注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて"テレビ屋"と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく>連載インタビュー「テレビ屋の声」。
今回の"テレビ屋"は、テレビ朝日のバラエティ番組『アメトーーク!』(毎週木曜23:15~)、『日曜もアメトーーク!』(毎週日曜18:57~)、『金曜★ロンドンハーツ』(毎週金曜21:00~)で演出とゼネラルプロデューサー(GP)務める加地倫三氏。いずれも長寿番組の域に入った昨年、週2回放送と放送枠変更という大きな環境変化があったが、これは現場の加地氏からも志願したことだったという。その狙いとは――。
一番苦しいのは類似番組が出てくる時
――当連載に前回登場したMBSの水野雅之さんが、総合演出を担当する『プレバト!!』『林先生が驚く初耳学!』という2つの番組を走らせる中で、今後ぶち当たる壁があれば、『アメトーーク!』と『ロンドンハーツ』が長寿番組の域に入った加地さんに教えてほしいと話していました。
番組を長くやってると、視聴率とか色々と苦しくなってくる時が来ると思うんです。でも意外と、面白がって開き直って作った企画の方が、つらい時に救ってくれるもんなんです。やっぱり、追い詰められて思いつく企画って大したことないんですよ。ポジティブに作ったものの方が中身も結果もついてくる。最後は開き直り。僕なんて追い詰められて、悩んで、開き直って、その繰り返しですよ(笑)
――『ロンハー』が一般の方の恋愛というテーマから変わるタイミングで、「格付けしあう女たち」が生まれた聞きました。
あれも、誰かのちょっとした案から、どんどんポジティブにクリエイティブが積み重なって決まったんです。それまでの9週間くらいずっと数字が悪かったんですけど、考えてる間は「あー面白そうだねー」という感じで、会議中は不思議と追い込まれてるという雰囲気は全くなかったですね。そしたら、ビックリするくらいの高視聴率で(笑)
――『アメトーーク!』もそういう危機はあったんですか?
終わりそうなとこまで行ったことはないですが、いつも飽きとの戦いです。でも、『アメトーーク!』も楽しんでやれてる時の方が圧倒的に中身も反響も良いんで、なるべくノリ良く企画を考えるようにしてます。
――どういう時に良い企画が思いついたりするんですか?
本当に思いつきなんですよね。綾部(祐二)がアメリカに行くって聞いた瞬間に、「さよなら綾部」ってタイトル込みで思いついたりとか。そういう企画の時、会議中ずっと楽しくて、メンバーから否定の意見もあまり出ないんですよ。ノリよくやりすぎて、失敗する時もありますけど(笑)
特に『アメトーーク!』は、スタッフも演者も楽しそうに作ってるっていうのが見えた企画の方が、視聴者にも面白そうに映ると思っているんで、なるべくそういうノリみたいなのは大事にしています。でも、長くやってるとだんだん自分たちも知らないうちに「番組の形(カタ)」が変わってきちゃうんです。野球選手が、自分の悪いスイングに気づいてない時があるように、どこかでチェックしなきゃいけない。だから、『アメトーーク!』の一番良いものって何かなとか、基本って何かなとか時々振り返って、それにハマるような企画を考えたりとかもします。
――『プレバト!!』や『初耳学』にもそんな時が来ると。
細かい計算や小さな発明がたくさんあって成功して今の成功があるはずなんですが、その面白さが視聴者はだんだん当たり前になって、ハードルが上がってきてしまう。面白いものが面白く感じてもらえなくなる。その時、どう軌道修正するのか、全く違う道を選ぶのか、元々の良さを守っていくのか、その判断がとても難しい。
そして、一番苦しいのは、類似番組が出てくる時。どの業界もそうじゃないですか、どこかが革命的な新商品を出したら他社も同類の商品を出してくる。バラエティの場合、オリジナルをうまくアレンジしてオリジナリティーを出してくるので、後からできた番組は、パクってるという印象より、新鮮な番組に感じられることがあるんですよね。それはオリジナルとしては本当につらい。だから、『プレバト!!』をうまくアレンジした番組が出てくる時は要注意。でも、これだけのヒット番組だから、絶対に出てくる。それは覚悟した方がいいと思います。
1年やってみて想像以上にしんどい(笑)
――番組が長くなってくると飽きられるという意識がある中で、『アメトーーク!』は、昨年の秋からゴールデンでも放送して週2回なったわけじゃないですか。この体制が決まったときの心境は、いかがでしたか?
あれは自分から言ったんですよ。木曜からゴールデンに上がるより、2本で走らせたいって。
――そうなんですか!?
はい。ゴールデンはタイトルに「日曜も」って付いてる通り、木曜が下町の食堂の本店で、そこが「こっちでも店出さないか」って言われて、渋谷とか恵比寿にも出店したみたいな。同じことをずっとやってると、自分たちの思考がマンネリ化して、凝り固まってきちゃう。だからゴールデンも毎週あるということが刺激になって、また木曜から新しいものが生まれるきっかけになればと思っていて。木曜だけやってた方が楽なんですが、やっぱり楽してるとどんどんダメになっちゃう。これはいいきっかけだなぁと思ってやったんですけど、1年やってみて、想像以上にしんどいです(笑)
――収録はどういうスケジュールで進行してるんですか?
もともとは月に3回撮ってたんですけど、それを4回にしてやってます。それで放送分が足りない時も結構あって、そんな時は収録10日前くらいに必死に企画を考え始めて、無理矢理仕込んで、キャスティングPに演者を押さえてもらって、何とか間に合わせてます(笑)
――それでも、日曜ゴールデンは激戦区と言われる中で、9月17日の2時間スペシャルで14.0%(ビデオリサーチ調べ・関東地区)という高視聴率をマークしました。
レギュラー放送はそんなに獲れてないです(笑)。でも、正直もうちょっといけると思ったんです、最初に引き受けたときは。もう2~3%くらいは獲れて、楽にできるかなと思ってたんですけど、あれあれ?みたいな感じで(笑)。これまでいろんなパターンをやってみて、最初は日曜の7時ならこういうのが合うんじゃないかとかゴールデンを意識した企画も多かったんですけど、結局何やってもあまり結果は変わらないんです。だからまずは『アメトーーク!』らしさを失わないように、ブランドイメージがあまり傷つかないようにしたいと思って、今は開き直って深夜っぽい企画もやってます(笑)
――木曜用と日曜用で、企画はそれぞれ考えてるんですか?
頭の中が、ごちゃごちゃになっちゃうんで、木曜と日曜の会議は分けてるんで。でも日曜の会議で思いついて、でもこれは木曜の方がいいなとか、その逆もありますし、木曜で仕込んでたけど、キャスティングが良かったんで日曜に変えたりとか、そういうこともありますね。
――さすがに収録本番の時は、どっちの曜日か決まってるんですよね?
今のところは無いですけど、スタジオセットは全く一緒なんで、撮ってみて入れ替えられるようにはしています。ただ、「これ日曜用ね」って演者に言わないと、コバ(ケンドーコバヤシ)あたりがうっかり下ネタ言っちゃったりするんで、きちんと伝えますけど(笑)
一歩引く雨上がり決死隊
――あらためて、『アメトーーク!』が長くヒットしてる理由というのは、どう分析していますか?
基本は終わらせないっていうモットーでやってるので、ヒットした企画をあまり乱発しない。どうしたら飽きられないかっていうのは、すごく気を遣っています。ヒット企画を続ける方が作るのも楽だし、結果もいいんですけど、数字が下がったり、撮れ高が悪くても、やっぱり「新しいことを考え続ける」ことが大切。これは『ロンハー』でも、常に心がけていますね。
――雨上がり決死隊さんのすごさというのは、どんなところで感じていますか?
これは出川(哲朗)さんがよく言ってるんですけど、雨上がり(決死隊)が一歩引いたことだと思うんです。自分たちが目立つんじゃなくて、ゲストが目立つよう、ホスト役に徹する。だから、あまりしゃべってなくて、笑ってばかりの時もあるんです。例えば、大御所がMCだと、ゲストはそのMCがさばくリズムとかに合わせてしゃべったりするんです。でも、『アメトーーク!』の場合は、雨上がりに気を遣わなくていいから、それがすごくやりやすいみたいです。それでいて、周りをよく見ているので、しゃべってない演者に振ってあげたり、いじったりしてくれています。