もっと寛容で笑いにあふれた社会になれば
――今後こういう番組を作ってみたいという構想はありますか?
いっぱいありすぎて悩みますね…。僕、本当に企画書いっぱい書くんですよ。この間も企画募集があって30本ぐらい出したんですけど、出しすぎて結構嫌がられて(笑)。そうですね…これはぜひ他局さんにパクらないでほしいんですけど(笑)、平成で最後に生まれる子どもを調査する番組をやりたいです。平成がもうすぐ終わるじゃないですか。その時に平成最後に生まれた人って誰なんだろなっていうのを、今ずっと考えていて。全部の産婦人科にカメラ持っていって張り込んで、23時59分に生まれた人をまず撮って、その人に向けて見せたかった平成の時代というものの誇りをVTRにして、元号が変わった24時に流す番組をつくりたいなあと思っています。
テレ東だけではお金足りなそうなので、ご興味のあるスポンサーの方、あるいはお金いっぱい持っていそうで、一緒に組んでくださりそうな、アマゾンとか、AbemaTVの方とか、藤田社長とか、そのあたりの方。ご興味ありましたら、よろしくお願いいたします(笑)
――ここで出資を募られるとは(笑)。ところで今、『短期集中講座~嫌いな人を好きになる方法~』(3月21日最終話)の演出も担当されていますよね。
なんか本当に、世の中がギスギスしているなと思う生きづらさが最近あって。僕は、世の中がもっと寛容で笑いにあふれた社会になればいいなと思っています。例えば、最近話題になっている公文書の書き換えとかも、もし事実なら相応の処罰は必要だとは思います。でも、どうしてもドキュメンタリーやバラエティを作っている普段のクセで、そうした行動に出てしまった人間の弱さや、その背後で抱えていた組織人としての苦悩だとか、いろいろなものを想像してしまいますし、そうした部分に人間くささとか、共感を覚えてしまいます。僕自身がクズで、卑怯で、ダメな弱い人間なので。
だから、本当はそこまで、相応以上にみんなでたたかなくても…そんな風に思っちゃうんですね。本当はダメなのかもしれないけど。その裏側にある弱さとかを、理解できるようになりたいなと。そうした思いをこめて、身の回りにいる、ウザい人がどうしてそういうウザさを身につけたのか、その背後を想像してみて、その人を少しは好きになれればいいな。さらに言えば、必要な分の対応が済めば、あとはそれを笑い飛ばせるくらいの社会になればいいな、という思いを込めてつくりました。
笑いを常にまぶしていく
――そんな高橋さんが影響を受けたテレビ番組を1本挙げるとすれば何ですか?
昔、『NHKスペシャル』で、『中国~12億人の改革開放』というシリーズがあって、その中に『福建発 ニューヨーク行き』という回があったんです。これは、当時の改革開放で中国からあぶれ出てニューヨークに来た人を密着するというドキュメンタリーなんですが、有名人でもない、華があるわけでもない人の這いつくばったような生き様を、ちゃんと描いてて、それがすごく好きで心に残っていたんですよ。それを見て、大学で中国語を学ぼうと思ったくらい。で、会社に入ってその番組をもう1回調べたら、それはテレビの人が作ったんじゃなくて、森田靖郎さんというノンフィクション作家の人がディレクターだったんです。
――ノンフィクション作家の方が!
テレビマンって雑誌やどこかで紹介されたある情報を流すような雰囲気もありましたし、研究者や書籍の情報って本当にすごいので、そういう方のお力を借りつつ番組を作ることは、もちろん僕も多々あったんですけど、テレビ業界に入って、自分が影響受けた番組は、作家の方が本気でテレビを作ったもので、すごいなと思ったんですよね。それから、全部が全部そうはいかないけれど、なるべく足を使って現場の取材をしてみようとか、今まで見たことないものを見せるというのを心がけるようにはしています。『家、ついて行ってイイですか?』も、絶対ネットには載ってない生の情報を足で取材するという面ではその思いの延長線上にあります。この業界を目指すきっかけもそうだったし、業界に入ってあらためて意識させてくれた番組でもあるので、結構印象に残ってますね。
――ぜひ見てみたいです。
僕は、活字の方をとても尊敬しています。そのクオリティを映像で表現したら、すごいものができるんじゃないかと思うんです。テレビって、台本書くし、映像もあって音楽もあって、人やお金のマネジメントもあって、どうしてもやることが多いんですよね。そうすると、どうしても活字の部分が疎かになるんです。でも、ここをグッと踏ん張って頑張ると、すごく良いクオリティで影響力のあるものを作り出せるんじゃないかなと思います。
――たしかに、『吉木りさに怒られたい』もそういう部分が伝わってきます。あの番組は硬い情報の中に笑いのテイストを入れている印象です。
そこは、なるべくこだわりたいです。テレビ番組というものに対して思うのは、僕は真面目なドキュメンタリーが好きだし、戦争とか中国とか世界情勢に興味があったから『福建発 ニューヨーク行き』を見たんですけど、やっぱり興味ある人だけに見てもらえればいいということではない、ということです。それでは、興味のある人が興味のある番組をみて、自分の考えを補強する…同じような思想を再生産してるだけじゃないですか。だから、クオリティの高いものを、なるべく興味のない多くの人に見てもらう努力をするのがテレビの役割だと思うんです。そのためには、やっぱり笑いがないと見られない。だから笑いを常にまぶしていくようにしています。『家―』も、どんなに深刻な話でも、最後はなるべく笑顔になれるようなものにしていきたいと思いますね。
――その笑いの部分を、大木さんと矢作さんが担保してくれる部分もあるんですね。
おっしゃるとおりで、最低限の笑いはあの2人が作ってくれるんですよね。しかも、病気とか人生で困難を抱えている人を傷つけない笑いが作れるんです。そこは本当にすごいなと思います。
――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている"テレビ屋"をお伺いしたいのですが…
脚本家の古沢良太さんが、大好きです。絶対に比べてはいけない次元なんですけど、僕も普段から、世相に皮肉を入れながら笑い作るのが好きで…『リーガルハイ』は、本当にすごいし大好きな脚本でした。で、絶対に比べてはいけないんですけど、今回の『嫌いな人を好きになる方法』もそういう思いでつくりました。もちろんそういう系じゃない『ALWAYS 三丁目の夕日』とかも好きで…どうやって、物語を作っていくのか伺ってみたいです。