――『勇者ああああ』以外で今後やってみたいことはありますか?
各局の面白いテレビをつくってる人たちでフェスをやりたいです。弊社の予算規模では難しいですけど(笑)。どっちを見ようかってザッピングしながらワクワクしてるのが昔のテレビの原風景だと思うです。それはフェスで会場を移動してるのと似てる。夢みたいな話ですけど、各局が連携をしないと業界が終わっちゃう気がするんですよね。
――板川さんは、伊藤隆行さんと佐久間宣行さんというテレ東を代表するお笑い番組のプロデューサーのもとでディレクターをされていたわけですけど、影響は受けましたか?
伊藤さんは、敏腕なプロデューサーってこういう人のことを言うんだって背中で見せてくれる感じですね。とんねるずさんやさまぁ~ずさんを連れてきてテレ東に出てくれるタレントさんのラインを引き上げてくれる一方で、『池の水ぜんぶ抜く』みたいないかにもテレ東っぽい企画も出す万能型ですよね。
佐久間さんはこだわりの人。普通はあり得ないんだけど、映画の『キス我慢選手権』も全部1人で編集してる。応接室で腰を痛めながら(笑)。テレビをつくるのが本当に好きで、スベりたくないっていう思いが強いんだと思うんです。2011年の震災のときも、すぐに編集をしてました。その直後に『マジ歌ライブ』が控えていたんですけど、ライブができるかどうかも分からないのに、そのオープニングVTRをつなぎ直してたんです。それでまだ震災の不安とかを抱えたままのお客さんを前に、HIGH-LOWSの「千年メダル」に合わせて「笑おうぜ」っていうテロップを出す。それを見て観客全体が「うおー!!」って言いながら泣くんです。ちょっと狂気じみてる。でも、プライドみたいなものでしょうね。お笑いディレクターとして全力でふざけようっていう意地。カッコいいなって思います。
――今は「若者のテレビ離れ」などとも言われます。
僕はNetflix、Amazon Prime、Hulu、dTV、Paravi、FOD…と全部入ってるから、自分もテレビから離れてしまうのは分わかるんですよ。退屈しないですもん。そこに負けないコンテンツをつくらなきゃいけないとは思うんです。けれど、現状は視聴率を獲ることがテレビ局においては「勝ち」。でも、その番組が何度も見返したいものかというとそうでもない。家帰ったら座ってテレビ見るって文化が復活することはないと思うんで、本当は、リアルタイムで見てもらえる番組と何度も見返したい番組を二極化してつくっていければいいと思うんですけどね。
――「テレビは規制が厳しくなってきた」とよく言われたりしますが、現場で感じることはありますか?
正直、感じたことはないですね。なんでかっていうと、規制がかかっている時点でお笑いに関して言えば、笑えないってことだと思うんです。たとえば昔はLGBTの方たちをイジって笑いを取った時代もあったんでしょうけど、今やっても全然おもしろくない。規制がかかっているというより、時代とか新しい常識とかに合わせてお笑いの流派も変わってきてるだけ。その時代に則った笑いをつくるのがディレクターの仕事。ここはまだ空いてるぞ、まだ誰もいじってないぞ、ていうのを見つけるのが面白いんじゃないかと思うんです。
■「『勇者』に出てるアルピーが好き」が一番うれしい
――ご自身が影響を受けた番組を1つ挙げるとすると何ですか?
高校生のときに見た『水曜どうでしょう』(北海道テレビ)ですね。得体のしれない人がどんどん売れてスターになっていく過程が見られるのがテレビの面白さのひとつだと思うんです。当時はただの大学生だった大泉洋さんが信じられないような悪口だったり愚痴だったりを言ってガンガン笑いを取ってて。お笑い芸人が面白いと思っていた僕からするとわけが分からない。ローカルで無名だっていうのを全部武器にしてお笑いに振り切ってる。こういうのがテレビ的なんだと思うんです。
大泉洋さんが好きというより『どうでしょう』に出てる大泉さんが好き。だから、アルピーが好きって言われても別にうれしくはないけど、『勇者』に出てるアルピーが好きって言われると一番うれしい。番組を通してその人の魅力を全部引き出したいんです。
――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている“テレビ屋”をお伺いしたいのですが…
フリーのディレクターの水口健司さん。うちの番組の現場では超優しいんですけど、他の現場では鬼のような顔になることもあるらしい。『ガチンコ!』(TBS)出身で、『水曜日のダウンタウン』(同)のようなゴリゴリのお笑い番組から、『ジョブチューン』(同)のような情報系バラエティもやっている。しかもオードリーのような芸人さんとも仲がいい。切り替えの早さとストライクゾーンの広さがすごくて、頭の中、どうなってるんだって思います。