世の中の大半の仕事は、人がいることによって成り立つ。そもそも取引先がいなければ仕事の受注がないわけだし、上司や先輩のサポートもなくいきなりバリバリと業務はこなせない。

多くの他人が関係してくる以上、相手に対する敬意やマナーが必要となってくる。だが、職場で使用するツールの使い方や業務上必要なタスクを先輩社員からレクチャーされることはあっても、ビジネスマナーをイチから教えてもらった機会がある社会人は少ないはずだ。そのような人は、無自覚のうちに礼節を欠いた態度をとってしまい、ビジネスチャンスを逸してしまう恐れがある。

そこで本連載では、筑波大学および神田外語大学、札幌国際大学の客員教授を務めながら、大学や官公庁などで「職場に活かすおもてなしの心」をテーマとした講演や研修を手掛ける江上いずみ氏に、社会人として知っておくべきビジネスマナーを解説してもらう。

  • 来客時のお茶出しのマナーはできていますか?

    来客時のお茶出しのマナーはできていますか?

多くの企業がテレワークを実施していますが、業務内容によっては取引先との対面による打ち合わせなど来客対応が必要である場合もあります。そのような職場においてお客さまを迎えたときは、相手に非常識な人間だと思われないよう、自身が会社の代表者であるという意識を持って接することが大切です。

お客さまに良い第一印象を与えてお迎えし、会議室・応接室まで礼を失することのないようご案内するまでのマナーとして、来客応対時のマナー<受付~入室までのご案内>を、前回お伝えしました。

失礼がないようにするのはもちろん、心地よく過ごしていただけるよう、今回は来客応対時のマナー<お茶出し~お見送り>をご紹介したいと思います。

来客応対時の基本マナー <お茶出し~お見送りまで>

(1)お茶の出し方とマナー

お客さまにお出しする「お茶」には、わざわざ足を運んで来てくださったお客さまに、喉の渇きを癒してくつろいでいただくというおもてなしの心がこめられています。お茶の出し方にもマナーがありますので、ポイントを押さえて失礼な対応をしないように注意しましょう。

<お茶出しのタイミング>

お客さまをお迎えし、応接室・会議室などにお通ししたら、その旨を担当者に伝えることまで前回お話しました。その担当者にお客さまがいらしたことを伝えた時点で「お客さまにいつお茶をお出しするか」を、決めることになります。

「△△会社の○○様を応接室(会議室)にお通しいたしました」

と伝えた際の、担当者の返答により、判断するということです。

「ありがとう。すぐ行くよ」

という言葉が返ってきたのであれば、担当者が応接室に入って、名刺交換などの挨拶が終わって全員が着席したタイミングでお茶を出します。

お客さまを応接室にお通しして、担当者に伝えたものの、会議が長引いているなど何らかの理由でお待ちいただかなければならない場合は、すぐにお茶の準備をし、

「お待たせして申し訳ございません」

とお詫びの言葉を添えてお茶を出します。

<お茶出しの手順>

お茶はお客さまに失礼のないよう、おもてなしの心を持って以下の手順で入れます。

  • お茶出しの手順を確認しましょう

    お茶出しの手順を確認しましょう

1.お茶の量は、茶碗の7分目が目安です。喉が渇いているだろうと、並々と注いで出すのは上品ではありません。

2.人数分のお茶の入った茶碗と茶托(ちゃたく)は別々にお盆に載せて運びます。その際には万が一こぼしてしまったときなどに備えて、必ず布巾(ふきん)を携行します。お客さまの目の前にお持ちする布巾ですから、シミがあるようなものではなく、ぜひ清潔な白い布巾を携行しましょう。

3.お盆を胸の高さにして両手で持ちます。自分の息がお茶にかからないようにするための配慮として、胸元中央から少し横にずらした位置でお盆を保持します。

4.入室する際には、片手でお盆を持ち、必ずドアを3回ノックします。2回のノックは「トイレノック」といって、「空室を確認するノック」です。「私が入ってもよろしいでしょうか」という「入室を確認するノック」は3回以上と覚えておきましょう。

ドアを開けたら

「失礼いたします」

と声をかけ、会釈をして入室し、ドアを閉めます。その際、ドアを閉める音には十分注意しましょう。大きな音を立てないようドアノブを手で持ってドアを閉めます。ドアによっては自動的に閉まるものがありますが、そのような場合でも音が出ないよう必ず手で閉めましょう。

5.入室後、お盆から直接お茶を出すのは不作法です。お盆を一度サイドテーブルに置き、そこで茶碗を茶托に載せます。

サイドテーブルがない場合には、下座のテーブル端にお盆を置かせていただきます。

テーブル上にまったくスペースがない場合には、左手にお盆を持ち、右手だけでお茶をお出しすることになります。そのような場合は

「片手で失礼いたします」

と声をかけてお出しします。

6.茶碗を茶托に置く際、たとえ濡れていなくても、必ず茶碗の底を布巾で一度拭ってから茶托にセットしましょう。運搬中に万一お茶が少しこぼれても、これにより出す直前に拭き取ることができ、茶碗と茶托がくっつくのを防ぐことができます。

7.お茶はお客さまの右側後方から両手でお出しするのが基本です。その際はお客さまに気付いていただけるよう、必ず

「どうぞ」
「失礼いたします」

と声をかけます。テーブルやお席の配置上、右側後方からお出しできない場合は、

「左から失礼いたします」
「こちらから失礼いたします」

と声をかけます。このような

「片手で失礼いたします」
「左から失礼いたします」

といった言葉を添えることは、お茶出しをする人自身のマナー度を示すことができます。お客さまに「あ、この人は右側後方から両手で出すことを知っている人、マナーを心得ている人なんだな」と思っていただくことができるわけです。ぜひプラスαのひと言を心掛けましょう。

8.お茶を出し終わったら、お盆を身体の横に添わせるようにして持ち、ドアの前で

「失礼いたします」

と挨拶、一礼して退室します。その際にもドアが「バタン」と大きな音を立てないよう、手でドアノブを押さえながら静かに退出しましょう。