テーマを決めると、担当ディレクターはリサーチャーたちとともに、2~3カ月程度ひたすらリサーチに突入。国内外のドキュメンタリーや映像資料、文献などを徹底的に調べ、核になるエピソードを見つけていく。それと並行して、映像素材も収集。5週間にわたり編集作業を行い、結果としてテーマの決定から放送まで、4~5カ月という時間をかけて制作されているという。
この編集においては、通常のテレビ番組と大きく違う方針を掲げている。
「例えば『共産主義』とか『赤狩り』といった用語を全部丁寧に説明するとか、背景をいちいち解説するなど、“分かりやすさ”を追求することはできると思いますが、その分情報の密度が薄くなってしまう。それよりも、とにかく映像が強いところで勝負する。力強く切り取られた映像を中心に、歴史の動脈の部分、“歴史というのはこうやって動いているんだ”という躍動感をダイナミックに伝えるという編集方針です。映像の力を最大限に引き出して、濃密な情報量でドーンと伝えるのが大事ではないかと思うんです」
戦争で人が殺されるなど目を背けたくなる凄惨な映像も、抑制的な使用を心がけつつ、そこから“逃げる”ことはしない。
「我々が生きてきた20世紀とはどういう時代だったのか、戦争というものは実際にこうだったんだというのを、フィルムに映っているものから逃げず、薄めず、しっかり伝えようと。ジェノサイドの悲劇とか、占領民への報復とか、実際にカオスに陥ったとき、人間はどんな行動を起こすのか。そこには邪悪な罪もあれば、貫かれる勇気もある。修羅場に染まらない気高い人もいる。そのことを、やっぱり等身大の人の姿として、リアルに描きたいと思っています」
放送したことで、「実際、映像がグロテスクだというクレームが来たことはないです。むしろ“そこから逃げないこと”が求められているのだと思います」と、ある種の信頼関係が視聴者と築かれているのだ。
その“信頼関係”を改めて痛感する出来事があった。『独ソ戦 地獄の戦場』(23年5月22日放送)に対し、視聴者からの指摘で内容に不正確な部分があったことが判明。再放送で修正を行った上で、番組ホームページでおわびと当該箇所を掲載した。
「お叱りを頂いたのは、この番組を信頼して見ていただいているからこそ。今後、視聴者の方々が求める精度に応えられるように、もっと気を引き締めていかなければと思っています」と謙虚に受け止めている。
■「巨大工事」「地球破壊」を描く新作
10月30日に放送されるのは、『巨大工事 世界はどうつながってきたのか』。20世紀初めに太平洋と大西洋をつないだパナマ運河建設、そしてユーラシア大陸を横断するシベリア鉄道建設を皮切りに、新たなつながりを求めて巨大工事を推し進めてきた人類の歩みを描く。
そして11月6日の放送は、『地球破壊 人類百年の罪と罰』。産業革命が進み、大量の石炭を燃やし続けて生じたロンドンの「黒い霧」をはじめ、自然からの警告に目を背けて破壊を続けてきた人類百年の歩みを映し出す。
「20世紀は、人類が地球を劇的に変えた100年でした。今振り返れば、そこには功罪両面があるわけですが、当時のフィルムから伝わってくるのは、新たに発達した科学技術がもたらす強大なパワーへの無垢なまでの熱狂と興奮です。そのダイナミックさがどれほど人々を魅了したのか。今では想像もつかないほどケタ違いのスケールで進んだ巨大工事と破壊を体感していただければと思います」と、見どころを予告している。
●久保健一
1972年生まれ、千葉県出身。東京大学大学院卒業後、97年に日本放送協会へ入局し、鹿児島放送局に配属。その後、『プロジェクトX 挑戦者たち』『プロフェッショナル仕事の流儀』『アナザーストーリーズ運命の分岐点』などを制作。22年4月に札幌放送局から東京に戻り、同月スタートの『映像の世紀バタフライエフェクト』で制作統括を務める。