元日に日テレ退社を対外的に発表してから、各方面から仕事のオファーを受け、いまも今年公開の様々な作品を準備しているという。その中で感じたのは、「クリエイティブというものが、いろんなところにまだ足りてないんじゃないか」ということだった。
「技術の進化が著しいデジタル領域においては、特に感じるんです。アンドロイド(=人型ロボット)で新しいクリエイティブを作れないかという話をプロデューサーとして、そこから生まれたのが『マツコロイド』だったように。いろんなテクノロジーが生まれたときに、それに付随して新しい表現が生まれるのではないか。他にも、TikTokクリエイターの力を作品として昇華するにはどうすればいいのか、スマホで見るバラエティって何なのだろうとか、解かなければいけない問いがたくさんある。今は、その答えをみんなが探して霧の中にいるみたいな感じがします」
日テレを退社したのは、その環境で“先頭に立ちたい”ということも、大きな理由の1つだ。
「キツいことはあるけど、そこに出ていくってすごくワクワクするし、面白いじゃないですか。今しか味わえない感覚だと思うし、きっとテレビ局ができたときの人も、そうやってワクワクしていたと思うんです。テレビという新しいテクノロジーができて、これをどうやって面白がるのかって、大先輩たちはワクワクしながら発明していた時代があると思うんですけど、そのワクワクをもう1回体験できる環境にあるのだから、最前線で味わいたいと思ったのが、日テレを辞めた理由の1つでもあります。この機会を逃したらもったいないですから」
その“ワクワク”は、インフルエンサーのような若い世代と一緒に仕事をすることでも、味わっているのだそう。「みんなキラキラしてて、“自分の人生を生きてる”という感じが伝わってきて、うらやましいんですよ。『梨泰院クラス』とか見てると、若い起業家の人たちがみんな楽しそうじゃないですか。だからそこに“いっちょかみ”したいという思いもあります(笑)」と冗談めかしながら、目を輝かせて語った。
■コンテンツの質が厳しく問われるように…制作者にとって健全な時代へ
テレビ局を離れて改めて感じたのは、「テレビって基本的な能力が培われるから、エンタメを志望する人は、テレビを必修科目の1つにしたほうが良いんじゃないかと思うんです。こんなに時間とお金とみんなのパワーを使ってエンタテイメントを作っているメディアは他にないですから」。それを踏まえ、「僕はバラエティを作っていて、今、すごくいい時代になってきてるなと思うんです」と切り出し、今後の制作者のあり方を見据える。
「今、視聴者がだんだん“理由のあるもの”しか見なくなってきてるんですよね。ニュースになったものを見るとか、面白いと分かってるから見るとか。だから、何となく作ってる番組が、なかなか選ばれなくなってきている。それは、作り手にとってすごく健全なことだと思うんです。視聴率をとるには、テクニカルなところもあると思うんですけど、それだけをやっていたら選ばれるコンテンツにはならない。Netflixやいろんなプラットフォームが日本でコンテンツをどんどん作り出すことで、コンテンツを作る上でのハードルやアイデアの質がより厳しく問われるようになってきたから、そういう競争はあって良いのではないかとすごく思います。作り手にとってはすごく苦しいことだし、めちゃくちゃキツいことなんですけど、それが日本のコンテンツ産業の競争力を高めることにもなっていくんだろうと思うんです」
そんな橋本氏が、今一番やりたい仕事として挙げたのは、コント。東大落語研究会時代、有志で「コント集団ナナペーハー」を立ち上げた同氏にとっての原点だ。
「コントって企画を決めるときの根拠がないんですよ。『僕も演者も頑張ってたくさん人気が出て、3年後に夢のようなコンテンツにします。つきましては、しばらくコントやらせてください!』って言うしかなくて、ロジカルに説明できるものではないんですよね。だから、どこかの誰かがこの記事をご覧になって、『コントやってもいいよ』ってお金を出してくれる人がいて、すぐご連絡いただければ、すぐ作ります(笑)。それがかなえられるように、まずはこの2~3年頑張って修行したいと思います」
●橋本和明
1978年生まれ、大分県出身。東京大学大学院修了後、03年に日本テレビ放送網入社。『不可思議探偵団』『ニノさん』『マツコとマツコ』『マツコ会議』『卒業バカメンタリー』『Sexy Zoneのたった3日間で人生は変わるのか!?』などで企画・演出、18年・21年の『24時間テレビ』で総合演出を担当。『寝ないの?小山内三兄弟』『ナゾドキシアター「アシタを忘れないで」』『あいつが上手で下手が僕で』などドラマ・舞台の演出も手がける。22年12月末で日テレを退社し、個人会社「WOKASHI」を立ち上げてフリーに。現在は『有吉ゼミ』で演出、『有吉の壁』で監修を務めながら、テレビの他にもNetflix『名アシスト有吉』といった配信コンテンツ、広告、舞台の企画・演出を手がけていく。