2024年は大統領選挙の年です。日本で昨年11月に岸田首相のニセ動画拡散がニュースになりましたが、米国では有力候補をからかった動画が日常的に共有されています。バイデン大統領がつまずく様子をダンストラックとマッシュアップしたミーム動画の製作者が話題になり、トランプ前大統領がさらに脚色するアイディアを提案しているような状況なのです。でも、それらは深刻な問題になってはいません。ほとんどのコンテンツ共有プラットフォームでニセ動画対策が行われており、メディアも適切に対処しています。
それよりも今問題になっているのは、生成AIから大量に生み出されるごみコンテンツです。これらは無害なため取り除かれることなくインターネット全体に広がり、検索結果の質を低下させ始めています。
ソーシャルメディアに話を戻すと、Xがトランプ氏の復帰を認めたにも関わらず、同氏は投稿を再開していません。2024年の大統領選は、TikTok選挙でも、X選挙でも、YouTube選挙でもなく、Telegram、トークラジオや伝統メディアを含む、過去20年間の米国の国政選挙で最も断片化されたメディア環境になりそうです。ミームの拡散は続いていますが、Xの衰退により、ソーシャルメディアの影響力は弱まっています。
そうした中で存在感を高めているのがMetaの「Threads」です。昨年7月のサービス開始後にユーザー数が激しく増減しましたが、地道な改善を継続しており、12月に開始が遅れていた欧州連合(EU)でのサービスを開始。Xとの差を着実に縮めており、年内に日間ユーザー数でXを上回る可能性が出てきました。
Threadsの強みは、X同様に広範なユーザーに利用されていることです。これまで連邦や州の組織、警察署、学校などが情報発信にXを優先的に利用していましたが、Threadsのサービス開始時に少なくとも250の政府機関がアカウントを持ったことが確認されました。多くは今も両方への投稿を継続していますが、迷走するXが信頼を失いつつあります。
そして、Threadsがサービス開始時に約束していたActivityPub対応を開始したことでさらに信頼を高めています。ActivityPubは、フェディバース(fediverse)と呼ばれる分散型のソーシャルネットワーキングを実現するプロトコルの1つで、MastodonやGNU socialなどが採用しています。ActivityPub対応が完了すれば、Mastodonなどのユーザーと相互にフォローし、投稿を共有できます。Flipboardも12月にActivityPub対応を開始しました。
分散型ソーシャルネットワークにはActivityPubの他にも、BlueskyのATプロトコル、Nostr、Farcasterなど様々なプロトコルが存在します。私たちには2つのインターネットは必要ありませんし、複数のソーシャルプロトコルも必要ありません。電子メールのようにシンプルで広範な相互運用性を持つプロトコルがあれば十分であり、プロトコル候補が多い状況が長引かず、どれか1つが主流となることが望まれます。
ThreadsのActivityPub対応によって、フェディバースのプロトコルがActivityPubに集約する動きが加速しています。中央集権型のSNSにとどまらず、フェディバースの形成を活性化しているThreadsに対する支持がネットコミュニティ全体で高まっています。これはかつてTwitterが様々なAPIを公開し、ネットコミュニティから支持されていたことを思い出させるものです。Threadsが開発中のAPIへの期待も高まります。