――そんな燃え殻さんから見て、今のテレビに対して思うことはありますか?
いろいろ言われてますけど、『紅白歌合戦』が始まるとTwitterは大爆発するし、『天空の城ラピュタ』を見たらみんな「バルス」って言うじゃないですか。今は、YouTuberだったり、声優さんだったり、好みがすごく分散されていて、いろんな村が点在してそれぞれの交流はなかなか無い。それでもテレビは今でも“大ネタ”として、まだちゃんと機能している気がします。右の人も左の人も東も西も、みんな“大ネタ”にはいっちょ噛みするんです。そういう全員がツッコめるものとして健在な気がしてます。昔は「お茶の間でテレビを見る」ってあったじゃないですか。今のお茶の間はSNSかもしれませんけど、ちゃんとみんな集まって観てる。それが終わったらみんなそれぞれの部屋に戻っていくっていう感じというか。
――“健全”なんですね。
『水曜日のダウンタウン』を見て「あれはやりすぎだろ(笑)」とか言ったり、『紅白』で「はい出ましたー!」って盛り上がったり、みんなが集まるみたいなことってやっぱり必要だと思うんですよね。会社とかでも、「たまには飲むか」みたいなのあるじゃないですか。1つの話題で「あれさー」って話ができるって大切なことだと思う。それがなくなってしまうとみんなの共通言語が本当になくなっちゃう。“大ネタ”を提供しているテレビは、すごく大事なものだと思います。『水曜日のダウンタウン』とか。
――『水曜日のダウンタウン』、お好きなんですね(笑)
好きです。「テレビの前の皆さん、ラジオの前のあなた」ってよく言うじゃないですか。さっきと言ってること変わっちゃうんですけど、「テレビの前のあなた」みたいな番組も、これからは大切な気がします。パーソナルな楽しみ方と“大ネタ”みたいな両方が、テレビに求められている気がしますね。きっとずっとそうなんだけれど。
――そうすると「若者のテレビ離れ」とかよく言われますが、あまり絶望はしていない感じでしょうか?
全然してないですよ。劣勢って、なんかいいじゃないですか。うちの会社も、「やべぇ!」って言ってるときが一番面白かったですから(笑)。そういうときって「生きてる~!」って感じがするし、みんなでスクラム組めて、いろんなものが出来上がりますから。いろんなものが壊れたり、今までのしきたりとか暗黙のルールとか、壊れていく過程も見せられのがテレビだと思います。それでまた、伝統になってきたら、誰かがぶっ壊すんですよ。写植機だったのがマッキントッシュに変わったみたいに。
僕は小説を連載している時に開き直りました。「この下手くそ!」とか、「誰でも書ける」とか「くだらない」「女々しい」とか連日言われ放題。でも、途中から開き直りましたね。自分として、やりたいことをやるだけだって。やれることは全部やろうって。
「テレビ離れ」と言われる中で、これから“テレビの本気”みたいなものが出るんじゃないですかね。演者さんも制作の方々も、開き直ってやりたいことをやるだけだって思う瞬間。歴史あるものが本気出すって、めちゃくちゃ面白いこと起きそうじゃないですか。新しいジャンルの人たちが、何か奇抜なことをやるって、まぁ当たり前でそりゃそうだ、じゃないですか。でも、歴史あるものが何か新しいことを今までの経験を使って、かなぐり捨てて取り組むって、新参者がやるのとは迫力が違いますからね。やっぱりうかうか辞められないなぁ(笑)
■“大ネタ中の大ネタ”だった『笑っていいとも!』
――ご自身が影響を受けた番組を1つ挙げるとすると何ですか?
『笑っていいとも!』(82~14年、フジ)かもしれないですね。『いいとも』って、5~6年見てなかったって人もざらにいたと思うんですよ。でも、昼にはタモリさんがいて、テレフォンショッキングがあって…という安心感のもとにみんな生きていたような“大ネタ中の大ネタ”だった気がするんですよね。見ていないのに「いいとものタモリがさぁ」みたいな話は全員ができるっていうのは、あぁテレビだなあって思いますね。
――それはやはり『いいとも』が終了するというときに気づいたんですかね。
“笑っていいとも!の最終回”ってほとんど都市伝説に出てくるようなことだったじゃないですか。だから、「終わるんだなあ」と思ったんですけど、それ以上に「何年も見てないな」と気づいたんです。知ってるラーメン屋に近い部分があるかもしれないけど。誰かが言ってたんですが、令和になって平成が終わったってなってるけど、実は平成になったときにやっと昭和を振り返って、本当に終わったのは大正・明治だった。だから、『いいとも』が終わったときに、昭和が本当に終わったんだなと思って、すごい思い出深いですね。
――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている“テレビ屋”をお伺いしたいのですが…
テレビ東京の五箇公貴さんですね。僕が小説を書いて最初に接触してくれたテレビの人なんです。『電影少女』とか、新しく始まった『サ道』とか、ドラマで遊ぶというか、いろいろ仕掛けて文化を盛り上げちゃうぞっていう感じが、五箇さんの作品にはあるんですよね。ああいう面白い人がテレビにいると、いい意味で“安泰”にならなくていいなと思います。僕は物書きとして、五箇さんと一緒に仕事をしたいっていうことをモチベーションに今やっていますから(笑)