日本テレビは10月23日、災害速報やライフライン情報を提供するウェブサービス「日テレ 気象・防災サイト」をスタートした。気象庁が発表する気象情報や地震情報のほか、鉄道、停電、通信障害、災害時の給水情報などを常時配信し、地域登録することでスマホなどから瞬時に状況を把握することができるという。
このサービスに期待を寄せるのは、同局のニュース番組『news every.』(毎週月~金曜15:50~)で、木・金曜の第1部メインキャスターを務める鈴江奈々アナウンサー。被災地取材や防災・減災の取り組みに注力し、防災士の資格を持つほか、政府の検討会にも参加する“防災報道のプロ”だ。そんな鈴江アナに、取材経験を通しての教訓、テレビ報道の意識変化、そして同サービスの可能性などを聞いた――。
■東日本大震災で痛感「テレビがもっと頑張らなければ」
防災についての意識と一定の知識・技能を修得した人が認定される「防災士」。鈴江アナが取得したのは2010年だった。
「2006年から『NEWS ZERO』(現・『news zero』)で本格的に報道番組を担当するようになったのですが、いざ地震が起きたり、津波注意報が出たりしたときに任せられるのはアナウンサーであるということに向き合ったときに、自分の伝えている情報が、どれほど緊迫度があるものなのか、重みのあるものなのか、その情報の先に何が起こるのかというのが、当時は災害を経験したことがなかったので、分からない怖さがあったんです。そこから、災害や防災のことを学べることがないかと思って調べた中で唯一出てきたのが、防災士という資格でした」(鈴江アナ、以下同)
その翌年、未曽有の大災害である東日本大震災が発生。伝え手の一人として臨むにあたり、「資格が役立ったこともありました。ただ、私が勉強した防災士のテキストは、過去に経験した災害を教訓として作られたものだったのですが、東日本大震災は1000年に一度と言われる大きな災害だったんです。そのとき一番感じたのは、災害というのは人の想像をはるかに超えるものが起こるということでした」と振り返る。
被災地を取材すると、「テレビの画面に映るのは、ある一方向が切り取られた映像ですが、360度見渡したときの光景に、この大きな災害に一人ひとりでは立ち向かえないんだと思いました」と実感。さらに、「その場所に支援を届けるということも報道の大きな役割になっていたのですが、なかなか報じていなかった地域に行くと『やっと来てくれたの?』『遅いよ』と言われたこともあり、テレビがもっと頑張らなければと痛感させられました」と課題が見えてきた。
一方で、テレビにできる可能性も感じたという。
「皆さんが一番気になっていたのは、家族や知人が無事なのかという情報だったのですが、当時は通信状況をはじめ自分の無事を伝える手段が限られていました。そこで、映像の伝言板のような形で、被災者の方が今伝えたいことを紹介する『VOICE』という企画を始めて、それが身元確認にもつながったりしたんです。テレビにできることというのは、シンプルに“お伝えする”ということなのですが、それが誰かの知りたい情報になっているんだという実感がありました」
■政府の検討会に参加して知った行政の限界
内閣府、気象庁、国土交通省といった政府の検討会に委員として参加してきた鈴江アナ。報道する立場の意見を伝えてきた一方で、新たな気付きもあったという。
「例えば、川が氾濫しても避難情報の発出が遅れたことで、犠牲になる方が出てしまうということがあると、メディアとしては“なぜ発出が遅れたのか”と追及する視点が強くなります。ただ、検討会の委員になって発出する側である自治体の防災担当者の方などのお話を聞くと、大雨が降るとがけ崩れが起きて道路が通れなくなったとか、住民の方からの電話が殺到するそうなんです。その対応に追われていると、川の水位が上昇して避難指示を出す段階になっても対応できないということが起きていたんですね。2018年に愛媛の野村ダムが緊急放流したときにその通達が遅れてしまったのも、情報を受け取りきれなかったことが原因で、少ない人数で対応しなければいけない中での限界を知りました」
その現状を知った上で、報道機関にできることとして発案されたのが、気象庁がウェブ上に公開しているサービス「キキクル」を活用すること。これは、リアルタイムの土砂災害・浸水害・洪水の危険度分布を地図上に表示しているサービスで、そのウェブ画面をニュース番組で映し出しながら、災害のリスクが高まっていることをいち早く呼びかけることが、報道局全体の指針として決められた。
「テレビ報道は数年前まで、川が氾濫するなど災害が起こった場所から中継することに注力していました。災害後のほうが映像があるから、報道に厚みが増すという考え方だったのですが、それでは命を守れない。そこで、“川が氾濫しそう”とか“土砂崩れが起きそう”ということを、映像がなくても『キキクル』というツールを使うことで呼びかけることができるので、発生前の報道にすごく力を入れるように意識が変わってきました」