器物損壊罪になる可能性は?
「商品や作品を壊した」というと、多くの方が思い浮かべるのが「器物損壊罪」でしょう。
器物損壊罪は、他人の物を毀損したときに成立する犯罪です(刑法261条)。ただ、器物損壊罪が成立するのは「他人の物」を壊した場合であり、「自分の所有物」は対象にならないと考えられています。そこで購入が済んですでに自分の物となっている商品を壊しても、器物損壊罪は成立しません。
名誉毀損罪になる可能性は?
店で購入した商品をその場で壊したら、店に対する「名誉毀損罪」が成立するのでしょうか?
名誉毀損罪は、公然と「事実の摘示」により、他者の社会的評価を低下させたときに成立する犯罪です(刑法230条)。商品を壊す行為は「事実の摘示」に該当しないので、それだけでは名誉毀損罪に該当しません。事実の摘示とは、「事実を言葉や文書などの文言によって示すこと」ですが、単に商品を壊すだけでは「事実を示した」とは言えないからです。
そのため、今回の場合は商品を破壊した相手が、形式的には過失で壊した旨を主張しているため、名誉棄損罪は成立しません。ただし商品や作品を壊すときに、その商品や作品について悪口や誹謗中傷を口にしていた場合は別です。
例えば、「この商品にはカビが生えている」「はじめからこの部分が壊れている。この店は不良品を客に売るのか」などと店の中で大声で言いながら商品を破棄した場合には、「事実の摘示」によって店の社会的評価を毀損しているので、名誉毀損罪が成立する可能性があります。
侮辱罪となる可能性は?
名誉毀損は「事実の摘示」をしないと成立しませんが「侮辱罪」はそうではありません。事実の摘示以外の方法で、他人の社会的評価を低下させると侮辱罪が成立します。ただ、今回の場合、商品を破壊した相手は、あくまでも過失を装っているため、侮辱罪も成立しないでしょう。
暴行罪なる可能性は?
受けとった商品や作品を店員や売主の目の前で壊すと、「暴行罪」となる可能性があります。
暴行罪は「不法な有形力の行使」があったときに成立する犯罪です(刑法208条)。ここで言う「不法な有形力の行使」には、相手の身体に直接暴力を振るう場合だけではなく、大声で怒鳴りつけたり塩や水を振りかけたりすることなども含まれると考えられています。過去には、瓦の破片を投げ、脅かしながら追いかけた行為が「暴行」に該当するとされたこともあります。
そのため、仮に商品を壊した相手が、店主を脅かす意図で商品を意図的に壊したことが立証できた場合、受けとったガラス製のグラスを、店主の目の前で床にたたきつけて壊すことも、相手に対する有形力の行使と評価されて暴行罪となる可能性があります。さらに飛び散った商品の破片などによって店主がけがをした場合には、「傷害罪」が成立する余地もあります(刑法204条)。
暴行罪の罰則は2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料であり、傷害罪の罰則は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金刑となります。
以上のように、店で購入した商品をその場で壊しただけでも、犯罪が成立する可能性があります。その場合、店側が被害届を出したり購入者を刑事告訴したりすると、逮捕されたり刑事裁判となって処罰を受けたりする可能性もあります。