注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、きょう7月15日(21:00~22:48)に放送されるテレビ東京系特番『ウルトラハイパーハードボイルドグルメリポート』の演出・プロデューサーを務める上出遼平氏だ。
これまで、リベリアの元人食い少年兵や殺し合いを繰り返すアメリカの極悪ギャング、シベリアのカルト教団など世界のディープな人々の“ヤバい飯”を紹介し、深夜帯での放送にもかかわらず話題騒然となっていた同番組。1年ぶりに復活する舞台がゴールデンタイムというテレ東編成の“ヤバさ”にも注目が集まっているが、あらためて制作の裏話や狙い、そして今回の見どころなどを、たっぷりと聞いてみた――。
■「飯を見せてくれませんか?」の汎用性の高さ
――当連載に前回登場した日本テレビ『グレートコネクション』の増田雄太さんが『ハイパーハードボイルドグルメリポート』について、「『思いっきりやってまえ!』って感じでロケに行ってると思うんですけど、そこに行くための緻密な計算や努力が見て分かります」とお話ししていました。
そんなふうに言ってもらえてとてもうれしいのですが、綿密な計算…全然してないかもしれないです(笑)。ロケハンもないですし台本もないですし、一体どうなるか誰も分からない状態で飛び込んで撮ってくる番組なので。ただ、最初に“大義”みたいなものについては考えました。その場所のその人を取材することの意味はどこにあるのか。彼らのパーソナルな空間に入り込んで撮ってきたものを、日本や世界で公開することの意味はなんなのかということを、自分たちの中で深く考え抜いてからじゃないと放送はできません。少しやり方を間違えればただの暴力装置、搾取の装置になってしまいます。
その“意味”にはいくつかの主体が想定されます。取材を受けてくれた人にとっての“意味”と、見る人にとっての“意味”。誰かに何か伝えたいことがある(それは本人さえ意識したこともなかったかもしれない)、あるいは我々にとって知るべき何かがある、ということ。例えば第1弾の放送では、「悪人は本当にすっかり悪人なのか。真っ黒なのか。」と言うことを番組全体として問いかける形になりました。そういう意味では、計算というよりも意識、努力というよりは度胸ですね。最低限の度胸がないとやっぱりこのロケは難しいかもしれません。
――大義的な話で言うと、「飯から世界が見えてくる」というコンセプトを掲げていますよね。これは最初からかなり意識していたんですか?
「飯を見せてくれませんか?」っていうのは「生活に密着させてくれませんか?」とか「どんな人生を歩んできたんですか?」とか聞くよりもスッと入りやすいんですよね。受ける側としても結構ハードルが低い。「ちょっと飯食いに行かない?」みたいな感じなので。そういう取材の入り口のツールとしての汎用性の高さがまずはあります。
そして、どんな人でもほとんどの行動は飯を食うためにやっていることだから、飯を通してその人の人生が見えてくる、必然的にその社会を見るのぞき窓にもなると思ったんです。最初は結構目測だったんですけど、実際にロケをしてみたら思っていたよりも見えてきたという感じですね。初回で密着した人がお金を持っていないその日暮らしの人で、お金を稼ぐという瞬間に立ち会えて、その金で食う飯についていくことで、その国の姿が見えてきた。そのおかげで番組の形ができました。とても運が良かったんです。
――国や地域によって違うと思うのですが、皆さん飯の取材は受けてくれるものなんですか?
ダメと言われることはすごく少ないですね。国の機関に勤めている人など、ある公的な立場にある人、外面をパキっと作っている人はなかなか見せてくれないことが多い。やっぱり、飯の瞬間はパブリックの真逆でもある。そういう意味では台湾マフィアの組長のところに行けたのは良かったですね。いきなり事務所に突っ込んでいったらやられるだけなので、現地のルートから可能性を探って、「飯だけ撮りたいんです!」って言ったら「飯ならいいよ」みたいな(笑)
――その台湾マフィアには、飯についてだけでなく、結果いろんな話を聞けましたよね。
結局そういうことだと思うんですよね。みんなで飯食いながら酒飲んでたら、窮屈な何かが取っ払われる瞬間ってあるじゃないですか。それこそが飯のなせる技ですよね。やっぱり飯のパワーって底知れないと思います。そうやって心を開かせることもそうだし、表情だって今までしかめ面だった人が笑うこともあれば、逆にそれまで仲良くやってたはずなのに飯食った瞬間に険しくなるパターンもあったし。いろいろ見えてきて面白いですね。
――増田さんがもう1つおっしゃっていたのは「社内にタープを張ってキャンプみたいな態勢で編集してると聞いたことがある」と(笑)。この真偽はいかがでしょうか?
尾ひれつきましたね(笑)。僕、そんなおかしな人じゃないですよ。ビジュアルで損してますけど、テレビ東京の中では一番まともな部類だと思ってます。もっと狂った人いっぱいいますから(笑)。ただ、僕は山登りをするんですよ。テント背負って1週間くらい山に入ったりするんで、その話と合わさったのかもしれない(笑)
――そういう冒険とか、海外に行くのはもともと好きだったんですか?
そうですね。学生時代はバックパックを背負って東南アジア行くみたいなベタなことやってましたし、テント背負ってアラスカの山に2週間くらい入ったりとかもやってました。そもそも外側の世界に興味があって、行ったことのないところに行くとか、見たことのないものを見るっていうのが好きで、そのための労力やコスト、リスクをいとわない部分があったんです。テレビの大きな役割の1つに、視聴者が見られないものを代わりに見てきて、それを見せるということがあると思うので、それができたこの番組は、僕の適性とテレビの役割がうまく合致した結果だと思っています。
■「会社辞めても…」の意識で人脈形成
――入社してからは、どんな番組を担当していたんですか?
最初は『ありえへん∞世界』という番組に配属されました。ごくまれに海外ロケがあったんですけど、当時テレビ制作の一番下っ端であるAD(アシスタント・ディレクター)で、ほとんどしゃべれないんですが「中国語できます」って大口叩いて、中国ロケにくっついて行くなんてことを繰り返していました。結果、「海外系のロケはカミデにやらせるか」みたいなキャラクターになっていったんですよ。やっぱり海外ロケと国内のロケは勝手がだいぶ違うので、何度か海外ロケに行っているADは結構重宝されたんです。
それで、『世界ナゼそこに?日本人』という番組が立ち上がって、ディレクターになっていろんな国に自分で行けるようになりました。この番組は外国に住む日本人を紹介する前に、その国の情報を伝えるブロックが10分くらいあるんですね。僕は赤道ギニアとかマラウイとかガイアナとか、事前のリサーチで何も上がってこないような国を選んで積極的に行くようにしてたんですけど、実際に現地に行くと10分では絶対収まらない面白いものがたくさんあるんです。その中で、「これをこんなふうに料理するんだ」とか、「これが食べ物になるんだ」とかいろんなものを目にして、そういう知恵やそこで生きてる人たちのエネルギーを番組にしたいなぁってずっと思っていました。
――そこから『ハイパーハードボイルドグルメリポート』につながっていくんですね。
そのとき、貧困街やいわゆるスラムにもよく行っていて。その日暮らしの家族が金もないのにゴミ蹴ったり服脱がせあったりしてワーワー楽しそうに暮らしているんですよね。日本ではいくら金があっても幸せじゃないってボヤいている人が大勢いるのにな…と思ったときに、こういうことをテレビでは取り上げないといけないんじゃないかなと思ったんです。日本人がいつのまにか捉われがちな「こうじゃなきゃ幸せじゃない」っていう当為みたいなものを壊したいなって。これも“大義”の部分ですけど、どうにか番組にしたいなと。
――MCの小籔千豊さんがよく「よくこういうツテがあるね」と感心されていますが、取材協力者は『世界ナゼそこに?日本人』で培った人脈も生きているんですか?
それもすごくありましたね。あの番組でロケに行くたびに、会社辞めてもいつかこの国に1人で来て何かできるようにしようと思って、現地の人と意識的につながりを作っていました。
――この番組のロケも、日本から1人で行かれてるんですよね。
日本を出るときはどのロケも1人です。両手でカメラを持っていきます。左手はGoProで広い画角の画や自分込みの画を撮って、右手は運動会用でお父さんが使うハンディカムを持って、首から一眼レフ下げてみたいな感じで(笑)
――テレ東さんとして、危険な場所に1人で行くのは問題にならなかったんですか?
そこはめちゃくちゃ大問題でした(笑)。最初にOAした後に、偉い人たちが「聞いてないぞ!?」「なんだ!?」「こんな番組はもうやめろ」って。そうは言うけど、一番ケガしたくないのは僕自身だし、死ぬのなんて真っ平御免なので、安全には相当の配慮をしています。その後は社内で賛同してくれる一部の人と話をつけて半分ゲリラ的にロケ行って放送したり。だけど去年の第3弾から1年眠らせられたので、もうできないのかなと思ってたんですが、今回は突然ゴールデンなんてえらい話がヌルっと出てきました。