DVDのレンタル契約の場合、上記の民法の定める原則以外にも「レンタルショップの利用規約」や、「レンタル商品契約書」等において、借主のレンタル利用者登録を行ったうえで、転貸が厳格に禁止されている可能性が高いと考えられます。無断転貸されるとレンタルDVDショップに損害が発生するためです。
そもそもDVDのレンタル契約は、レンタルサービスを提供するショップと1人1人の利用者との間の契約であり、利用者が増え、利用数が増えるほど店側の利益が大きくなる仕組みです。それにもかかわらず、利用者が友人に無断転貸したら、当該友人はショップに賃料(レンタル料)を払わなくてもDVDを見ることができてしまい、ショップにしてみたら「見込み客」を1人失う結果となります。
本件でいうと、ZさんがYさんに無断転貸しなければ、Yさんは自分でレンタル代を払ってDVDを借りる必要があります。しかしZさんがYさんに無断転貸したら、Yさんは無料でDVDを見ることができてしまい、本来払わねばならない利用料の支払いを免れていると考えられます。
さらに、ショップ側とすれば、契約関係になく、ショップが氏名や連絡先を知らない人がDVDを転借することになれば、大切な商品であるDVDが返却されないリスクが高まるといえます。
そこで、DVDやブルーレイ、CDなどのレンタルショップでは、規約等においても「又貸し(転貸)」を禁止しているのです。規約に違反したときの効果は一概には言えませんが、一般的に契約を解除されてDVDなどの対象物を即刻返還する必要があるでしょう。
さらに個別のレンタル契約だけではなく、レンタル利用者登録契約自体を解除されて二度とその店ではDVDなどを借りられなくなってしまう可能性もあります。レンタルDVDの又貸しは法律違反なので、やってはいけません。
Yさんの言い分について
本件で、Yさんは「2人で一緒にDVDを見るのもZさんがYさんに又貸ししてYさんが1人で見るのも同じ」「自分が返せばZさんが返却する手間も省ける」などと言っていますが、この言い分は通らないものでしょうか?
店側にとっては「2人で一緒にDVDを見る」のと「ZさんがYさんに又貸ししてYさんが1人で見る」のはまったく違います。借り主であるZさんとYさんが一緒に見る場合、DVDはZさんの管理下にあるので借り主であるZさんが適切に管理を行いますし、見終わったらYさんは自宅に帰ってDVDから離れます。返却は借りた本人であるZさんが行うので、約束を守って返却期限内に返してもらえると期待できますし、仮に、約束が守られなかった場合、ショップ側は、氏名や連絡先を知っている賃借人であるZさんに連絡するという対応が可能です。
一方、ZさんからYさんへ又貸しされてしまったら、Yさんがきちんと返却期限内に返してくれるかどうかわかりません。Yさんはもともと借りた人ではなく責任を感じていないでしょうから、そのまま放置する可能性もあります。また、仮に、放置されてしまった場合、ショップ側には、Yさんの情報は何もない状況ですので、ショップ側が返却への対応を取ることができなくなってしまいます。
こういった意味で「2人で一緒に見る」のと「又貸しする」のは全く意味が違うのです。そのため、Yさんの言い分は全く理由のないものです。
又貸しされたDVDの破損・延滞の責任はどうなる?
本件でZさんがYさんに無断転貸してYさんがDVDを破損したり返却せずに延滞したりしたら、店は誰にどのような責任を追及できるのでしょうか?
まず店は契約相手であるZさんに対し、債務不履行にもとづく損害賠償請求として、壊れたDVDの修理費用または時価を請求できます。規約によって「新品相当額の請求ができる」と書かれていれば、新品相当額を請求できる可能性もあります。また期限内に返還できなかったら延滞料も発生します。延滞料が新品相当額よりも多額になるケースも多々あります。
またYさんに対しては、不法行為にもとづく損害賠償請求としてDVDの修理費用または時価を請求可能です。
軽い気持ちでDVDの又貸しをすると思ってもいなかったような大きなペナルティを受けてしまう可能性があります。友人から「別にいいじゃん」などと誘われても応じてはいけません。皆さんもお気をつけください。
※記事内で紹介しているストーリーはフィクションです
※写真と本文は関係ありません
監修者プロフィール: 安部直子(あべ なおこ)
東京弁護士会所属。東京・横浜・千葉に拠点を置く弁護士法人『法律事務所オーセンス』にて、主に離婚問題を数多く取り扱う。離婚問題を「家族にとっての再スタート」と考え、依頼者とのコミュニケーションを大切にしながら、依頼者やその子どもが前を向いて再スタートを切れるような解決に努めている。弁護士としての信念は、「ドアは開くまで叩く」。著書に「調査・慰謝料・離婚への最強アドバイス」(中央経済社)がある。