラとして演じてくれるんですよ。でも、あくまでもご本人として出ているので、設定でありつつ、本人の色も見えるところの“真ん中”を取りたいんです。そういうときに、有田さんからの情報がありがたいんですよね。ずっと真剣な顔してておもしろブロックをバーン!と作るほうが、本人もスイッチが入りやすいとか、そういうパターンも考えやすくなるので。

■『脱力タイムズ』に役者が出たがる理由

――よく『脱力タイムズ』は、ゲストの俳優さんが出たがる番組だと言われますが、そうした作り方が要因としては大きいのでしょうか?

そうですね。やりづらいと来てもらえないと思うので、1つは台本になっているのが大きいと思います。それと、キャラを付けているというのを分かりやすくするために、メガネをかけて「別人です」というアイコンでやるようにしているんです。

あともう1つあって、これは視聴者の方もそうだと思うんですけど、番組を長くやればやるほど、“共犯”になってくれるんですよ。僕としてはドキュメンタリーを撮っていて、その中で毎週アクシデントが起きるんですけど、「この芸人さんはこの後どうなるんだろう?」って共犯を経験できることが楽しいんじゃないかと。しかも「ドッキリです」という番組じゃなくて、あくまで報道番組でアクシデントが起きているので、自分が意図して積極的に参加しているわけではない。外馬にいながら、実は大事な部分をやっているという共犯ポイントがいいんじゃないかと思うんですよね。それで隣の芸人さんたちの対応能力を見て感動される方もいっぱいいらっしゃいますし、すごい笑って帰られる方もいらっしゃいますから。

  • 6月3日にゲスト出演する藤森慎吾(左)と加藤シゲアキ (C)フジテレビ

――『脱力タイムズ』は、改めて芸人さんのすごさを感じますよね。

やっぱり瞬発力がすごいんですよ。芸人さんって、その場に数人いたら自分が何の担当かというのを暗黙の了解で一瞬に判別するんです。『(さんまのお笑い)向上委員会』(フジテレビ)とか、最近だと『ラヴィット!』(TBS)とかもそうだと思うんですけど、入った瞬間にフォーメーションを組むんですよね。妻が木曜日に出てるんですけど、妻が前に出るときもあれば、(ニューヨークの)嶋佐(和也)さんが行くときもあるみたいな感じで、演者さん同士で決まっていく。僕らは設計図をしっかり描いて台本に落とし込むんですけど、そこまで予想できないので、台本を超えてどんどん膨らんでいく。そうやって、小さかった種が大きく育つので、僕らはやってるときにどこに水をやればいいのかというのをいつも探しているんです。

この瞬発力のすごさを特に感じるのは、千鳥さんですね。だから『クセスゴ(千鳥のクセがスゴいネタGP)』では、ネタを見たときの千鳥さんの即興芸を楽しむように作ってます。打ち合わせも、ノブさんに「ゲストがいらっしゃるので、こういうトークがあります」というのを説明するくらいで、ネタの話とか、「僕はこんなこと狙ってます」とか一切言わないです。大悟さんなんて「今日も1つよろしくお願いします」、これだけ(笑)。ある意味、有田さんとは真逆なんですけど、これが僕のやってるものに対して千鳥さんが一番フィットする形なんじゃないかと思って。