地元・名古屋では、名古屋シネマテークという座席数50人ほどの小さな映画館でいつも上映しているが、「ヒットさせたいと欲が出て、1回浮気して、もう少し大きな劇場に変えたことがあるんです」という過去も。

その結果、「シネマテークには手渡した作品をきちんとかわいがってくれる関係性があったのが、変えた映画館では全く違っていたんです。作品がただの“物”として扱われたと感じたので、またシネマテークに戻らせてもらいました。映画館にもそれぞれの気持ちがあって、そこに呼応するようにしていかないと、やっぱり関係は長続きしないんだなと思いました」と、1つの教訓になった。

最新作『チョコレートな人々』で密着し、心や体に障害がある人、シングルペアレントや不登校経験者、セクシュアルマイノリティなど多様な人たちが働く「久遠チョコレート」は、東京や都会の駅前の一等地に店を構えず、儲かるかどうかよりも、その地域でどんな店づくりや人づくりを目指すのかに情熱を燃やす人がいないと出店しない方針を採っているが、この考えに通じるところがあるようだ。

  • 『チョコレートな人々』 (C)東海テレビ放送

また近年は、NetflixやAmazonプライム・ビデオ、さらには系列キー局のフジテレビが運営するFODなど、サブスクの映像配信が発達しているが、そうしたサービスに一切作品を出していない。DVDやBlu-ray化もされていないが、その狙いは何か。

「そういうお話も頂くのですが、僕らを育ててくれたのは、小さな映画館なんです。テレビか、単館でしか見られないという作品でいいんじゃないかと思うんです。ジブリ映画と同じようなイメージです。みんなが配信系に行っても、私たちはやらない。それほどの威力があるわけではありませんが、他と同じことをしていたら埋没するので、“東海テレビのドキュメンタリーは、ここでしか見られない”というほうがいいと思っています」

■視聴者を信じた番組作り「一生懸命見てくれる人を対象にすべき」

東海テレビのドキュメンタリーの特徴の1つが、ナレーションの少なさだ。テレビは視聴者にいかに分かりやすい番組を作るかというのがセオリーだが、「見る人を信じているんです。視聴者は僕らよりもよっぽど想像力があって、見る力のある人たちだと思っているので、何か啓蒙的な気持ちで放送したり、映画化して上映するなんて気持ちはサラサラない。僕らは見つけてきたものを、今の世の中にリリースするというくらいの気持ちで出していて、あえて余分な説明をしなくても感じ取ってもらえると思っているので、ナレーションはどんどん減っています」と、その狙いを明かす。

ながら見の視聴者がいることも承知の上で、「テレビも映画も、一生懸命見てくれる人を対象にすべきだと思うんです。一生懸命見てくれる人に、一生懸命作ったものを手渡す。そこに、啓蒙的な意味合いなんて、全くいらないと思います」と、重ねて強調した。

もう1つ特徴として挙げられるのは、スタッフを大事にする姿勢だ。映画のホームページを見ると、大体の作品は監督や脚本家のプロフィールが紹介されるくらいだが、『チョコレートな人々』では、鈴木祐司監督に阿武野プロデューサー、ナレーションの宮本信子、さらには音楽(本多俊之氏)、音楽プロデューサー(岡田こずえ氏)、撮影(中根芳樹氏)、音響効果(久保田吉根氏)、編集(奥田繁氏)に至るまで、これまで手がけた作品などの略歴を詳細に公開している。

「僕らのチームは、『ここからここまでが編集の仕事』とか『ここからここまでが音効の仕事』とか思わないスタッフなんで、すごく伸び縮みがきくんです。ある時は構成マンであり、ある時はディレクターでありみたいなスタッフなので、このメンバーがいないと映画はできないですね」という絶大な信頼を、プロフィールの紹介という形で反映させているのだ。