マイナンバーカードと健康保険証を一体化したマイナ保険証。2024年12月2日には保険証の新規発行がなくなり、既存の保険証は最大1年間で使えなくなります。マイナ保険証にまつわる、ちまたの多くの誤解を解いていきたいと思います。

  • マイナ保険証イメージイラスト

    マイナ保険証にはさまざまな誤解がある

Q1.そもそもマイナ保険証って何?

マイナ保険証は、「オンライン資格確認」という、最新の保険資格情報を保存したデータベースにアクセスして、本人の保険資格が有効か、本当にその本人かという確認をする仕組みのことを指します。

  • マイナ保険証の説明図

    最もよく引用されているであろうマイナ保険証の説明図。オンライン資格確認でマイナンバーカードを使うのが“マイナ保険証”です

従来はカードの保険証に記載された情報のみで保険の資格情報を確認していましたが、引っ越し/転職/退職などで環境が変わったのに古い保険証で受診したり他人(特に家族)の保険証を使ったりといった間違った使い方があっても、医療機関側に確認する術がなく、診療報酬を請求するために毎月まとめて送るレセプトの審査で誤りが発見されて修正が求められる返戻という状況になっていました。

  • レセプト返戻の状況

    レセプト返戻の状況。多くは保険証番号などの誤りで、該当者なし、本人・家族等の誤りなども多くあります。「誤り」とあるのは転記ミスでしょうか

オンライン資格確認では、最新の情報でチェックできるようになって資格確認がその場で機械的に行えるため、返戻の減少が期待されています。

この時の本人確認のためにマイナンバーカードが使われることから、この仕組みが「マイナンバーカードの健康保険証利用」=“マイナ保険証”と呼ばれます。オンライン資格確認は従来の健康保険証でも利用されていますし、今後の資格確認書(後述)でも同じく使われますので、その部分での差異はありません。違うのはは、自動で情報が入力できる点、本人確認ができる点、そして情報利用に関する同意を行える点などです。

オンライン資格確認は医療機関や薬局に利用が義務付けられており、すでにほとんどの施設で導入されています。現状は、マイナ保険証の利用が13.87%(2024年9月末)で、従来の健康保険証での利用が残りの約86%を占めています。

  • オンライン資格確認の導入状況

    厚労省によるオンライン資格確認の導入状況。全国の22万2,365施設のうち21万312施設(91.6%)で稼働しています

マイナ保険証の仕組みでは、専用のカードリーダーにマイナンバーカードを置いてICチップ内のデータを読み取り、スマートフォンなどのように顔認証をして本人確認を行って、オンライン資格確認にアクセスします。

従来の健康保険証は、この本人確認が行えません。偽造が容易で顔写真もなく、別の本人確認書類で確認するというフローも存在しないため、不正な利用が防止できません。またオンライン資格確認のために情報を病院の事務員などが手入力してアクセスするため、手間がかかるとともに入力間違いが発生して他人の情報にアクセスしてしまったり、資格確認ができなかったりする可能性があります。

  • 資格情報の確認結果

    マイナ保険証と健康保険証では、資格確認に失敗する確率が異なっていました。これは、手入力での転記ミス、無効な保険証の利用のためで、マイナ保険証の方がミスが少なかったことが分かります

こうしたことから、マイナ保険証の方がなりすましや不正利用、誤入力に対する安全性が高いというメリットがあります。病院事務にとっては手入力が不要になって、入力間違いが減少できると期待されます。

マイナ保険証のリーダーでは、本人同意の画面が出るのもミソです。これは過去の医療情報や薬剤情報などを医療機関・薬局と共有するかどうかの確認で、同意すると過去の診療の種類や薬剤が共有されます。

  • マイナ保険証のカードリーダーにおける同意画面

    マイナ保険証のカードリーダーにおける同意画面。従来は同意を3回する必要がありましたが、1回でまとめて同意できるようになりました。個別の同意も選択できます

これはレセプトがベースになっているため情報は1カ月遅れになりますが、1カ月前のデータでも役に立つ場合はあるでしょう。

さらに、今後リアルタイムに情報が得られる電子カルテや電子処方箋が普及したとき、安全に本人確認ができて同意もその場で取得できるマイナ保険証のメリットが生かされるようになります。

  • 医療DXへの取り組み

    電子カルテや電子処方箋など、マイナ保険証を入口にして医療DXへの取り組みが進められています

マイナ保険証による本人確認と本人同意は、今後の医療DXの「入口」にあたります。効率的で安全な医療体制の構築、マイナポータルで自分の健康情報を確認して健康管理に繋げるなど、増え続ける医療費を削減しつつ健康維持を促す取り組みが実現できるか、今後も施策をチェックしていく必要があるでしょう。

Q2.12月2日から健康保険証は使えなくなるの?

2024年12月2日以降、従来の健康保険証の新規発行は終了します。既存の健康保険証は最長1年間、つまり2025年12月1日まで利用することができます。

  • マイナ保険証の移行パターン

    マイナ保険証の移行パターン。基本的には2025年7月末(国民健康保険)、または12月1日(被用者保険)まで使い続けられます(デジタル庁の資料より)

ただし、これは基本的に有効期限がなかった会社員などが加入する被用者保険の場合です。国民健康保険は通常、有効期限が8月1日からの1年間であるため、2025年7月末日に従来通り期限となり、新規発行がされなくなります。

また、転職で保険者が変わったり転居で住所が変わったりすると、保険証が新規発行されますが、これも12月2日以降は行われません。この有効期限までは従来の健康保険証を使い続けられます。

Q3.12月2日以降はマイナ保険証を使う必要があるの?

従来の健康保険証の代わりに、マイナ保険証だけでなく資格確認書も利用できます。これは保険者が発行するものでおおむね従来の健康保険証と変わりません。

資格確認書は、マイナ保険証の登録をしていない人に対して保険者が発行します。例えば全国健康保険協会(協会けんぽ)では、12月2日以降、新規で加入した被保険者本人からの申請で発行。この時、マイナ保険証を持たないのに申請しなかった場合は、協会けんぽ側で判断して発行しますが、「相当な期間を要する」としており、最初の届出時に申請した方がいいでしょう(マイナ保険証であれば申請不要です)。

  • 協会けんぽの資格確認書

    協会けんぽの資格確認書。実は単体のカードとしてみるとマイナンバーカードや運転免許証よりも多くの情報が記載されています

すでに加入している被保険者は、マイナ保険証を保有していなかったり、マイナンバーを登録していない場合に協会けんぽ側が資格確認書を発行します。12月2日以降必要な場合に発行するとのことで、申請は不要です。

国民健康保険や大企業などの健康保険組合(組合管掌健康保険)では、それぞれの保険者によりますが、基本的には同じ流れでしょう。国民健康保険は2025年7月頃に対象者に資格確認書を送付するようです。

資格確認書は従来の健康保険証と同じ位置づけなので、そのまま病院などの受付に提出することになります。

Q4.マイナ保険証の使い方は?

マイナ保険証では、病院などの受付に設置されているカードリーダーにマイナンバーカードを置きます。カバーなどを外し、顔写真側を上にします。

次に顔認証と暗証番号のいずれかを選択します。覚えていなければ無理に暗証番号を使う必要はありません。顔認証ができず、暗証番号も覚えていないという場合は、職員に声をかけて目視認証をしてもらいましょう。ただ、スマートフォンのロック解除の場合と同様に、顔認証は特に難しくありません。慣れるためにも最初は顔認証にチャレンジするといいでしょう。

  • マイナ保険証の使い方

    マイナ保険証の使い方。カードリーダーにおいて顔認証を行い、情報提供の同意を行います

続いて情報提供に関する同意を求められます。これは、過去の診療情報や薬剤情報、特定健診の情報を医師・薬剤師が確認できます。約1カ月前までの情報ながら、過去の診察や服用している薬の情報が分かります。薬の名前を覚えいている人は多くはないですし、自分の病気を詳しく説明できないという場合も多いでしょう。そういう場合にこうした情報が役に立つという声は聞きます。

  • マイナ保険証でオンライン資格確認から受診する診療情報や薬剤情報。電子処方箋管理サービスが利用できる場合、そのデータも得られます。この場合は最新情報が得られます

また、これまでは手術歴、診療・お薬情報(またはお薬情報のみ)、健診情報という3つの同意画面が出ていましたが、2024年10月7日からは「全て同意する」という包括同意の仕組みが導入されました。個別同意も可能ですが、全て提供する人にとってはより同意が簡単になりました。

医師や薬剤師は、得られた情報を元に、より安全で適切な診療方針や薬剤の検討を行えます。どんな薬やどんな病歴が現在の診療に影響するか一般の人には分からないので、同意した方が安心ではないかと思いますが、あくまで自己判断です。「同意をする(同意をしない)」ことの意味を考えて、適切に判断してください。

医師側も、過去情報がどのように活用されたかなどの説明があると、患者側も理解が深まって良いかもしれません。