注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて"テレビ屋"と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。
今回の"テレビ屋"は、テレビ東京系バラエティ番組『家、ついて行ってイイですか?』(毎週水曜21:00~)の演出・プロデューサーを務める高橋弘樹氏。一般人の家について行くという前代未聞のドキュメントバラエティの背景には、「絶対ネットには載ってない生の情報を足で取材する」というこだわりがあった――。
テレビの力を借りて欲求を実現したい
――当連載に前回登場したTBS『クレイジージャーニー』の横井雄一郎さんが「高橋弘樹さんが作るものはいつも面白いですね。作り手の色、個性を感じるものばかりで、それは高橋さんが一番面白いと思ってることをちゃんと形にしていて、それがエンタテイメントとして面白いからすごく勉強になります」とおっしゃっていました。
ありがたいけど、普段あまり褒められなれていないので、居心地が悪いですね(笑)。『クレイジージャーニー』は結構好きで見ていて、あれは本当にすごいなと思ってます。たぶん、ああいう番組っていろんなディレクターがやってみたいと思うんですよ。でも誰もできなかった。それをさまざまな工夫と、独自の演出で実現した力が、横井さんはすごい。コンプライアンスも言われると思うんですけど、ジャーニーに密着するという形をとることでリスクもちゃんとマネジメントしてるし、面白いなと思って見てましたし、お名前も知ってました。
――早速、『家、ついて行ってイイですか?』についてお話を伺っていきたいのですが、企画のきっかけは何だったのですか?
もともと番組を作るときに、僕は自分でやりたい欲求をテレビの力を借りて実現したいという思いがあるんですね。ある日、夜中にふと夜中の他人の家を拝見する機会があって、そこにいる人妻が美人でかわいかったんですよ。その"すっぴん"が見たくて「これだ!テレビで見たことない!」と思って、『あなたの奥さん見せてください』っていう企画書を書いたんです。でも、奥さんだけだとなかなか展開がないということで、奥さんを見る大義名分として『家、ついて行ってイイですか?』ということになりました。番組作りにおいて、見たことのないものを見たいという思いもあって、横井さんみたいに秘境に行くのも大好きなんですけど、身の回りにある見たことのないもので、"人妻"にビビッときました。
――そのツールとして、終電を逃した人にタクシー代を渡すというアイデアはどのように出てきたんですか?
家に行くからには、片付けをしてない家がいいなと思ったんです。以前、『空から日本を見てみよう』をやっていたときに、空から見て変な形の家を取材させてもらうことがあったんですけど、事前に下見に行くとみんな家の中をきれいに片付けてしまうんですよ。そのよそ行きな感じが好きじゃなかったんです。本当は汚れているのが素なのに、お客さんが来て片付けてしまったら、のぞき見する感じがしないので、やっぱりすぐついていかなきゃいけない。そのためには、仕事が終わっていて、かつ、なにか対価がないといけないと思って、僕自身も終電を逃すことが多かったので、タクシーという対価が成立すると考えたんです。
――終電を逃した旦那さんを捕まえたら、旦那さんが家に連れてきてもいいかと奥さんに許可を得る電話をするじゃないですか。その時に、家を片さないでほしいと伝えてもらうんですか?
そこは言わないです。正直、その時間じゃ片しきれないですよ。片そうとするのも人柄だし、結局片付けたものをしまった押入れも見せてくれるんですよね(笑)
――ベロンベロンで終電を逃してOKをもらったのに、酔いがさめて後日「やっぱり放送しないでくれ」とお願いされることもあるですか?
あります。やっぱり多いですよ。その時のことを覚えてない方もいるし、冷静になって会社のことを考えたりして後悔する人も結構います。でも、これはしょうがないですよね。やはりわれわれの番組は、視聴者の方、そして取材対象者方ありきですから、そうなったら放送しません。
番組知名度向上も断られる回数が…
――これまでついて行った中で、印象に残ったのはどんな人ですか?
方向性は2つあるんですが、1つは自分と全く違う生活をしてる人ですね。徳島の銭湯でロケをしてたんですけど、ついていったら日本で一夫多妻制的な生活を実現してる人だったんです。家を2軒持っていて、奥さんも子供もみんな一緒に住んでて幸せだったりするんですよね。その人は特段テレビに出たいっていう願望もなくて、人に見せるために一夫多妻制にしてるわけじゃないんです。よく大家族番組を見るんですけど、あれってやっぱり見てもらうためにやってるようなところもあるので、リアルな一夫多妻制を見たのが印象的でしたね。
もう1つは、意外な一面が見られた時。例えば、すごい派手で遊びまくってたようなギャルっぽい人が、実はガンを患ったことがあって、闘病しながらアロマの資格を目指しているといった真面目な一面が垣間見えたんです。普段街にいたら、ちょっと交わらないような人たちの裏の面が見えたときは、興味深いですね。
――断られることも多いでしょうし、相当取材の数を回しているんじゃないかと思うのですが…。
ロケ数で言うと、月に400~500回。1日に10から15回くらいですね。それでも、最近はなかなか家までついて行けないです。
――番組の知名度が上がって、やりやすくなったんじゃないんですか?
僕もそうなると思ったんですよ。怪しい人じゃなくなったので、以前に比べて、インタビューの食いつきは良くなったんですけど、いざ付いていくとなると本当に断られる回数が増えて…。やっぱり、家の隅々まで見られるっていうのも知られて、警戒されちゃってますね。そりゃそうですよね(笑)。番組の知名度が上がったので、嫌だと言う人も多いです。以前は月に300回だったんですけどそこから増えて、ディレクターも40~50人いますからね。『24時間テレビ』より多いんじゃないですか(笑)。でも、制作費がかかるのは、ほとんどそこだけですからね。タレントさんもそんなにいるわけじゃないし、セットを組んでるわけでもない。お金のバランスを変えて、人間で作ってるみたいなところです。