• (左から)吉野真治アナ、寺川俊平アナ、山崎弘喜アナ (C)テレビ朝日

出演者・スタッフなどをテレ朝に完全パッケージで発注するという形態ではなく、ABEMAからも現地派遣を含めてスタッフを立て、生対応における様々な判断を行う人員や、サポートを担う人員などを配置し、クリエイティブ関連のスタッフや広報・宣伝まで入れると、携わるのは300人以上にのぼる。1つの大会にここまでの規模のスタッフが関わるのは、もちろん開局以来最大だ。

実況担当としては、テレ朝から「ABEMA FIFA ワールドカップ サポーターイレブン」に就任した寺川俊平アナをはじめ、吉野真治アナ、山崎弘喜アナというサッカー中継の経験豊富な3人が現地入り。さらに、他のスポーツを主に担当するアナウンサー、Jリーグ中継で実績のある系列局のアナウンサーも参加し、約20人体制で臨む。これは、「2021年の東京オリンピックに匹敵する規模」(長畑氏)だという。

一方で解説者は、従来のサッカー中継で依頼する人だけでは到底足りない。そこで、「テレビ朝日ではしゃべったことがないけど、他局や他動画サービスに出ている方、選手時代にお付き合いのあった方々に対してもご連絡をしています。もう“アベンジャーズを作る”という感じです(笑)」(長畑氏)とギリギリまでブッキングを行い、こちらは約40人が参加することになった。

解説陣の大きな看板として、「ABEMA FIFAワールドカップ2022プロジェクト・ゼネラルマネージャー(GM)」に就任した本田圭佑氏が参加。大きなスポーツ中継でありがちな“スペシャル解説”といった形で、通常の解説者のプラスアルファで参加するのではなく、日本代表のグループステージ3試合、準決勝・決勝の試合解説として現地から解説を行うため、頻繁な発言機会が期待できそうだ。

  • “アベンジャーズ”のABEMA解説陣 (C)AbemaTV, Inc

■スマホ・ネット視聴を意識した画面作り

ABEMAはスマホを中心に、PC、テレビと様々なデバイスで視聴され、なおかつすべての視聴者がインターネットに接続された状態にある。それを踏まえての画面作りは、どのように意識しているのか。

「実況者が話していることで分かりづらい部分があると、テロップを出して補足することで、見ている人が手を動かさずに受動的に楽しめるようにするというのが、従来のテレビの作り手として意識するところです。一方、スマホなどネットで見ていることが前提となれば、様々なデータに非常にアクセスしやすい状況だと思えるので、そこは思い切ってテロップの補足を減らして、小さな画面でも見やすくするということになります。

 また、例えばコーナーキックのところで、どのような戦術でゴールに結びつけようとしていたのかを実況と解説が話しているときに、それが分かるような角度のカメラの映像をスローで見せていくわけですが、今回はマルチアングル映像から視聴者が自分でカメラを選択できるので、受け身だけじゃなく“攻め”で情報を取りに来るつもりで見ているということを意識しながら作ることになると思います」(長畑氏)

ただ、その作り方を64試合一律に適用するわけではない。「日本戦を楽しみに見ている方と、もうちょっと玄人好みの試合を楽しみになさっている方とでは、視聴者層が多分に違うと思うので、それぞれの試合で区分けをしていくのが、64試合に向き合う上でのやり方かなと思います」(長畑氏)と、各試合に適した中継スタイルを追求。

ABEMAで行っている英プレミアリーグの中継は、ワールドカップに向けてある種のトライアルの場にもなっているが、「ワールドカップは世界的なコンテンツをいろんな角度から楽しんでもらうため、64試合を通じてしっかりと見せていくというのが根底にあるので、プレミアリーグだけでその感覚をつかむことは、なかなかできないというのが正直なところです」(塚本氏)と打ち明ける。マルチアングル映像も、今回のワールドカップが本格導入の最初の事例となるだけに、最初は本番で試行錯誤しながら取り組むことになりそうだ。