そこでこだわったのがキャスティングだった。ヒロインの陽子は稲森いずみ。若い女性と不倫し、陽子に追い込まれていく夫は吉沢悠。その恋人役に優希美青。また、陽子の同僚に内田慈。隣人の会計士夫婦に内田朝陽と安藤聖という演技派の面々を固めている。言うなれば、手っ取り早く配信の再生数を狙いに行くような人材に頼っていない印象がある。藤澤Pの言葉からその理由が納得できる。
「陽子を演じてくれる役者は、年を重ねてもきれいな方であることは大前提でしたが、同時に求めたのがお芝居の力でした。この演技力については全ての登場人物を演じる役者に必要なものだと思いました。なぜなら、見てほしいF2層はドラマ好きで、目が肥えています。それっぽいものを作ったところで見てはもらえません。本当に面白いと思ってもらえないと見てもらえないと考えたんです」
演技指導にも熱が入る。通常は現場に入ってから芝居を詰めることが多いというが、事前に演出とプロデューサー陣を交えて、稲森や吉沢ら全員とそれぞれのキャラクター分析の話し合いまで行われたそうだ。
■日本向けアレンジで最も苦心したこと
リメイクドラマである以上、基本的なストーリーやキャラクター設定はオリジナルに沿う必要があるが、BBCがローカライズ(=現地向けの最適化)を重視する方針であったことから、比較的自由にアレンジを行うことができたことも分かった。例えば、イギリス版の陽子の家族は中流家庭として描かれているが、韓国版は韓国らしく豪華絢爛(けんらん)の世界を描き、日本版はその間といったところだ。
実際に日本の制作現場を見たBBCのリメイク担当プロデューサーから「このチームであれば大丈夫」と評価されるなど、BBCと信頼関係が築けたこともアレンジをしやすくさせたようだが、課題は陽子の行動に日本人女性も共感できるような説得力を持たせることにあった。
「オリジナルのイギリス版の陽子は肉食系でもありますが、そのまま表現すると日本人には共感されにくいと思いました。日本の女性は優しくて、責任感があり、社会の目も気にします。自分が我慢すればいいと思ってしまうことも多く、日本人の主人公として陽子の秘めたる思いをどう描くべきか、共感できる部分をすり合わせていく必要がありました。ローカライズするにあたって、これが最も大変でした」
陽子が裏切られたのは夫だけでなく、同僚や隣人など周囲の登場人物も含まれる。様々な感情を抱えながら復讐を果たしていく陽子に、結果として、よりリアリティを持たせることができたのは、稲森ら俳優陣の迫真の演技に加えて、日本的要素をプラスしたキャラクターを緻密に作り上げたことも大きかったというわけだ。