『人生のパイセンTV』演出のマイアミ・ケータ(萩原啓太)氏

――この連載にも登場していただいたマイアミ・ケータ(萩原啓太)さんが演出を担当している『人生のパイセンTV』ではプロデューサーを務めていますよね。

萩原は『キスマイBUSAIKU!?』などで、ずっと僕のもとにいたんですが、この番組は僕の中で"萩原に演出させてあげましょうプロジェクト"なんです。

――なんですかそれは(笑)

萩原ってバランスが取れていない人間で、素直で真面目なんですけど、とにかく趣味にものすごくお金を使っちゃって、それでお金がなくなっちゃうんです。ひどいんですよ(笑) で、「おまえなにやってんだよ」と言うと、「でもかっこいいっすよ!」みたいなことを言って。普通、そんな生き方って「バカだなぁ」と思うんですが、1ミリくらい「そんな人生あっても良いなぁ」って思うことあるじゃないですか。

――分かります。

そういう価値観が最近少なくなってきたような気がしていて。そんな人は世の中にいっぱいいるので、その人物を紹介していく番組があったらいいなと思ったんです。ただしバカにして終わるのではなくて、1ミリくらいでいいからその人物をリスペクトするという番組を。

――ということは、パイセンの第1号は、マイアミさん自身なんですね。

そうです。編成の方に「萩原が萩原みたいな人を紹介する番組をやりたい」と言って口説いて始めたんです。

――プロデューサーの立場から見て、マイアミさんの働きぶりはいかがですか?

僕は別にああしろこうしろ細かく言わない放任主義なので。ハッハッハッハ(笑)

――この4月の改編で枠が深夜に下がってしまいますね。

ここは踏ん張りどきですね。いっぱしの演出家になってもらうためもあって作った番組なので、ちゃんとやってほしいなと思いますね。

『人生のパイセンTV』(フジテレビ系、毎週日曜24:30~25:00)
尊敬すべきちょっと"おバカ"な先輩たちを「パイセン」と呼び、彼らに密着して人生を楽しむコツを学んでいくバラエティ番組。MCは、「人生を楽しんでなさそう」との理由で起用された若林正恭(オードリー/左)と、ベッキー(現在は休養中)。
(C)フジテレビ

――今回、木月さんを紹介していただいたテレビ東京の佐久間宣行さんは『ヨルタモリ』のようなおしゃれな番組が作れて、すごくうらやましいとおしゃってました。本当に惜しまれつつ終了した番組ですが、現場としてもどこかで復活したいという思いはありますか?

機が熟せば…という感じですね。いろいろなものがそろえばやるし、やらないのかもしれないし…分からないですね。でも、ああやってパッと終わるのは、番組の質も保たれますし、むしろあれを10年やってたらおそらく僕が頭狂いますから(笑)

――タモリさんのミニコントも毎週3本くらい作らないといけないですもんね。

番組って、長く続けた方がいい番組と、そうじゃない番組がありますからね。ドラマは終わりが決まっていますし、バラエティでもそういうものがあって、いいんじゃないかという気はしますけどね。

――今後、こんな番組を作っていきたいというような構想はありますか?

"フィクション"をやりたいなと思います。

――"フィクション"とは?

今、ウソがなかなか許されない時代になって、リアルなものばかり求められますよね。ドキュメントバラエティとか、それはそれで面白いと思うんですけど、本当はテレビって、夢の世界をウソで作ってた部分があったと思うんです。今はその裏を見せていくという手法がすごい多い気がするんですけど、あえてもう1回、夢のあるウソのあるテレビにしたいんですよね。佐久間さんがやってた『SICKS』とか、良かったですよね。

『ヨルタモリ』も実はそうで、タモさんの「あそこで飲んでる酒以外は全部ウソだ」っていう名言があるんです(笑) あの番組って、タモさんが誰かに扮して出ていただいて、その場で言ってることもウソか本当か分からなかったじゃないですか。そういうフィクションをやっていくテレビを、もっと面白がれる余裕が世の中にあるといいですよね。

『超ハマる! 爆笑キャラパレード』(左から ピース・綾部祐二、南原清隆、陣内智則、永島優美アナウンサー)
(C)フジテレビ

――4月から始める『爆笑キャラパレード』も、それを意識しているんですね。

この番組では、コント番組とショートネタ番組の間のようなことをやりたいと思っています。どうしてもコントをやろうとすると、作る方も見る方も構えちゃうんですよね。オチはなんだとか、ストーリーはどうだとか。そうならないように、「こういう人いるよね」というキャラクターを作って演じる「演技力のある」芸人さんがすごく多い中、そういった力をもっと生かせることができればいいなと思いまして、ショートネタでキャラが続々と出てくるような番組をやろうと思っています。

――ところで、最近よく言われる"テレビ離れ"というのは感じますか?

特に感じないんですよ。『スカッとジャパン』をやっていると、本当に若い子が見てくれてるというのが分かります。初回の視聴率を見たとき、「イヤミ課長」(※4)のところで、キッズ・ティーンの視聴率がものすごい上がっていて、これは一体なんだ!?と思ったのですが、これをきっかけに「キャラだ」と思いました。

(※4)「イヤミ課長」
『スカッとジャパン』で木下ほうかが演じるキャラクター。部下に対してネチネチと嫌みを言い、言い終わった際の締めの一言「はい、論破」は、2015年の流行語大賞にノミネートされた。

「イヤミ課長」を演じる木下ほうか (C)フジテレビ

――子供たちが自分たちの周りにいない人種を、もの珍しさで見てるんですね。

もともとこの企画は、悪役をスターにしたいというところから始まったんです。僕は大学の時に演劇をやっていたのですが、普通の主人公をやるよりも、悪役をやる方が、演じ手としては絶対的に面白いんですよ。その理由は、極端な演技ができるからなんです。やっぱり『スカッと』の演者さんも「悪役を演じるのは面白いですね」と言ってくださる方は多くて、それに子供たちの反応を見て、キャラ化の拍車がかかってきたという感じですね。そういう意味では、テレビ離れというのは感じていなくて、まだ若い子は面白いものをいろいろ探そうとしているなというのを感じますね。

――それにテレビが応えていないのでは、ということですか?

そうですそうです。若い子の方がやはり新しい物に食いついてきますよね。そこから年齢の高い人にもジワジワ広がって、だんだん多くの人が見てくれる。今はそのやり方しかないかなと思いますね。

――テレビマンを志すにあたって、影響を受けた番組はなんですか?

いろいろあるんですけど……3つ挙げられるなら『とんねるずのみなさんのおかげです』『ウッチャンナンチャンのやるならやらねば!』『ダウンタウンのごっつええ感じ』(いずれもフジ)です。これはもう、あの時代のコントを中心とした芸人さんの冠番組ですよね。そういうものを作りたいと思ってフジテレビに入社しました。

――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、木月さんの気になっている"テレビ屋"をお伺いしたいのですが…

日本テレビで『イッテQ』『月曜から夜ふかし』『嵐にしやがれ』などをやってる古立善之さんですね。あれだけ特徴のある作り方をされているのに、しっかりゴールデンで戦っているというのが、すばらしいと思うし、尊敬に値しますね。

■プロフィール
木月洋介(きづき・ようすけ)
1979年11月10日生まれ。神奈川県出身。東京大学を卒業後2004年にフジテレビジョンへ入社。『笑っていいとも!』『ココリコミラクルタイプ』などをへて、現在は『痛快TVスカッとジャパン』『優しい人なら解ける クイズやさしいね』『キスマイBUSAIKU!?』『人生のパイセンTV』『久保みねヒャダこじらせナイト』を担当。この4月からは、新たに『勝手にホメテレビ』(仮)と、『超ハマる! 爆笑キャラパレード』の企画・演出を担当。

●影響を受けたテレビ番組:
『とんねるずのみなさんのおかげです』(フジテレビ系、1988年~1997年放送)
『ウッチャンナンチャンのやるならやらねば!』(フジテレビ系、1990年~1993年放送)
『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ系、1991年~1997年放送)
"お笑い第三世代"と呼ばれたとんねるず、ウッチャンナンチャン、ダウンタウンがそれぞれメインを務めていた、90年代フジテレビ・ゴールデンタイムの冠バラエティ番組。それぞれ「仮面ノリダー」「マモー・ミモー」「AHOAHOMAN」といったコントのキャラクターが人気を集めた。
次回の"テレビ屋"は…

日本テレビ・古立善之氏