昨年10月、米司法省がGoogleを反トラスト法違反で訴えた裁判の審理において、Googleが同社の検索サービスをiPhoneなどのデフォルト設定とするための契約で、2021年に260億ドル(約3兆6,400億円)以上も支払っていたことが明らかになりました。なぜGoogleは、Androidに加えて、iPhoneでもデフォルトの検索エンジンとしての地位を獲得することにこれほどまでに重点を置いているのでしょうか。
おいしい湧き水を自由に汲める場所が近くにある地域でも、日常生活では蛇口をひねるだけで出る水道水が利用されています。検索機能はインターネットの基本的なインフラであり、この契約の規模は、Googleが検索において単なる名水の供給源ではなく、最大のユーティリティ企業を目指していることを示唆しています。
近年の大規模言語モデルによる対話AIは、インターネットの新たな基本インフラになり得る技術です。そのため、ChatGPTの登場はGoogleにとって切迫した動きとなりました。
今のところ、私たちが利用できる対話AIを導入した製品やサービスの多くは、要約や関連情報を収集してもらうといったChatGPTやCaude(Anthropic)のホワイトラベルでしかありません。しかし、OpenAIは同社の大規模言語モデルを用いて開発者がビジネスを展開できるプラットフォームを構築する方針を明言しています。対話AIの活用に積極的なNotionのCEO、アイバン・ザオ氏は「大規模言語モデルは電気であり、これは最初の電球の使用例です。しかし、他にも多くの電化製品があります」と述べています。
昨年12月にGoogleが最新のAIモデル「Gemini」を発表し、OpenAIのGPT-3.5やGPT-4との性能比較が話題になりました。しかし、大規模言語モデルの有用性が証明された後、ベンチマークにおける性能差はそれほど重要ではなくなっています。ユーザーが待ち望んでいるのは、対話AIが有用な製品やサービスへと変化することです。
例えば、現在多くの人がChatGPTにメール文の作成を依頼し、それをメールアプリに貼り付けています。このプロセスは必ずしも快適ではありません。理想は、メールアプリ内で直接文面のアイディアを得られることです。Googleは「Duet AI」で、Gmail内で対話AIの支援を受けられる機能の提供を開始しました。すでにChatGPTなどにメール作成を手伝ってもらっているユーザーにとって、これは非常に便利な機能です。
昨年のGoogle I/OでGoogleは、子供がサマーキャンプのために怖いストーリーを作っている設定でDuet AIのライブデモを披露しました。子供が物語に行き詰まった時にDuet AIは代わりに文章を作って提供するのではなく、「こういう展開にしたらどうでしょう」と先生や編集者のように子供を導きました。そんなアシスタントが自分の小学校時代にあったら、宿題がもっと楽しいものになっていたと思います。
そのように、大規模言語モデルを用いた機能が私たちの仕事や生活のあらゆる場所に浸透し始め、ChatGPTからコピー&ペーストすることは減少していくことでしょう。
AIは、持続的イノベーションと破壊的イノベーションのどちらに該当するかという議論があります。持続的技術は、既存の市場のニーズに応え、既存の製品やサービスを改善する技術です。破壊的技術は、既存の市場を根本的に変革し、新たな市場を創造する可能性のある技術を指します。それが持続的なものであれば、Googleのような既存の企業が強化される傾向にありますが、破壊的イノベーションではOpenAIのような新興企業による市場の変革(例:ライドシェアリングサービス、動画ストリーミングサービス)が過去に多く見られました。
AIは、その応用範囲と影響の性質によって、破壊的技術と持続的技術の両方の特徴を持っていることが次第に明らかになっています。例えば、自動運転や医療診断、金融サービスの自動化など、多くの分野で従来の方法とは根本的に異なる新しいアプローチを提供します。一方で、検索エンジンの精度の向上、推薦システムの改善、製造プロセスの効率化など、幅広い分野で従来のビジネスモデルや市場を維持しつつ、それらをより効率的かつ効果的なものに改善します。
生成AIの進展は、既存の市場を改善し、同時に新しい市場や業界を生み出す可能性を秘めています。破壊的か、持続的かは生き残りを分けるポイントではありません。改善をおろそかにしたものが取り残されていくのです。