先述のような刑事上の問題以外に、「民事損害賠償」の問題もあります。

確かに購入した商品についての所有権は購入者にあるため、直後に壊したとしても所有権侵害にはならず、「弁償金」を支払う必要はありません。自分の所有物を自分で壊しただけなので、店側には損害が発生していないようにも思えます。

しかし、購入した商品をその場で壊されると、その場にいた客が怯えて帰ってしまうかもしれません。本来購入されるはずだった商品が購入されなければ、店側に損害が発生してしまいます。悪い噂が広まって店の信用が落ち、客足が遠のいて売上げが下がってしまうおそれもあります。このような営業利益の損失は、購入者による商品毀損行為によって引き起こされるものです。購入者に故意が認められる場合、民事上の不法行為が成立する可能性があります(民法709条)。

仮に購入者の故意が認定された場合、店側は商品を壊されたことが原因で発生した売上げ低下分の損害が立証できれば、購入者に賠償請求することが可能です。商品を壊されたときに店の他の備品が壊れたり汚れたりした場合には、そうした物の修理費用や清掃費用も請求できます。また購入者が商品や作品を毀損したことによって、作者や店の名誉が害された場合には、慰謝料を請求できる余地もあります。

例えば、今回の場合でも、ガラス製のグラスについて、その場で「これは盗作だ!」「元々は、俺が作ったものだ!」などと言いながら壊した場合には、刑法上の名誉毀損罪が成立すると共に、民事上も不法行為となって、作者や店は損害賠償を請求できる可能性があります。

「モラルのない行為」は大抵、法的問題をはらむ

世間的に「モラルのない行為」と言われる行為は、大抵何かしらの法的問題をはらんでいるものです。「これは違法ではないだろう」などと軽く考えて迷惑行為をしていると、逮捕されたり損害賠償請求をされたりする可能性もあります。被害者になった場合には、自分の身を守ることのできる法律があることを知っておきましょう。

自己判断で軽率な行為はしないこと、そして被害を受けたときには泣き寝入りをせずに弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

※記事内で紹介しているストーリーはフィクションです

※写真と本文は関係ありません

監修者プロフィール: 安部直子(あべ なおこ)

東京弁護士会所属。東京・横浜・千葉に拠点を置く弁護士法人『法律事務所オーセンス』にて、主に離婚問題を数多く取り扱う。離婚問題を「家族にとっての再スタート」と考え、依頼者とのコミュニケーションを大切にしながら、依頼者やその子どもが前を向いて再スタートを切れるような解決に努めている。弁護士としての信念は、「ドアは開くまで叩く」。著書に「調査・慰謝料・離婚への最強アドバイス」(中央経済社)がある。