●VTuberのはしり!?舐められているくらいが丁度よい

──アドリブパートの感覚は、VTuberとかを観ている若い世代のほうが刺さりやすいかもしれませんね

そうた監督 実際、VTuberみたいだと言われることもありますが、自分のほうが先にやっているんですよ。元祖を主張するつもりはまったくありませんが、けっこう走りみたいなことはやっていた。ただ、今のVTuberって、何段階も先を行っている。この例えが正しいかどうかはわかりませんが、セックス・ピストルズを好きなブルーハーツを好きなガガガSPみたいな時期になっているんですよ。しかもガガガSPのほうがピストルズのCDよりも週間ランキングでぜんぜん売れていて有名という時代にガガガSPを好きになった人が、今更ピストルズを意識することはあまりないと思うんですよね。だから、VTuberから入った人からすると、自分なんかは謎のおじさんでしかない。もちろん、ピストルズがいなくてもガガガSPは出てきたかもしれないし、僕がいなくてもどこかのタイミングで同じようなことをした人は出てきただろうし、『gdgd妖精s』じゃない何かが生まれたかもしれない。その意味では、ひとつの文化の大きな流れの中に僕も巻き込まれて楽しんでいたんじゃないかと思っています。そもそも時間がたってモーションキャプチャーの技術が安価に落ちてきた時点でみんな同じようなことするでしょうし、普通にVRチャットなんてものもありますからね(笑)。

──気づかないうちにそうた監督の影響を受けているかもしれない

そうた監督 絶対にキズナアイの影響のほうが大きいと思います(笑)。流れの中には間違いなくいたんだと思いますけど、それをわざわざ口に出すとムカつかれてしまうだけですから。全体の得と、自分の得を考えると、自分だけが得をしても仕方ないのかなって最近は思います。みんなが得をするのであれば、それはそれで問題ないし、その意味では、舐められているくらいが丁度良いのかなって。100万人が嬉しくて少数がムッとしているか、100万人がムッとしていて少数が嬉しいか。功利主義に基づいて考えるならば、最大多数の最大幸福が正義ですから。

──功利主義で言えばそうですが、なかなかそこにはたどり着けないのでは?

そうた監督 たとえ新しいギターの弾き方を編み出したとしても、名曲が生まれるわけではありません。名曲はその人の血と汗の結晶。時間と努力と人生を賭けて生身の魅力で生み出したものであり、各々の才能で生み出したものだと思っています。

──新しい弾き方を編み出すのも才能だと思います

そうた監督 自分は新しい技術を取り入れただけで、何も開発はしていませんから(笑)。そこを勘違いしてはいけないと思います。ただ、その意味で言えば、ニコニコ動画の「踊ってみた」や「歌ってみた」のツリー文化は、いろいろなサイトに影響を与えているのに、何の見返りもなくて可哀想だと思っています。絵文字もそうですが、日本は基本早いんですよ。でも、いつの間にか世界に吸収されて、当たり前になっていく。結局「誰かの」じゃなくて、人類に備わっている原動力、いろいろな人たちの協力、キャッチボールでの開発、流れで出来上がった繋がりのバイオリズムが“文化”になるのだと思います。発明者にとっては理不尽な話ですし、個人的にはニコニコ動画も絵文字ももっともっと評価されるべきだと思ってはいますが。

●アニメ化でジャイ美とスネ子を追加

──アニメ化するにあたり、トニオ以外のキャラを変更して、ジャイ美とスネ子にしたのはなぜですか?

そうた監督 先にもお話した通り、萌えを追い求めた結果ですね(笑)。自分は特にツンデレが好きなんですけど、ジャイアンみたいなキャラでも女の子だったら、ちょっとくらい横暴でも許せるじゃないですか。逆にそれが萌える。そこからジャイ美が生まれて、それに対抗する形で、真面目でしっかりものキャラとしてスネ子が生まれた。最初、悪い輩に絡まれている女の子をジャイ美が助けてボコボコにしたり、スネ子が生徒会でみんなから慕われている様子をちゃんと描いた第1話を作ったんですけど、普通の漫画みたいでまったく面白くない。これを1話にしたらみんなが1話切りするなってカットしました(笑)。

──それはそれで観てみたい気がします

そうた監督 今なら逆に出せるかもしれませんが、テレビ用にキャラ紹介を省略してしまった結果、ジャイ美もスネ子も本来の設定からちょっと離れてしまったところはあるかもしれません。特にスネ子は、頭が良くて、誰からも慕われる、すごくしっかりした生徒会長なんですけど、放送だけ観ていると、その要素がないですよね。そこはちょっと申し訳ない感じがしています。ただ、その分だけ、共感してくれる人も増えたんじゃないかなって。スネ子が一般代表みたいな立ち位置になることで、博士とジャイ美のキャラがすごく引き立っている。博士はたまにボソっと言う一言で相手を刺すキャラだし、ジャイ美は基本的に上から目線。そうなると、相手を褒めたり、素直に笑ったりできるキャラってスネ子しかいないんですよ。それを大空(直美)さんがすごく理解して、自己犠牲で場の雰囲気を作ってくださったので、非常に助かりました。

──特にアドリブパートは、キャラになりきり、キャラとして発言しなければならないので、大変だったのではないかと思います

そうた監督 『gdgd妖精s』を作ったとき、それまではあまり萌えというのをやってこなかったので、不条理ギャグと萌えを3DCGの中で成立させるという、針の穴を通すような感覚があったのですが、その意味で、声優さんもアドリブでやりつつ、キャラも保ちつつという、まさに針の穴を通すような感覚で頑張っていただきました。