遺産分配でトラブルになりがちなケースは下記のようなものがあります。意外にも、財産が少ない方がトラブルになるようです。
・遺産が少ない……子どもも裕福でないケースや、子どもの1人が親を支援していた金額を請求するケースなど、トラブルは多岐にわたります。
・遺産が分割できない居住用資産が中心……分配しにくい、片方の親がまだ健在で居住しているなどの問題が起きやすいです。
・生前に贈与や支援を受けた相続人がいる……はっきりとした贈与だけでなく、教育費や事業の支援、同居による支援など、兄弟姉妹は意外に差別感を覚えるものです。
・寄与分を主張する相続人がいる……「同居して親の生活費を負担してきた」「介護を担ってきた」などと主張し、遺産を分配してもらおうと考える人も時には見受けられます。
・後妻(夫)と先妻(夫)の子どもが相続人……遺言書が必要なケースです。居住用財産がメインの場合は、後妻は家を追い出されかねません。
トラブルを避けるための準備
相続に関するトラブルを避けるポイントは、「親の財産をあてにしない」「介護負担など、ゆくゆくはトラブルになる事項を事前に相続人間で話し合っておく」の2つです。後から権利を主張すると、トラブルの原因になりかねません。その都度、話し合っておくことがトラブルを避ける最善策と言えるでしょう。
家族間のさまざまな貸借(金銭だけでなく、労力も含めて)は、ビジネスライクに書類化することをお勧めします。親からの借り入れは借用書を作成し、贈与とみなされないように妥当な利子をつけて返済し、振り込み履歴を残すなど、兄弟で公平に割り切ることが必要ではないかと思います。
相続財産に頼らない生活設計を立てる
親の財産をあてにすることがトラブルの主たる要因です。親の財産は親が使い切る権利があります。遺産はあくまでも+αで考えましょう。親も、自身の財産をあてにしない教育を子どもに対して行うことが大切です。これまでの経験則から、親が手厚く過保護な家庭ほど相続でもめるケースが多いと感じています。
財産目録を作っておく
財産の全容がわからないと疑心暗鬼になります。財産の種類と取引金融機関名くらいは、子どもたちにオープンにしておいてもよいと思います。ただし、遺産をあてにすることのないように話しておくことを忘れないでください。
財産の課税評価額を知っておく
自宅は時価と比較して課税価格がかなり低く抑えられます。日本人で相続税を支払う割合は5%くらいでした。現在は相続税の基礎控除額が削減されたため、相続税を支払うケースは増えていると思いますが、相続税を支払う範疇かどうかは把握しておいて方がよいでしょう。
遺産の分配を考えておく
居住用財産などの分けられない財産をどうするかは、あらかじめ話し合っておく方がトラブルになりにくくなります。
遺言書を作っておく
遺言書を書いておいた方がよい家族構成のケースや、財産が多い場合はぜひ遺言書の作成をお勧めします。納税の対策も必要です。通常のケースでも、終活期になったら自分の心覚えにまとめておくことは無駄ではありません。
生前のコミュニケーションが大切
親の老後の対策は「その都度確認」し、日頃から家族間でコミュニケーションをとっておきましょう。住まいの取得など、生前に親から援助を受けた場合は文書に残し、確定申告の書類の写しとともに親と子ども双方で保管しておきましょう。そして、その旨を家族間でオープンにしておくのが望ましいですね。
■ 筆者プロフィール: 佐藤章子
一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。