今回立ち上げた新会社「g」には、『全裸監督』の山田能龍氏や、『サンクチュアリ』の金沢知樹氏など、脚本家が次々に参加した。その理由は、「自分がプロデューサーとして0から1を生み出すときに、いつも相談していたのが、『僕シリーズ』の橋部敦子さんや、『がんばっていきまっしょい』の金子ありささんなど脚本家の皆さんだったので、一緒に何かをやるなら脚本家さんだと思っていました」と明かす。
さらに、「監督やカメラマンなどはテレビ局にいるんですけど、脚本家だけはいないんです。昔は映画会社に『脚本部』みたいな部署があって脚本家を抱えていましたが、今はなくなって、そういう組織を作るのが難しいということで言うと、脚本家の集団というのは1つ勝機がある」との狙いもあるという。
系列のテレビ西日本制作のドラマ『めんたいぴりり』や、映画『ガチ★星』で注目し、局員時代から付き合いがあった金沢氏。その後に山田氏とも出会い、「このタイミングで、今“キテる”2人が参加してくれるのは本当にありがたいです」と、強力な立ち上げメンバーがそろった。
■チームライティングで担当本数を増やす
この2人が賛同した「g」の設立趣旨は、“日本のドラマ制作のつくり方を変える”というもの。金沢氏も「既存の作家事務所とは、全く異なるクリエーターチームを目指し、精進いたします」とコメントしているが、実際にどのように変えようとしているのか。
「日本のドラマづくりは、1人の脚本家さんにお願いすることが多いのですが、それだとやれる本数に限界があって、どう頑張っても年2本やるのが精いっぱいです。そうなると、脚本家の年収のアッパー(上限)が決まってしまうけど、一方でハリウッドの脚本家は、ビバリーヒルズに豪邸を構えていたりする。そうやって日本の脚本家も夢があって、憧れるような職業にしないと、日本のエンタテインメントは広がらないと思うんです。大谷翔平にみんな憧れるけど、年俸5,000万円だったら憧れないじゃないですか。ただ、日本の文化としてお金の話ばかりすると“クリエイターなのに銭ゲバだ”とか言われたりするので、それを代弁する役割として事務所を立ち上げました」
その具体的な解決方法が、「チームライティング」の導入だ。1つの作品に複数の脚本家が参加し、台本を作り上げていく方式で、ハリウッドや韓国では主流となっている。
「自分がプロデューサーで一緒に台本を作っていると、『この脚本家はセリフがうまいな』とか『本筋を作ってくれるのがうまいな』とか『ゼロからアイデアを出してくれるな』とか、それぞれ得意分野があるのが分かるんです。ドラマを1本書くというのは大変な作業なので、『セリフがちょっと甘いな』と思ったときに、そこが得意な脚本家に書いてもらうことで、1人がやれる本数も増えていく。他にも、家族を描くときに、お父さん役、お母さん役とそれぞれに担当の脚本家がいれば、そのキャラクターになりきった感情で書くことができる、というのができるといいなと思っています」
有名な脚本家は、実は弟子に書かせている…という都市伝説のような話もあるが、「それ自体が悪いとは思わなくて、いろんな人の支えの中で作っていくチームライティングがやれたらと思っています」と思案。1本を1人で担当するのに比べて単価が下がっても、エンドロールにきちんと名前を載せ、その報酬を著作権に基づいて二次利用、三次利用までgが確保し、差配することで、クリエイターに還元されるシステムの構築を目指している。