テレビ番組の見逃し配信やリアルタイム配信などを行うTVerが、順調に推移している。昨年12月は月間ユニークブラウザ数(MUB)が前年同月比124%の3,129万と過去最高を更新し、月間再生数も3.98億回で前年同月比150%を記録した。
この成長の要因は何か。そして、この先にどんな将来像を描いているのか。TVerの薄井大郎取締役サービス事業本部長に話を聞いた――。
テレビ局のコアターゲットがメイン視聴層に
コロナ禍ではTVerを含む動画配信サービスの利用が一気に伸びたことから、「コロナが終わったら勢いが止まることもあるのではないかと思っていた部分もありました」というが、「ありがたいことにその後も伸び続けてサービスが浸透している感じがあります」と順調に推移。
成長を押し上げているジャンルは、やはりドラマだ。各局で連続ドラマのレギュラー枠が増設されている上、1話あたり100万再生突破という発表が次々に報じられるようになり、「200万を超えるドラマも、1年前だと相当すごいという印象でしたが、今ではかなり増えてきました」という。
その要因は、TVerの認知度が高まってきていることに加え、従来は次の回までだった見逃し配信の期間を、第1話~3話に限り最終話放送後まで据え置く施策をとるようになったことが大きい。序盤を無料配信し続けることで、放送が中盤に突入しても追いついて視聴できるようにする狙いで、22年10月期にフジテレビが始めると各局でも導入が相次ぎ、今では数多くのドラマで行われている。
また、ブームになっている「キャンプ」や「サウナ」の関連番組を、局の垣根を越えて集約・特集化することで見やすくし、連続視聴を促進。さらに、昨年は卓球、陸上、バスケットボール、ラグビー、バレーボールといったスポーツの世界大会のライブ配信を次々に行ったが、これまでは見逃し配信の視聴が圧倒的に多かった中で大きなインパクトを残したという。
再生数の総合ランキングを見るとドラマが上位を占めているが、「バラエティもかなり増えています。本数が多いのでジャンル全体で見ると、ドラマとほとんど変わらないくらいになりました。『水曜日のダウンタウン』(TBS)が累計1億回を突破したときに過去作を出してもらったら爆発したり、『アメトーーク!』(テレビ朝日)も昨年から配信されてすごく見られていますし、そういったものも影響として大きいですね」とのこと。
テレビの視聴者がF3(女性50歳以上)・M3(男性同)が多く占める一方、TVerの視聴者属性はF2(女性35~49歳)・M2(男性同)がメインで、F1(女性20~34歳)・M1(男性同)もボリュームゾーンになっており、いわゆるコア層(主に13~49歳)に人気の番組がランキングの上位に入る傾向が見られる。
『潜入捜査官 松下洸平』に手応え「とても良い結果」
昨年を振り返って大きなトピックの1つが、初のオリジナル制作ドラマとなった『潜入捜査官 松下洸平』だ。本人が演じる俳優・松下洸平は実は警視庁の潜入捜査官で、こちらも本人役の佐藤浩市の疑惑解明のために任務として15年前から芸能界に潜入・捜査していた…という設定で繰り広げられるサスペンスコメディ。キー局のバラエティ番組に松下が実際に出演したシーンがドラマに登場するなど、各局の協力で実現したコラボレーションも話題となった。
これについては、「本編・関連動画の再生数が735万回を超えて、とても良い結果だったと捉えていますし、各局がこんなに制作に協力してくれて、単局では絶対できないことだと思うので、TVerにしかできないコンテンツとしてすごく良かったと思います」と評価。「各局とのコラボは大きな知見になったと思いますので、どういう形になるか分からないですが、生かしていきたいと思います」と、今後も各局と連携したオリジナルコンテンツの制作の可能性を模索している。
『潜入捜査官 松下洸平』は、ドラマの視聴ユーザーに、バラエティを認知・回遊させるという狙いもあったが、そこも「いい傾向になっています」と一定の手応え。今回のような各局とのコラボという座組でなく、純粋なオリジナルドラマを制作することについては、「TVerとして再生回数・ユーザー数を伸ばすということにおいて、ただオリジナルコンテンツを次々に作っていくというよりも、ユーザーが新たなコンテンツと出会えるための“特集”や“見せ方”に、より力を入れていくことになると思います」と見解を述べた。
オリジナル番組はバラエティでも制作しており、業界のトップランナーを“先生”として招く『TVerで学ぶ! 最強の時間割』は、昨年11月3日からシーズン2の配信を開始した。シーズン1では、大ヒットドラマ『silent』(フジ)の放送期間中に配信した村瀬健プロデューサーの回や、MEGUMIが出演した最終回で「バラエティのランキングにも入ってきました」と実績を残しており、「平易な言葉ですが、すごく良質な番組になっていると思います」と、こちらにも手応えを感じている。