橋本氏が10本の制作過程の中で特に印象に残っているのは、ネプチューン・堀内健MCの『脳汁ジュンジュワ~』。堀内が20年以上ファミレスや喫茶店でコツコツ書き続けてきた企画を具現化したものだが、「まずノートにずっと企画を書き留めてたというのが、めちゃくちゃいい話じゃないですか。それを聞いてぜひやってほしいなと思ったんです。深夜番組やライブを想定して書いてたら、まさかのNetflixで日の目を見るっていうのもめちゃくちゃ面白いし(笑)」と、背景にストーリーがある番組だ。
しかし、堀内の頭の中を写し出したこのノートは非常に難解で、「担当演出が中原さんというめちゃくちゃ敏腕なディレクターなんですけど、4~5回打ち合わせしても、最後まで腑に落ちないまま収録に入っていったんです(笑)。“コンドルになりきって相撲を取る”っていう企画で、クチバシを用意するのか、しないのかとか、そんな答えのないことずっと話し合って(笑)」と本番へ突入。
その結果、「逆にそれがすごく良かったんです。テレビマンって、僕も含めて腑に落ちてからやろうとするんですけど、最近それが本当に正解なのだろうかとよく思っていて。若い人のSNSや表現を見ていると、腑に落ちてないままやる“勢い”というのがあるんじゃないかと思って、今のバラエティって腑に落としてきれいにやりすぎなのかもしれないなとも感じました」と、気付きがあった。
“腑に落ちない”まま突入できたのは、10本という本数を確保した上で、チャレンジする余裕があったためとも言える。「“すげぇ面白いな!”という回と“あんまり上手く行ってないんじゃないか?”という回もあって、凸凹してもいいと思って作りました。全部味の違うものを投げるというのは、そういうことだと思うんです」。
■面白いことが起こる方向へ持っていく有吉の判断力
長年にわたり有吉と仕事をしてきた橋本氏。今回改めて感じた彼のすごさは、面白いことが起こる方向へ瞬時に持っていく判断力だ。
「どの番組も誰が何をやるかというのは基本的に事前には決めてなくて、GENERATIONSの番組で言うと、誰がリアクション芸をやるのかというのもその場の流れだったりして、だからこそ“人選ミス”が起こることも笑いになってたりするんです。那須川天心さんと誰が戦うかというのも、本当に現場で決めていて、1個1個の『鼻毛ワックスマッチ』とか『熱々スライムマッチ』もどう転んでいくか分からないんですけど、失敗したと思ったら失敗したなりの調理を有吉さんがしてくれるので、制作としては本当に助けられます。『DOKI DOKIクッキング』で、錦鯉の長谷川(雅紀)さんが冷蔵庫のドッキリの仕掛けでうまくいかなかったんですけど、『これはどうなってるんですか?』『中岡(創一)くんだとどうですか?』って有吉さんが延々攻めていくと、どんどん面白くなっていく。アンミカさんの回で、ローションにタピオカを混ぜるとあんな芸術的な画が撮れるんだということも、こっちは全く想定してないですから、そこにたどり着くというのが、有吉さんのすごさなんですよね」
それを支えるのが、前述の『有吉の壁』制作チーム。「有吉さんが思いついたことに何でも対応できるように小道具を準備しておいたり、何かが変わったときにもすぐ動ける反応の早さというところで、“壁チーム”のスタッフの優秀さを改めて感じました。先の見えないことを根気強くやれる胆力があるチームですね」と胸を張り、「音楽や出演者の権利の処理など配信だから大変なこともあるんですけど、そこは日テレの(コンテンツ)スタジオセンターの皆さんが担ってくれて。だからこそ実現した部分も大きいんです」と感謝した。
■フォーマットを生かして別番組化の可能性も
いわば10本の特番を作ったという『名アシスト有吉』だが、今後の展開としては、料理中にドッキリを仕掛ける『DOKI DOKIクッキング』は、「こういうフォーマットで別の番組としてできるなと思いました。料理番組じゃなくてもいいわけですから、ニュースをやりながらでもいいし、いろんな可能性があると思います」と思案。
さらに、「もしかしたらこの配信を見て『MCをやりたい』という俳優さん、アーティストの方、もちろん芸人さんが出てくるかもしれないですから、そういう流れでやれたらまた面白いのかなと思います。ホリケンさんはもう1回やりたがっていて、『次やるときは合宿して中身を詰めたい』とおっしゃってくれていますし(笑)」と期待を述べた。
●橋本和明
1978年生まれ、大分県出身。東京大学大学院修了後、03年に日本テレビ放送網入社。『不可思議探偵団』『ニノさん』『マツコとマツコ』『マツコ会議』『卒業バカメンタリー』『Sexy Zoneのたった3日間で人生は変わるのか!?』などで企画・演出、18年・21年の『24時間テレビ』で総合演出を担当。『寝ないの?小山内三兄弟』『ナゾドキシアター「アシタを忘れないで」』『あいつが上手で下手が僕で』などドラマ・舞台の演出も手がける。22年12月末で日テレを退社し、個人会社「WOKASHI」を立ち上げてフリーに。現在は『有吉ゼミ』で演出、『有吉の壁』で監修を務めながら、テレビの他にもNetflix『名アシスト有吉』といった配信コンテンツ、広告、舞台の企画・演出を手がけていく。