• 人食い山の炭鉱飯(ボリビア)=7月15日放送『ウルトラハイパーハードボイルドグルメリポート』より (C)テレビ東京

――演出面についても伺っていきたいのですが、非常にシンプルな画面構成で、ナレーションもなく、BGMも飯を食べるときだけ、その他はリズム音のみですよね。この狙いはなんですか?

音楽や効果音について言えば本当は0でもいいと思ってるんです。YouTubeで配信してるスピンオフ版は音を1つもつけていません。基本的な考え方として、取っ払える装飾は全部取っ払いたいんですよね。今のテレビって装飾過多でそれにみんな嫌気が差してるし、制作者としてもテロップ作るのも音楽つけるのも面倒くさいし、お金も時間もかかるし。素材がパワフルじゃなかったら装飾を重ねていくしかないと思いますが、僕は画面に映り込んでいるものにパワーを宿すということに全予算と全体力を費やしています。メロディーやコードがあると感情をいじくってしまっておもしろくないので、唯一リズムだけカホンという楽器でつけているんです。今はそれが時代の要請なんじゃないかと思うんですけどね。虚飾は見抜かれるから。

――この装飾過多の時代だからこそ、『ハイパーハードボイルドグルメリポート』の画面は新鮮に映ります。

戦略的に言っても、今は引かないと目立たないじゃないですか。不安だと足していくというのはどうしてもあると思いますが、その点、僕は不安に感じることがないので、上品で大胆であるというはことを大事にしていますね。下品なものは見たくない。そうすると、そこに意義が必要だったりするんですけど。

――ほかにもこだわっている部分はありますか?

日本人が作ってるということも少し意識してますね。日本人だからニュートラルにロケができるということが実は結構あるんですよ。中東の国や、アフリカ諸国、黒人・白人の問題に突っ込んでいくときとか、事実として、自分が西洋人でもアメリカ人でも他のアジア人でもないということで、ロケがしやすくなることがあります。

先ほど言った編集のときも、日本人としてのものづくりを考えて、なるべく引き算をして素材を際立たせる。和食と一緒ですよね。そういうことにトライしていったというのがあります。Netflixなどで世界配信してもらえるようになったのは、もしかしたらそういう日本的な編集が新鮮なのかなと思ったりします。

――日本の地上波発のバラエティが世界配信されるのは、珍しいですよね。

これも自己分析ですけど、基本的に片言の英語で進んでいくので、言語的じゃない作りというのも実はグローバルな可能性を持ってるんじゃないかと思ってるんですよ。文字の説明も全然ないですし。そういう言葉の掛け合いや説明がなくても分かるアニメってアメリカだと結構あるじゃないですか。

■実はめちゃくちゃしゃべっていた小籔

MCの小籔千豊

――MCの小籔さんの効果というのは、どう捉えていますか?

やっぱりワイプでの顔の渋さがいいですよね。軽率にならない感じが番組とすごく合ってるんですよ。

――ほかのバラエティだと、小籔さんって表情で大きなリアクションをする方ではないから、そんなにワイプで抜かれないじゃないですか。だから、この番組はそこも新鮮です。

そうかもしれませんね。スタジオに1人しかいないので、ワイプに出ずっぱりなんです。当然、都合が悪くてもカットできないですし(笑)。小籔さんてたぶんものすごくいろんなことを考えてらっしゃる方なんですよ。当たり前のようにいろんな立場を想像しながら目の前の現象について考えを巡らせる人。そんなに簡単なことじゃないと思うんですけど。吉本新喜劇という大所帯を背負っているし、ご自身のご家族もいらっしゃって責任感が強く、サービスで生半可なことを言ったりしない人なので、発言に耳を傾けたくなる。VTRの内容におもねって優しい人ぶってみるなんてことは求めていないので。小籔さんの感想にハッとさせられることもたくさんあります。完全に中立な目線、100%の客観でVTRを作ることは不可能です。それは神の視点です。だから、ディレクター以外の目線がそこに加えられることで、番組の厚みは一層増えます。

――VTRからスタジオに降りてくると、小籔さんはものすごく悩まれますよね。

めちゃくちゃ悩んでますね。VTRを見終わった後の感想は、放送上では1分ぐらいしか使ってないんですけど、実は40分ぐらいしゃべってたりするんです。めちゃくちゃしゃべって、収録終わってからスタジオを出るときに立ち止まって、「でもさぁ…」ってそこからディレクターと長いことしゃべったりとか。「この世界はどうにかなんないかなぁ」と本気で考えてらっしゃる方。一方でたぶん、どうにもならないという諦観を持っている方なので、すごくありがたいですね。

――逆にオープニングは、タイトルコールを言ったらすぐVTRに入るじゃないですか。あれは収録でもそのままなんですか?

あれは本当の尺ですね。アイドリングトークもなく、打ち合わせもしてないです。

――打ち合わせも!?

普通、収録前に楽屋にディレクターが行って「今日はこういう感じでやります」って説明するんですけど、僕、基本的にそういうことができないので、メイクしてるところにちょっと行って「お願いします」って言うだけです(笑)

――なるべくまっさらな状態でVTRを見てもらいたいという狙いですか?

まっさらな状態で見てほしいし、打ち合わせが苦手ということです。テンパっちゃうんで(笑)

――番組タイトルの“ハードボイルド”というワードも印象的なのですが、これを入れた狙いはなんですか?

「ハードボイルド」って「半道徳的な内容を客観的で簡潔な描写で記述する手法」という意味らしいんですけど、なんか語感として気に入ったんですよ。『ハイパーハードボイルドグルメリポート』というタイトルは、最初からあったんですけど、「ハイパー」ってなんかバカっぽくて、自由を感じるじゃないですか(笑)。だから、内容の濃さとバカっぽさのアンバランスな見せ方をしたかったというのがあるんですよね。そして何よりグルメ番組なので「固茹で(ハードボイルドの直訳)」がピッタリだった。誰も彼も“柔らかい”を“美味い”と同義に扱ってたりするのも気にくわないので。硬いほうが美味いだろうって。

――「飯見せてもらえませんか?」という決まり文句が、テレ東さんの『家、ついて行ってイイですか?』を想起するのですが、意識している部分はあるんですか?

意識的に真似してるつもりはないんですけど、『世界ナゼそこに?日本人』では高橋弘樹さん(『家、ついて行ってイイですか?』演出・プロデューサー)の下でADをやっていたので、影響は相当受けていると思いますね。ロケのスタイルもすごく近いですし、番組の予算構成としてもロケに全コストをかけるというテレ東ならではの選択と集中のお手本があの番組なので、その血は濃く引いてます。恥ずかしいんであまり言わないんですけど、僕は高橋弘樹さんのことをすごくリスペクトしてるし、死ぬほど恐れているので(笑)