長年にわたり災害・防災報道に向き合ってきた鈴江アナは、今回スタートした「日テレ 気象・防災サイト」の開発の背景を「メディアの役割分担というのが、大きな流れとしてあると思っています」と捉える。
「テレビは災害の危機が迫っていることや、今起きていることの全体像をお届けすることはできるのですが、一人ひとりに必要な情報をきめ細やかに伝えるというのがなかなかできないというところに、歯がゆさがあるんです。なので、そこを補完するような必要な情報をきちんと届け切るということで生まれたのが、今回のサイトと理解していただけたらと思います」
実際に操作して感じられるのは、極めてシンプルな構造であること。
「気象情報や防災情報って、例えば『氾濫警戒情報』と『氾濫危険情報』でどちらのほうが危機が迫っているかを分かる人は少ないと思うんです。伝える側の私たちも、情報があふれる中で、その重みがどうやったら伝わるのか、日々葛藤しているのですが、この『気象・防災サイト』は、“今迫っているリスク”の情報が、知りたい地域に絞って整理されています。言ってみれば、複雑な情報をすごく“ダイエット”しているイメージ。しかも、その情報は全て公の機関が出している一次情報で、味付けがないし、バイアスもかかっていないので、信頼できるものになっています」
膨大な情報を整理・編集して分かりやすく視聴者に届ける――まさにテレビ報道が長年培ってきたノウハウとも言えるが、逆にテレビ的ではない要素として挙げるのが、「動画」や「画像」をあえて載せないという点だ。
「3.11でネットがつながりにくくなったと思うのですが、災害時に通信状況が悪化しても、少ないデータ量で必要な情報をコンパクトに届けるために、動画や画像を削ぎ落としています。電波環境が悪くてもサクサク開けるように、充電の心配も減るように、ここも“ダイエット”されているんです」
ニュースの伝え手であるアナウンサーが所属する「アナウンス部」は、報道局で災害報道を検討する「災害報道委員会」と日頃から情報交換しているが、その中で「日テレ 気象・防災サイト」に対しても意見を伝えるなど、各所からの声を反映させることで、今後も改良を重ねていく予定だという。
■日常から防災の意識を「“もしも”は“いつも”の中に」
こうした新たなサービスを活用することも有効だが、防災報道のプロである鈴江アナが普段から実践している、気軽にできる防災への取り組みを聞いてみた。
「お子さんがいる方は、自分の子どもを絶対に守りたいと思いますよね。でも、仕事をしていたりするといつも一緒にいられないので、災害が起きたときに、自分で判断して命を守れる子になってもらいたいと思うんです。そのために、普段から『もしあなたが通学路のあそこの交差点で大きな地震があったらどうしようか?』とか、一緒にお散歩しているときに『この壁は地震が起きたら崩れるかもしれないから、すぐに離れるんだよ』とか、“もしもトーク”をしています。人は想定していなかったことが起こるとパニックになるので、親子の会話だけでなく、大人同士や職場でも“もしも”を話すということを、日常の中でやっておくといいと思います」
それと同様に、防災グッズを買いそろえていても普段から触れていないと、いざ本番で使い方が分からなくなるおそれがあると指摘した上で、「被災された方の言葉で『“もしも”は“いつも”の中に』というのがあるのですが、『日テレ 気象・防災サイト』もスマホのトップページにリンクを保存しておいて、お出かけのときに交通情報を見たり、旅行先の気象警報をチェックしたりと、ぜひ日常的に使っていただきたいなと思います」と呼びかけた。
●鈴江奈々
1980年生まれ、神奈川県出身。慶應義塾大学卒業後、03年に日本テレビ放送網入社。『ザ!世界仰天ニュース』のアシスタントや『24時間テレビ』の総合司会のほか、『NEWS ZERO』で6年半、『真相報道バンキシャ!』で3年半キャスターを務め、08年の北京五輪では現地キャスターを担当、14年から『news every.』を担当する。13年に長男、21年に次男を出産し、2児の母としても奮闘中。