今作は、チーフの風間太樹監督に、高野舞監督、ジョン・ウンヒ監督、山岸一行監督の4人が演出を担当。プロデューサーとして、各監督の持ち味が生きることを心がけたという。
ジョン監督の担当した第7話(8月12日放送)では、津野(池松壮亮)が、自分が支えてきた水季の死を、彼女の母・朱音(大竹しのぶ)からの電話で聞き、泣きながら苦しくなった胸をさするシーンが印象的だった。
「訃報の電話って何か予感がするじゃないですか。もう水季の残された時間が少ないと分かっている中で、津野くんは電話が鳴った時に何かを感じて、朱音からだと分かった時に確信を持っている。台本上は“はい”で終わりになっていたんです。でも、ジョン監督は池松さんにその先まで芝居をしてもらいました。津野が慟哭(どうこく)する姿があまりにも素晴らしかったので、全部残しました」
ここには、このチームが意識する“電話シーン”のこだわりが反映されている。
「生方さんの脚本の特徴なんですけど、電話のシーンで相手を見せるか見せないか、台本上に書いてあるんです。それを読んだ上で、僕と監督たちが本打ち(脚本打ち合わせ)で作り上げていくときに話し合っています。第7話で、朱音が津野くんを四十九日の法要に呼ぶ電話では、朱音の声は聞こえてるけど映像はなかった。そのパターンもあれば、電話の相手を見せるときもある。そして津野が訃報を聞くシーンは、相手の声も聞こえていません。電話一つとっても、そこの見せ方をすごく考えています」
電話のシーンにこだわるきっかけになったのは、『silent』の第5話で紬(川口春奈)と湊斗(鈴鹿央士)が別れの電話をする場面。セットの2か所に撮影クルーを分けて、実際に2人が通話した状態で撮影するという手法を採ったところ、「僕ら、電話は特別なものが生まれるんだと知っちゃったんです。だから、今回の1話で水季が夏くんに“別れよう”と言う電話も、わざわざあの現場に古川琴音さんに来てもらって、本当に電話をしながら撮影しました」と明かした。
いろんなパターンがあって、いろんな人がいる
今作は、最近では珍しい1クール全12話の放送。「生方さんのドラマは毎回長くて描ききれない部分が多く悔しい思いをしてきたので、今回は早い段階で会社と相談して12話やらせてもらうことにしました。そのおかげで7話までかけてだいぶ登場人物たちが描けたと思っていますが、生方さんの本は何話で何をやるという構造がとても計算されているんです。プロットを書かない人なのに本当にすごいです(笑)」と驚きを語る。
そんな彼女との脚本作りにおいて、「いつも話すのは、いろんな考え方を持っている人がドラマを見るから、伝えたいことが伝わらないこともある。なので、全員が分からなくてもいいけど、誤解される言い方はやめようということ。これは、生方さんと僕の作り方にとってすごく大事なことで、人の心をこれだけ丁寧に描いている中で、あるところで違う形で捉えられてしまうとその後のその人物の感情を全部違って捉えられてしまうことになりかねないので、そこはものすごく意識しています」と明かす。
その共有ができているため、「無限にある言葉の中から、類まれな才能を持つ彼女が選んできている言葉を尊重したいと思っています。なんでもない会話も含めて全てが珠玉のセリフなので、僕や監督がこのセリフをこう変えようと言うことは、よほど気になったり、よほどこれは分かってもらえないだろうと思うもの以外では、めったにないです」と信頼を寄せている。
もう一つ、生方氏との仕事で大切にしていることは、『silent』で紬が発したセリフにある「“少ない”って、“いる”っていうことだもんね」という言葉。「これは、『いちばんすきな花』でもテーマに流れていましたが、みんな先入観や知識で何かを決め付けたがるけど、そうじゃない人もいる。いろんなパターンがあって、いろんな人がいるっていうことを、僕はいつも意識するようにしています。その思いで、生方さんの本を受け止め、世に送り出しています」と話した。