日本テレビにとって、夏は『24時間テレビ』、冬は『箱根駅伝』が、局を挙げた一大イベントだ。毎年中継に携わるスタッフは、『24時間テレビ』を超える約1,000人にもなるといい、部署の垣根を越えて参加。「社内には箱根駅伝が好きな人が多いので、ご協力のお願いをしても話が通りやすいところがあります。出身大学を応援している人もいるし、DNAとして“箱根のことなら何でもやるよ”と言ってくれる方が多いです」といい、制作・技術スタッフは局内だけでは人数が足りないため、系列局からも応援が駆けつける。
アナウンサーは、放送センター、中継車、中継所などでの実況に加え、資料の参照などでサポートする人員も配置され、総勢25人が参加。この時期は高校サッカー選手権も行われているため、アナウンス部はフル回転だ。
そんな『箱根駅伝』には、「スポーツ中継のあらゆる基本が詰まっています」と断言。「主役は選手であること、選手をリスペクトするという精神は、日本テレビでは『箱根駅伝』とプロ野球中継が根っこにありますが、前者は学生さんのスポーツなので、選手のエピソードやプロフィールを紹介するときも、その色がより濃いと思います」と解説する。
また、多くのスポーツが1つのスタジアムやリングで行われる一方、『箱根駅伝』は全長200km超という距離の間に各中継車で想定外の出来事が発生するため、「スポーツ中継の中でも、難易度が高いです」という。日テレのスポーツ中継担当の多くが『箱根駅伝』を経験することで、その精神や技術のノウハウが、野球やサッカー、最近ではラグビーやバスケットボールなど、あらゆるスポーツ中継で生きているのだ。
タイパと正反対の大会がなぜ人気なのか
12月30日のゴールデン特番のテーマは「なぜ箱根駅伝は、人々を魅了するのか?」だったが、その解として初代中継スタッフは「箱根駅伝はレースと呼ぶには、あまりに人間くさい」と表現。それに加え、広い世代から支持を受ける背景として、望月氏は「今、これだけ“タイパ(タイムパフォーマンス)”と言われる時代なのに、優勝タイムが11時間近くかかるレースなんて、タイパと正反対じゃないですか。それが逆に新鮮な部分もあるのではないかと思います」と分析した。
事前・事後番組を含めると、2日間で約14時間にも及ぶ生放送。それでも、選手たちが走る姿や手に汗握る展開に魅了され、「中継をしているといつも楽しいので、あっという間なんです」と打ち明ける。
中継中は弁当も食べず、アメを舐める程度。トイレに行かずに済むように、本番2日前の大みそかの夜から飲み物もなるべく控えて生放送に臨むため、「復路が終わると指輪もブカブカになりますね」とのことだ。
●望月浩平
1980年生まれ、静岡県出身。慶應義塾大学卒業後、03年に日本テレビ放送網にアナウンサーとして入社。05年からスポーツに異動し、スポーツニュースやプロ野球、サッカー、ラグビーなどの中継を担当する。『箱根駅伝』は06年からディレクターを務め、21年から総合プロデューサー。