• 東映ビデオ ビデオソフト発売チラシ(著者私物)

東映ビデオ(東映芸能ビデオ)では、80年代の初めに「ミリオンセラーシリーズ」と銘打ち、『仮面ライダー』や『人造人間キカイダー』『秘密戦隊ゴレンジャー』といったいくつかの東映作品をビデオソフト化していたが、1話(25分)収録で9,800円という高額であり、ファンといえども気軽に何タイトルも購入してコレクションするというのは非常に難しい状況だった。しかし家庭用ビデオデッキが一般世帯に普及し始めた1983年になると、円谷プロの『ウルトラQ』『ウルトラセブン』、ピープロの『マグマ大使』『スペクトルマン』『鉄人タイガーセブン』『電人ザボーガー』が2話入り12,800円というお手頃価格(当時としては)でリリースされ、それまでいつテレビで流れるかわからない再放送を待つしかなかった特撮ファンを歓喜させた。

特に『ウルトラQ』と『ウルトラセブン』は人気を博し、この後も好調に巻を重ねて最終的に全話ビデオ化を果たしている。そして、1983年秋には東映作品のラインナップも決まり、60年代の人気作『悪魔くん』『ジャイアントロボ』といったテレビシリーズがリリースされることになった。

  • 東宝ファミリークラブ広告

1983年春当時のビデオソフト事情がうかがえる広告(SUPER GALSコレクション表4)。東宝ビデオでは、怪獣映画の古典的名作『ゴジラ』(1954年)を70年代からビデオで販売していたが、1時間を超える作品は「短縮版」で発売するのが当たり前で、しかも個人でおいそれとは購入できないほどの価格設定だった。

やがて80年代に入り、90分(7分カットされている)22,000円の『ゴジラ(ビデオタイトルは怪獣王ゴジラ)』が発売される。今の感覚だとこれでも非常に高額に思えるかもしれないが、「ゴジラ映画をいつでも好きな時間に好きなだけ繰り返して観ることができる」というのは、40年前の特撮ファンにとって何ものにも代えがたい魅力だった。

『三大怪獣地球最大の決戦』『怪獣大戦争』『地球防衛軍』『妖星ゴラス』などはシネスコサイズを当時のブラウン管テレビ(4:3)に合わせ、左右をトリミングした状態で収録している(一部作品は数分のカットシーンもある)が、1983年に発売された『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』『モスラ対ゴジラ』『モスラ』は上下に黒マスクをかけ、限りなくシネスコに近いサイズでソフト化が行われ、しかもオリジナル全長版であったため、特撮ファンから喝采をもって受け入れられた。

  • 朝日ソノラマ『宇宙船別冊 特撮&SFビデオタカログ'84』(著者私物)

1984年夏に発行された『宇宙船別冊 特撮&SFビデオタカログ'84』は、1983年から急激に発売作品数が増加した「特撮作品のビデオソフト」を映画編、テレビ編に分け、パッケージビジュアルと詳細なデータ、解説、ミニコラムで彩った一冊。1950~60年代の東宝怪獣映画、1960年代の『ガメラ』『大魔神』をはじめとする大映特撮映画、そして『ウルトラQ』から始まる1960年代・円谷プロの特撮テレビシリーズなどのソフト化状況をこれで把握することができる。1983年秋からはバンダイもビデオソフトレーベル「エモーション」を立ち上げ、円谷プロ作品『怪奇大作戦』『マイティジャック』『快獣ブースカ』をリリース。特に『怪奇大作戦』と『マイティジャック』は特撮マニアの感情を揺さぶり、両作品とも全エピソードソフト化が実現している。

  • 東宝『東宝特撮映画全史』チラシ(著者私物)

ビデオソフトが人気を集め、さらには名画座オールナイト上映もひんぱんに開催され、東宝の大怪獣スター=「ゴジラ」にふたたび熱い視線が向けられた。ブームの中心にいたのは、1960年代に子どもだった「第1次怪獣(ブーム)世代」の青年たちだが、彼らより若いティーンエイジャーまでもが「退屈な日常を破壊するスーパーヒーロー」としてゴジラに新鮮な魅力を感じるようになっていた。NHK「ニュースセンター9時」で「若者を中心に盛り上がるゴジラ人気」を木村太郎アナウンサーが取りあげたこともあった。

世間がゴジラ・怪獣映画ブームにわく中、東宝は小松左京氏とタッグを組み、SF超大作『さよならジュピター』の制作を発表。1983年7月には、東宝創立(1932年)50周年&ゴジラ誕生30年の記念出版企画として『ゴジラ』から『さよならジュピター』まで、東宝特撮映画全作品(怪獣・SF・怪奇・戦記映画)の関係者取材と詳細解説を網羅した、東宝特撮ファン必携の書というべき豪華本『東宝特撮映画全史』が刊行された。

  • 『復活フェスティバル ゴジラ1983』ポスター(著者私物)

ビデオソフト、オールナイト上映、ホビー、音楽などさまざまな方面から『ゴジラ』と東宝怪獣映画の人気が高まってきた。熱烈な若者ファンが多数存在することを改めて認識した東宝は『メカゴジラの逆襲』(1975年)以来休止中だったゴジラ映画の「新作」製作を前向きに検討。その前哨戦として1983年夏(7~8月)「復活フェスティバル」と銘打ち、『ゴジラ』をはじめとする東宝怪獣・SF映画10作をニュープリント完全版(『キングコング対ゴジラ』のみ、この当時全長版が未発見だったため短縮版)で一挙上映(2作品セットで5回)する豪華イベントが関東(東京)・関西(大阪)・九州・中部・北海道で開催された。

小中高生の夏休みに合わせての上映だったこともあり、高額なビデオソフトを入手したり、オールナイト上映会に行ったりできないファンにとって、『ゴジラ1983』の開催はまさに朗報だった。初回上映時には復刻版ポスターがもらえたほか、毎回上映前に「東宝特撮映画予告編大会」がついているのも、嬉しい趣向であった。ワイドショーやニュース番組、新聞の文化面などで「ゴジラ復活を求める若いファンが劇場に殺到」と報じられたのも、この夏の出来事である。