――ご自身の役柄に共感された部分はありますか?
千之助:僕の場合はやっぱり、家業というところが通じますね。錺(かざり)職人という職業で、最後に父親から「お前、何を思ってかんざしを彫る?」と言われるシーンがあるんですけど、同じ職業の親から言われるのは、心に響きやすいんじゃないかと思います。また、幸助はお蝶のことが本当に宝物なんですよね。思い出でもあり、成長していくにつれてかけがえのない存在だと気づいていく気持ちは、すごく分かるなと思いました。
北:私は逆に、「昔の私と変わってしまったから、もう今あなたには会えない」というお蝶のような感情は全くなくて、「今の私はこうだから、愛してくれ!」ってなってしまいますね(笑)。だからこそ、お蝶のように繊細さや儚(はかな)さ、そして強さがある女性像にはすごく憧れて、色気も感じます。「お蝶はこのときどんな気持ちで、どんなふうに受け止めたんだろう」と一つ一つの感情を考えながら演じるのは、すごく楽しかったです。
――ここまでの撮影で、特に印象に残ったシーンはどこでしょうか。
北:お蝶が幸助にかんざしを渡して、2人が「5年後にまた会おう」と約束するシーンです。その時の幸助がすごく素敵だったんですよ。照明とロケーションもあって、幸助がここで待ってるんだ…と思いが膨らむような芝居をしてくださって、あのシーンを思い出すだけで泣けてきます。
千之助:恐れ入ります…。僕はとにかく走ってますね(笑)。お蝶を追いかけたり、物を取りに行ったり。でも、今言っていただいた別れのシーンは、素直に気持ちが出たんじゃないかなと。無我夢中でお蝶に会いに行けた感覚があります。
――今回は時代劇ですが、千之助さんは歌舞伎との違いをどのように感じて演じていますか?
千之助:もちろんお芝居の仕方は変わりますが、うちの松嶋屋はお芝居を大事にする部分が強くて、踊りのときもお芝居のときも祖父(片岡仁左衛門)によく言われたのは、「どんな音の外し方をしても、どんなセリフの言い方になっても、とにかくその役の気持ちでやりなさい」ということなんです。今回も「お芝居をしなきゃ」と強く思うと不自然になってしまうので、素で幸助と向き合うということで本当に勉強させていただいています。ジャンルやステージが違っても、表現ということで通じる部分があるので、これが歌舞伎につながればいいなと思いますし、監督の演出や周りの方々の芝居を拝見して、いい経験をさせていただいています。
互いの印象は「自然と寄り添える」「少年のよう」
――おふたりは今回が初共演ということですが、お互いの印象はいかがですか?
千之助:本当にその存在に助けてもらっています。大先輩たちが多い中で、お蝶という存在がある意味一番近い存在だし、撮影の最初の頃に「頼っちゃうよ」と言ったと思うのですが、心が自然と寄り添える方です。もちろん役もありますけど、本当に甘えてます(笑)
北:最初の頃は、歌舞伎の世界で活躍されている方で、自分とは住む世界が違う方と一緒にお芝居をすることにちょっとドキドキしていたんですけど、素直で少年のような方だなと思って(笑)。子どもっぽいということではなくて、裏表がなくてそのままの千之助さんでいるんです。「助けてもらってます」と言ってくださいましたが、私も一緒にやっていて心が和む瞬間がたびたびあり、助けられました。
千之助:僕は何も考えずに人と接しちゃう部分があるんで、嫌われていなくて良かったです(笑)。錦帯橋という素晴らしいロケーションの中で、物語の山場となる幸助とお蝶のシーンを撮影しているので、ぜひ多くの方にご覧いただきたいです。