――『さんまのお笑い向上委員会』では総合演出を担当されていますが、(明石家)さんまさんとはこれが初めてのお仕事でしたか?

はい、そうですね。

――となると、プレッシャーは相当大きかったのでは。

さんまさんは自分の番組のOAを見るとおっしゃるじゃないですか。だから自分の編集が見られるのか…とか思いますし、あの芸人の皆さんの魂が込められた聖域にハサミを入れるというプレッシャーもありますね。

――特にあの番組は、独特な目線でのテロップがありますし。

あれはいまだに正解が分からないんです。テロップなんかなくても全然面白いんですけど、難しいお笑いが多発する中で、テレビとして「ここが今面白い瞬間なんです」というのを分かっていただくために入れたものなんですよ。相当集中して見てないと一瞬で次の話に行っちゃう番組なんで、最短のワードで邪魔をしないように、そして、そこに少しだけ自分のエッセンスをというのを意識しています。

――文字数が限られる上にただの説明じゃない面白さを入れないといけないし、入れるタイミングも考慮しなければいけないですよね。

発言をなぞるテロップじゃない分、一番考える編集かもしれないですね。画をつないでるときに、「こういう感じで行こうかな」となんとなくイメージして、後はもう1回見直したときに、説明臭かったり、この尺じゃ読み切れない、もう少し変なワードにしたいと思ったりしたら修正して、という作業です。

――やっぱりこの番組はカロリーの高い収録ですか?

本当に怖いですね(笑)。うっすらトークテーマは決まってますけど、もちろんどうなるか分からないですし、さんまさんは誰かが事故っても諦めずに立て直してやってくださるんですけど、本当のカオスが続いてしまうこともあるので、何が撮れるのか分からないという怖さがあります。いつも、収録前は「ちゃんと撮れますように」と思ってますから。

――でも、さんまさんがちゃんと手綱を締めることで番組として成立していると。

そうですね。だから、ボス(=さんま)がエレベーターから降りてくると、「収録が来るぞ」という気持ちで、楽屋で1分くらい簡単な説明をするだけでも、いまだに緊張します。さんまさんって、僕の父親と1歳違いなので、本当にすごいなと思いますよ。自分の父親はもうだいぶおじいちゃんになってるのに。

――いつもスタジオに入ると走ってMC卓に向かって行かれますし。

マジですごいと思います。この話はどこから入れようと思ってたんだろうとか、本当に後ろに目が付いてるんじゃないかと思うときもありますし。現場でもそうなんですけど、編集で見直してるときに特に感じますね。「これどこで見てたんだ!?」っていうことがあると、こっちも全部見られてると思って、そこの怖さもあります。

  • 明石家さんま=『さんまのお笑い向上委員会』より (C)フジテレビ

■他番組・他局でも触れるMCたち…「最高に愛のある人種」

――コロナの初期で収録を再開した頃、2階建てのひな壇セットを作ったじゃないですか。あれは、やはりリモートでつなぐよりも、大掛かりなセットを作ってでも現場でのやり取りを優先したということですか?

そうですね。ただ言葉で面白いことを言ってるだけの番組じゃなくて、さんまさんに急に振られたことによって「えっ!?」となって即座に返したり、そういうドキュメントを見てるような番組だと思うんです。だから、「こう来たら、こう返す」というのが、同じ言葉でもリモートと同じ現場同士では全然違うと思って。

――芸人さんたちによるセッションと言いますか。

はい。だから、もう本当に早くアクリル板を取りたいですね。ツッコめないし、触れられないし。魔王(=ザブングル加藤)なんて触れてナンボみたいな感じでしょうし、もっと爆発できるのになと思います。本当に早くコロナ終わってほしいですね。

――他に、あの番組の演出で意識されている部分はどんなところでしょうか?

僕のイメージで、さんまさんとあまり会ったことがない芸人さんがやってくる番組を目指してるんです。あぁ~しらきさんとかチャンス大城さんとかベテラン勢や、『(踊る!)さんま御殿!!』(日本テレビ)にはまだ出ないような、『(痛快!)明石家電視台』(MBS)の大阪組でもないような若手芸人さんがさんまさんと絡んでどう輝くのか。また、陣内(智則)さんが「誰にその言い方してんねん!」とよく言うように、若い人のほうがさんまさんに萎縮せず思い切り当たれるような感じもあるので、そこも『向上委員会』でしかあまり見れないところだと思います。

――“モニター横芸人”のみなさんは、どのように選んでいるのですか?

本人が来たいと言ってくれたり、事務所の推薦だったり、僕が何かしらで見たりした人というのもありますけど、これも正解は分からないです。この人選も、さんまさんに僕の脳みそを見られているようで緊張しますね。あのポジションって、ネタが面白いだけじゃなくて、やっぱり絡んだときにちょっとおっちょこちょいの人が面白くなったりするじゃないですか。ワタリ119とか特にそうだったですけど、後トークも含めてハマった人が多いから、ネタよりも人の感じで見ていますね。

――あそこからワタリさんもそうですけど、しゅんしゅんクリニックPさん、Yes!アキトさんなど、売れていく芸人さんが次々に生まれていきますよね。

やっぱり、さんまさんに触れてもらって、面白さが引き出されるというのがありますよね。さんまさんって、モニター横芸人のギャグが自分の脳に刻まれると、『ホンマでっか(!?TV)』(フジテレビ)とか『さんま御殿』とかで、それをいきなり披露するんですよ。さんまさんの頭の中で残ってたら、その人が売れてるとか売れてないとか関係ないみたいで、この前『ホンマでっか』で急にあぁ~しらきさんのモノマネして、スタジオの全員が一瞬「ん!?」ってなったそうですから(笑)

――でも、そうやっていろんな番組で触れてあげるのは優しいですよね。今田耕司さんも『オールスター感謝祭』(TBS)で『向上委員会』に出てる芸人さんがいたらちゃんと触ってあげてますし。

そうですね。そこはみなさん「チーム芸人」って感じで本当に優しいですよね。最高に愛のある人種だと思います。