政府は緊急事態宣言を5月末まで延長することを決めましたが、ここへきて多くの自治体は休業要請や休校の一部解除に動き出しましています。メディアも盛んに「いつ緊急事態宣言の解除?」「出口戦略は?」などの話題を取り上げ、解除ムードが急速に高まっています。

「自粛疲れ」の空気や経済的な打撃などから、「そろそろ解除を」と言う気持ちもわからないではありません。しかし今の空気は解除ムードが過剰になりすぎているように感じます。確かに感染者数はかなり減少してきていますが、ゴールデンウィーク明けの5月7~8日の人出は増加したとのデータがあり、まだまだ安心できる状況ではありません。こうした中で一斉に解除に向けて動き出すことは、再び感染を拡大させる恐れがあるのではないかと心配です。

これについて、3月の教訓、欧米の制限解除の動き、そしてスペイン風邪の教訓という3つの点から警戒が必要です。

正しく伝わらなかった行政の意図

まず第1の警戒すべき点は3月の教訓です。3月の3連休(3月20~22日)の頃に「自粛の緩み」が起きたことはすでによく指摘されているとおりですが、実はその原因は単に3連休というだけではなく、直前の2つの出来事が影響していました。北海道の「独自の緊急事態宣言解除」(19日)と政府の「学校の一斉休校を延長せず」との決定(20日)です。

北海道は全国で最も早く感染が拡大したため、いち早く2月26日に道内の小中学校の一斉臨時休校に踏み切り、同28日には独自の緊急事態宣言を出していましたが、3月19日に緊急事態宣言を解除しました。北海道内の感染者数が減少に転じたこと受けての決定だったのですが、北海道以外の地域からみると「これで安心」と受け取られる面がありました。

そこに重なったのが「休校延長せず」との政府の決定でした。安倍晋三首相が2月27日(北海道の一斉休校の翌日)に打ち出した「全国の小中高を3月2日から春休み期間まで臨時休校」について、3月20日に「春休み以降の休校の延長は求めない」と決定したものです。この決定は「今すぐ再開」ではなく、あくまでも春休みが終わった後、つまり4月の新学期以降の延長は求めないというものでしたが、これも緩和ムードの一因となり、その直後の3連休の人出増加につながりました。

これにはもう一つの要因があります。政府決定の前日の3月19日に開かれた政府の専門家会議が出した提言で、全国を「感染が拡大傾向にある地域」「感染が収束に向かい始めている、並びに一定程度に収まってきている地域」「感染が確認されていない地域」の3つに分けて、それぞれの状況に応じて対応するとの考え方を打ち出しました。この考え方も妥当ではあるのですが、単純ではないため、そのメッセージがやや伝わりにくかったと言えます。

実は、この日の提言では同時に「オーバーシュートの懸念がある」と警鐘を鳴らしていました。その根拠となった非公式の試算をもとに吉村洋文大阪府知事が「3連休は兵庫県との往来を自粛してほしい」と呼びかけ話題になったのですが、メディアなどでは「大阪府知事と兵庫県知事のケンカ」といった次元で受け取られ、専門家会議の警告は軽視されたと言えます。

こうしたことが重なって、3連休で人出が増加し、その後の感染拡大のきっかけになったとみられます。このことは、行政や専門家の意図するメッセージが十分に伝わらない、あるいは誤って受け取られることがないよう十分な注意が必要だということを示しています。メディアの報道のあり方という点でも問題を残したと言えるでしょう。 このように3月の動きを改めて検証してみると、現在の解除ムードの高まりや自粛の緩みなどが再び感染増加につながるのではないかとの危惧を抱かせます。