3月16日と17日の2日間、福岡県のヒルトン福岡シーホークで、VC「B Dash Ventures」が主催するスタートアップの招待制イベント「B Dash Camp 2017Spring in Fukuoka」が開催された。

16日に行われたセッション「インターネットビジネス、グローバルでの戦い方」では、モデレーターがグリーの代表取締役社長 田中 良和氏、スピーカーとしてFacebook Japan 代表取締役の長谷川 晋氏、メルカリの創業者でCEOの山田 進太郎氏、LINEの元代表取締役社長でC Channnelの創業者、代表取締役社長の森川 亮氏が登壇した。

3名はそれぞれの視点で、グローバルを目指す起業家に対してそれぞれの知見と成功事例、苦悩などを語った。すでに一部メディアで書き起こし記事が出ていることから、筆者の目線で、それぞれのスピーカーが伝えたかったポイントをかいつまんで紹介しよう。

Facebook Japan 長谷川氏の場合

Facebook Japan 代表取締役 長谷川 晋氏

実名制SNSで絶対王者のFacebookは、世界で18.6億人、日本でも2700万人が毎月利用している。また、同じく月間利用者6億人を誇るビジュアルSNS「Instagram」や、北米で断トツの利用者を誇るメッセージングアプリ「WhatsApp」も傘下に収めており、コミュニケーションサービスのすべてを握ると言っても過言ではないだろう。

長谷川氏は、その日本法人の代表取締役社長だが、日本法人ではローカライズのほかに、Facebook広告による顧客支援を行っている。大手企業はもちろんのこと、スタートアップやスモールビジネスであっても日本法人(+代理店)がサポートしており、むしろそうした企業の方が”よりグローバルに”展開しやすいと語る(関連記事 : Instagram広告の何が良いのか、Facebookに聞いてみた)。

その根拠は、やはり「18.6億人」というユーザーリストを抱えている点だろう。ユーザーの居住地や性別、年齢などを細かくターゲティングできるため、ページのいいねなどの傾向から、より自社の強みに沿った形で広告を打てる。ただ、Facebookにも失敗があった。それは「モバイルシフト」への対応遅れだ。

すでに5年前となった2012年はスマートフォンが急激に伸長している時期であったものの、Facebookは利用者比率で依然としてデスクトップが過半数を占めていた。収益性の向上や利用者の伸びからモバイルシフトへの対応を求められていた中で「社を挙げてモバイルファーストにかじを切り、今や90%以上のユーザーがモバイルデバイスでアクセスしている」(長谷川氏)そうだ。

「1人1スマホ」時代において、現在急速にユーザー数を伸ばしているのがアジア圏だという。「次の1ビリオン(10億人)はアジアだと考えている」(長谷川氏)。長谷川氏は、こうした市場で「顧客へアプローチする時に気をつけたいポイント」と以下の3点を挙げた。

  • テキストからビジュアル(写真)、動画へ
  • ローカルへのチューニング
  • ストーリーテリング

モバイルシフトは、その小さなディスプレイの中で「いかに顧客を惹きつけるか」が勘所だ。テキストは読み流されてしまう時代、顧客に対していかに直感で反応してもらうかを考えなければならず、写真や動画といった短時間で記憶に残す手法を意識する必要がある。

ローカルへのチューニングと、本国からアプローチできる時代のマーケティング

一方の「ローカルへのチューニング」では、Facebookの自社体験が大きな根拠となっている。前述の通り、Facebook Japanを始めとする海外支社は言語のローカライズや現地のマーケティング支援を行う。そのため、開発はアメリカの開発拠点で、ビジネスパートナーとの折衝は現地法人と、権限委譲が進んでいると長谷川氏は話す。

「もちろん、Facebookの視点がすべてではないし、結論としていろんなビジネスモデルがある。さまざまな顧客と話している中で感じることは、本社(日本)でやれることがとても増えている。私が事業会社にいた時、アジアを攻める時は現地でメディアバイイングからマーケまですべてを行っていたが、デジタル化の進展でPCやスマホで直接出稿できるし、テレビ会議だってできる。

じゃあすべてがそれで良いのかと言えば、それもまた違うと思う。例えば、北米市場を狙う場合、住んでいる地域や人種、年齢でライフスタイルがまったく違う。『アメリカ』で考えるのではなく、クラスタ単位で異なるアプローチを取らなければならない。もちろん、Facebookでは、ユーザーインサイトで分布構成などを把握できるが、ブランディングは本社で担いつつ、現地の機微は現地でと、やった方が良いかもしれない」(長谷川氏)

ちなみに、ローカライズで言えば技術面も大切だと長谷川氏。Facebookでは1つのPFでさまざまな国に最適化している。「毎週製品チューニングを行っているが、単に『モバイルアプリ』を作るだけで勝てるほど甘くない。日本は通信環境が整っているが、多くの国はネット回線がそれほど早くない。そうした環境でもサクサク使えるようにチューニングしつつ、18.6億人それぞれにあわせたコンテンツ表示の仕組みも組んでいるのがFacebookだ」(長谷川氏)。

最後の「ストーリーテリング」は、潤沢に資金を持っていない企業であってもスケールできる可能性を秘めている。

「ドイツ・ベルリンで木の家具を作ってる会社があった。一回の地域のお店でしかなかったが、店主の息子が『Facebookでベルリン以外にも広告を』と打ったところ、結果としてビジネスがスケールして、他国店舗を含めて5店舗にまで拡大した。決して潤沢な資金を用意しないと海外展開できないわけじゃなく、広告の効果を検証しつつ、やりたいことにフォーカスして展開を考えるのも良い。

僕の中ではもう一つ、ニュージーランドの観光局が”お金の使い方”でいい例だと考えている。もちろん、政府機関だから、死ぬほどお金があるわけじゃない。そこで観光局は、モバイルにフォーカスして『ストーリーテリング』を重要視した。世界中にニュージーランドの良さをストーリーとして打ち出すことでやりきることにフォーカスした。どこでどう伝えるか、政府であっても(考えやターゲットを)絞りきることでうまく回る好例だ。

東京オリンピックに向けて、日本もアテンションが高まりつつあるものの、この期間にプロダクトやブランドを経験してもらわないと、もしかすると2020年が終わると同時に日本経済も……という可能性がある。グローバルにファンを作り、日本のサービスを受け入れられるように頑張って欲しいし、私たちもサポートできればと考えている」(長谷川氏)

メルカリ 山田氏の場合

メルカリ 創業者 CEO 山田 進太郎氏

メルカリの山田氏は、2001年に写真共有サービス「フォト蔵」などを手掛けたウノウを設立。しかし2010年に売却し、2013年2月に現代表のメルカリを立ち上げた。メルカリは日米ダウンロード数が6000万件を超える人気C2Cアプリで、つい先日にはイギリスでの提供開始を発表した。こうしたWebサービスで「日本発」の代表的な成功例といってもいいだろう。

山田氏はアメリカを目指した理由について、「イーベイというネットオークションサービスがあるが、あの会社はアメリカとヨーロッパで8~9割の収益を上げている。アメリカで成功できればヨーロッパも取れるということでアメリカから攻めた。インターネットは世界中につながっているし、ロマンを求めて『全世界で使えるサービスを』という気持ちでやっている」と話す。

グリー田中氏は「メルカリ立ち上げ当初は、すでにグローバルプレイヤーが確立されたタイミング。ロマンだけでできることはあるのか?」と山田氏に尋ねた。これに対して山田氏は「GoogleやFacebookのサービスを『作れるのか』という観点で見ると、”遠さ”はあるけど、出来なくないものだと思っている。メルカリは、ダイレクトなコンペティター(競合)がいなくて、モデル(仕組み)が同じサービスがない。海外に出た時、まだまだチャンスが有る、良いサービスを提供できるんじゃないかという思いが強い」と答えた。

山田氏が海外進出するにあたって注力、意識してるポイントは以下の3点にまとめられる。

  • 現地の感覚をつかむ
  • 日本の強みを活かす
  • 経験

山田氏はイギリスへの進出もあって海外出張を繰り返していた。ただ、出張だけでなく「今は、かなり海外に行っている。まるまる1カ月いない時もある。来期はもっと海外へ行く機会を増やしたいと思ってるし、何も用事がなくても行くことを大事にしてる。僕は出張とか、旅行が好きだけど海外は好きじゃない(笑)。だから、行くたびに億劫だけど、現地のスタートアップ、現地の人と話すことを大事にする。時間もそうだけど、それ以上に頻度が大事」(山田氏)としていた。

現地との融合を大切に

グリー 代表取締役社長 田中 良和氏

日本の強みについては、自社の開発陣がほとんど日本人で構成されている経験によるものもある。アメリカ拠点では、オペレーションやカスタマーサポートこそ、「100%アメリカの現地人」(山田氏)。ただ、グローバル版アプリのロンチ時からアプリ開発はUIを現地の傾向にあわせたのみで、日本人が開発していたことには変わりない。ただ、アメリカでプロダクトマネージャーやデザイナーを取り始めており、日本から赴任させている人員も増やしている。「現地と融合させて試して行かないと、グローバルプロダクトは作れない」(山田氏)。”融合”を大事にする理由は、日本で何を作り出すかと山田氏。

「現地でどんどん雇うとなると、別のものが出来上がってしまう。アメリカ人15人と日本人100人が一緒になって、マーケットフィットを目指す。それが日本の強みを活かすことにも繋がるはず。ちょっと話は逸れるが、過去の日本企業が海外でどう成功していたかが重要だと思う。ホンダやソニー、任天堂、トヨタ、彼らはコアを日本で開発してきた。欧米で成功できたのは、日本で圧倒的な技術力を持ち、常に新しいものを生み出したから。その根幹があって、販売戦略やマーケティングが成り立っている。日本ならではの強みをどう世界で展開できるか。

本社がやるべきことは、ローカルでやるべきことのバランスを見て、コミュニケーションを取り続ける。私たちのプラットフォームは、ローカル性と法律の違いで、国によって売れるものが違う。金融レギュレーションやペイメント、ロジスティクスが違うからかなりローカライズしてる。ゲームやソーシャルと比べてかなりローカライズしてる。

今やらなきゃと考えているのは、UIやアーキテクチャの更新。技術面で古くなりつつあるし、US版をガラッと変更しようと思っている。例えばUberやAirbnbは、半年ペースとかで変更している。そうしたトレンドがあって、置いて行かれてるんじゃないかと肌感覚があるから、アメリカのデザイナーと話し、マテリアルデザインとか取り入れて最先端に追いつこうとしてる」(山田氏)(関連記事 : 【連載】Web、モバイルのデザイン新基準「マテリアルデザイン」を学ぼう【第1回】そもそもMaterial Designって?)

では、最後の”経験”とは何か。