◆消費電力測定(グラフ153~161)

  • グラフ153

  • グラフ154

  • グラフ155

  • グラフ156

  • グラフ157

  • グラフ158

  • グラフ159

最後に消費電力を比較してみる。グラフ153がSandraのArithmetic Benchmark(Dhrystone/Whetstone)、グラフ154がCineBench R24のAll CPU、グラフ155が同じくCineBench R24のOne CPU、グラフ156がTMPGEnc Video Mastering Works 7で4streamのエンコード、グラフ157が3DMark SteelNomad Light、グラフ158がMetro Exodus PC Enhanced Editionの2K、グラフ159がShadow of the Tomb Raiderの2Kのそれぞれの実行時の消費電力変動である(TMPGEnc Video Mastering Worksは開始から4分までの範囲を測定)。グラフ160にそれぞれの稼働中の平均消費電力、グラフ161に待機時の消費電力との差をそれぞれまとめてみた。

  • グラフ160

まず最初にグラフ160、待機時電力(Idle)で、何でかRyzen 7 7800X3Dのみ他よりも高い数値になっているのだが、これは以前別の環境でも同じ結果になった。今回Ryzen 9000シリーズの方は明確に低い値を示しているあたり、これはRyzen 7 7800X3Dの特徴なのかもしれない(個体差の可能性も否定はできないが)。

  • グラフ161

それはさておきグラフ161を見ると、なるほどRyzen 7 9800X3Dの性能が高い理由が一目瞭然である。Sandraの結果から、実効動作周波数がRyzen 7 9700Xより高くなっているのは間違いないとは思ったが、消費電力からも一目瞭然である。グラフ161を見ると、Ryzen 7 7800X3DやRyzen 7 9700XはDhrystone~TMPGEncの各処理の際の消費電力は100W未満に抑えられているのに対し、Ryzen 7 9800X3Dは170Wに達するほどである。動作周波数が上がれば消費電力も増える訳で、明確にこれが確認できたことになる。

ただこれ、効率という観点ではちょっと悩ましいところである。表3~5に、Dhrystone/Whetstone/TMPGEnc Video Mastering Works 7での効率を纏めてみた。どの数字も高ければ高いほど効率が良い訳だが、その観点で言えばRyzen 7 9800X3Dの効率はかなり悪い。Ryzen 7 9700Xと比較した場合、Dhrystoneなど半分強の効率でしかない。スペック的に言えば、Ryzen 7 9800X3DはTDP枠というよりもPPT(Default Socket Power)をほぼ使い切る程度まで消費電力を引き上げる設定になっており、この結果として動作周波数が上がり、性能が改善しているということになる。Ryzen 7 7800X3Dは構造上あまり温度を上げられず、そのためPPTどころかTDPの枠すら使い切らない程度の低い動作周波数での稼働となっていた。実際今回グラフ161を見ると、Ryzen 7 9700X(TDP 65W/PPT 88W)よりも実効消費電力が低くなっており、このため3D V-Cacheの効果でゲームなどは高速に動作する一方、アプリケーション性能はRyzen 7 7700Xに及ばなかった。今回Ryzen 7 9800Xはゲーム以外のアプリケーションでもRyzen 7 9700Xを凌ぐ性能を発揮しており、それはこの消費電力の大幅増で実現可能になった、という訳だ。

■表3
Dhrystone Score(GIPS) 消費電力(W) 効率(GIPS/W)
Ryzen 7 7800X3D 529.44 72.7 7.28
Ryzen 7 9700X 558.37 75.8 7.37
Ryzen 7 9800X3D 641.21 164.2 3.91
■表4
Whetstone Score(GFLOPS) 消費電力(W) 効率(GFLOPS/W)
Ryzen 7 7800X3D 315.14 68.9 4.57
Ryzen 7 9700X 330.24 87.2 3.79
Ryzen 7 9800X3D 356.21 143.1 2.49
■表5
エンコード速度(fps) 消費電力(W) 効率(fps/W)
Ryzen 7 7800X3D 17.7 91.1 0.19
Ryzen 7 9700X 19.4 96.9 0.20
Ryzen 7 9800X3D 23.2 170.0 0.14

考察

ざっくりRyzen 7 9800X3Dの性能を評価してみた。確かに性能は申し分ない。勿論8core/16threadのCPUだから、エンコードとかレンダリングなどでの性能はRyzen 9には及ばないのは仕方ないが、8core以下のCPUでは恐らく最強と評して良いと思う。確かにゲームでもフレームレートが伸びるものは猛烈に伸びるので、AMDの主張する最強のGaming CPUという触れ込みも間違ってはいないと思う。

実質的には120WのCPUというよりも170WのCPUと考えるべきで、この辺りはちょっと判りにくい(というか誤解を招きやすい)気はするが、例えばCore i7-14700KがPL1 125W/PL2 253W、Core Ultra 7 265KがPL1 125W/PL2 250Wな事を考えると、170WというのはまだIntelに比べれば穏当、という見方も出来る。

それでも、Ryzen 7 7800X3Dの低い消費電力の延長にある事を期待していた筆者からすると、ちょっと今回の製品構成は期待外れだった事は否めない。まぁこの辺はBIOSの設定で電力を絞って使えばいいのかもしれないが。

こうなるとむしろRyzen 7 9700Xの効率の高さと価格の安さが大きなむしろ魅力的に感じる。$479.00という価格も、Ryzen 9 9900Xの$499.00とあまり差が無い。現状では

  • エンコードなどマルチスレッドの処理が多い:Ryzen 9 9900X
  • 3D Gaming命:Ryzen 7 9800X3D
  • 汎用的に利用、コストパフォーマンス優先:Ryzen 7 9700X

というのが選択の際の目安になるだろう。ただ3D Gaming命といっても、今回のベンチマークでも示したように、フレームレートに差が出るのは2Kか精々2.5Kまでであり、3K以上では殆ど性能差が無いに等しい。なので2K Gaming向けには最適ではあるが、4K Gamingとかを期待するのであればRyzen 7 9700Xでも十分だろう。

性能を上げるために色々努力をしたとは思うのだが、結果的に商品バランスが崩れてしまった感はある。これ、TDPというかPPTを下げてRyzen 7 9700Xと同等に抑えて製品出した方が魅力的ではなかったか、と思わざるを得ない。ちょっと残念である。