高級ウォークマンにも通ずる“手わざ感の魅力”
会場では、ソニーグループ クリエイティブセンター スタジオ3 クリエイティブディレクターの詫摩智朗氏に話を聞くことができました。
はじめにmanufacturing fascinationの展示物について。サブタイトルに“手わざ感の魅力”とあるとおり、数年前は、クラフトマンシップ(職人技)を製品デザインに落とし込むことを考えていたそう。オブジェを見ても、なるほど美しい仕上がりです。
実際、これはウォークマンのハイエンドモデル「NW-WM1Z」のデザインにつながりました、と詫摩氏。会場に展示されていた製品を見てみれば、納得! デザインのコンセプトがコンシューマの製品に落とし込まれた好例でした。
そして詫摩氏は「カメラなどのデジタル製品であっても、使い込んでいくうちに出てくる“味”みたいなものを大切にしたいと思うんです。『買ったときが最高』ではなくて。たとえば少し色が剥げても、ちゃんと良い味わいが出るように」と続けます。
ところで、世界はここ数年の間にグローバル規模でパンデミックを経験しました。そこで一昨年ほど前のデザインを振り返ると、銅や真鍮が腐食している様子、サビている様子を表現したものがありました。これはこれで美しい…。
ふたたび最新のデザインに目を移すと、そこにはキノコ由来のエシカルレザー(マッシュルームレザー)が登場しています。サステナビリティを象徴しているかのよう。ひと昔前であれば考えられなかったデザインと言えるでしょう。
“世界中で同じものを提供しよう”とグローバル化が進んだ時代を経て、ここ最近はローカルの良さに回帰する考え方も出てきた、と語る詫摩氏は、ここでユニークな例えを出します。
「例えばウォークマンを作っている工場から出てきた廃棄物を集めてみたら? そこからも何となくウォークマンっぽい感じがするのでしょうか。もし、そんなことがあり得るのだとすれば、それもひとつの味。いま、物流で世界中のモノが動く時代から、ローカルの良さを見直す時代に移りつつあるのかも知れません」(詫摩氏)。
デザイナーはソニーグループのさまざまな商品やサービスをデザインしており、世界中に散らばっています。そして流行には、早い遅いの地域差があるのも事実。そんな背景も踏まえて、詫摩氏は「常に考えなければいけないのは、デザインに落とすタイミングです。場合によっては、早めに宣言しなきゃいけないときもあります」と話します。
機能的な素材をデザインに落とし込む。“しなやかな適応性”
次はresilient tech(しなやかな適応性)がテーマ。同氏は「見てくれだけ可愛い、素敵……という話じゃなくて、『物理的に働くマテリアル』を求めていく考えです」と説明します。どういうことでしょうか?
そこには、青色を基調としたクリスタルのようなオブジェがひとつ。説明書きには「赤外線の反射率が高く遮断効果のあるブルーカラー」とあります。つまり機能性を兼ね備えたデザインというわけですね。
いまや抗菌は当たり前で、それをより美しく表現したものが求められている、と詫摩氏。例えばシリコンとステンレスという2種類の抗菌マテリアルをつなげてきれいなコントラストで仕上げる。あるいは「より人に寄り添うマテリアル」として、微細なメッシュで覆った形のオブジェもあります。宇宙でも使えるという、スペースレディ時代のマテリアルをイメージした「Visionary」も展示されていました。
【お詫びと訂正】初出時、デザイナーの所属先の説明の一部に誤りがあったため、記事の該当箇所を更新しました。お詫びして訂正します(10月26日 11:00) |