野原: 皆さんは会社を経営されているので、そういった変化を責任者として肌で感じられているかと思います。経営者としての苦労や苦悩といった面のお話も伺いたいと思います。
長年建設産業で働いてきて、今の時代だからこそ直面している課題や悩みにはどのようなものがあるでしょうか?
小泉: やはり人員不足が常にあります。電気工事の仕事はゼネコンから人数を集めるように求められることが多いですが、希望人数を集めるのが難しくなってきています。
ただ頭数が集まれば誰でもいいというわけではありません。自社で育成していくのはもちろん必要ですが、それでは足りないので、キャリア豊富な人に外注するケースも多くなります。
ただ最近は外注費が上がっているのが悩みどころです。いずれにしてもゼネコンからは品質とスピードを担保できる人を集めるように言われるので、なかなか大変です。
吉富: そうですね。フィルム工事も同じように人手が足りない、見つからないという状態が続いています。私も人手が足りない時には外注でお願いしていますが、やはりどこにいっても若い人がいません。お願いする人は大半が年上の方になり、今でも私が若い部類に入っています。
本当は自分のところで若い従業員を育てられるのが一番良いのでしょうけど、正直難しいです。実は……つい先日、唯一の従業員が辞めたいと言い出してしまって。どうやって若手と付き合い、育てていけばいいのか、本当に難しさを感じています。
野原: 人集めが難しいだけでなく、定着させるのも難しいと。
吉富: そうです。辞める理由はお金であったり休みであったり、いろいろな要素があると思います。もしかしたら私の感覚が古くて、若い人の感覚とズレが生まれてしまったのかもしれない。そんなふうに自問自答もしてしまいますよね。
小泉: 本当に難しいんですよ。当社は今でこそ10人の若い従業員が頑張ってくれていますが、去年は5人が入職して5人が辞めました。私も若い人たちと感覚を近づけた方が良いのかと考えて、社員同士が仲良くする環境を整備したり、私自身が友達のように付き合ったりしました。それでも5人全員が異なる理由で辞めていったので、さすがに人間不信になりそうでした。どうしたら良かったのか……。
豊崎: 私も求人をかけて、入職した人を育てて独立させようと10年くらい頑張ったのですが、難しいですね。入職しても育つ前に、辞めてしまうんです。採用して、育てて、辞めて、の繰り返しがおきて、結局、外注ありきの仕事の回し方になります。
ですが、そもそも私は大工になりたくてこの仕事を始めたので、人材育成を諦めたくはない。なんとしても大工の人数を増やしたいという思いがありますので、3年ほど前から児童養護施設の高校生に大工の就労体験をさせる仕組みを作りました。
野原: 具体的にどのような仕組みで高校生を受け入れているのですか?
豊崎: 児童養護施設の社会的自立をサポートするNPO法人を作り、そこを通じて高校1年生の生徒を月に1、2回職場に招いています。
子どもたちにアルバイト代を払って大工の仕事を体験してもらいつつ、手に職をつけて働く機会を得てもらっています。これを3年間続けていくと、卒業時には基礎的な技術を学び終えた若手職人として活躍してもらえる。そのまま当社に入社してくれれば、すでに人間関係ができているのでスムーズに受け入れられます。
中には別の会社に行く人もいますが、求人広告を使わずに、毎年、高校生が入ってくるようになります。
小泉: 素晴らしいアイデアと実行力ですね。
吉富: ちなみに、社長の体感として、「若い人たちは優しく指導した方が定着しやすい」といった感覚はありますか?
豊崎: それが厳しくても優しくてもあまり変わらないんです。というのも、私が優しく接してもお客さんからの要求が甘くなるわけではないので、現場では変わらず厳しさが求められるんです。ですから、優しくしすぎるとギャップに耐えられなくて辞めてしまう。結局は指導も厳しくしたほうがいいのかなと思っているところです。まだ答えは見つかりませんね。
吉富: なるほど。本当に難しいですね。