それぞれの作品に込めたこだわりを聞いてみると、『元彼の遺言状』については、「鈴木雅之監督と事前に話したとき、ビジュアルの世界観は“クラシックミステリー”ということをおっしゃって、打ち合わせするたびに“クラシック”という言葉をキーワードとしていたんです。だからそこは『ちゃんと表現しなきゃ』と思いました」。
また、「1話から2話の舞台となる別荘がこのドラマ全体のイメージを決めるものになったのですが、麗子さん(綾瀬はるか)が2話の最後にボロい法律事務所に行くので、最初の別荘は奥行きや光の入り方も重視しながらいかに豪華にするか、そしてボロい事務所との対比をどう見せるか、もテーマにしていました」と設定した。
■『ナンバMG5』強烈キャラたちに負けない難破家の装飾
『ナンバMG5』は、「普通の高校とヤンキーの高校が同じ場所で向き合っている。そこがこのドラマの世界観の全てですよね。別々で撮って編集でなんとかするという話もあったのですが、本広克行監督の意向もあって、原作通り向き合った場所でしっかり撮った方が面白いんじゃないかということで、あのセット、あの世界観を集中して考えました」。
その特徴的な “向かい合う正門”は、どのように作り上げたのか。「撮影をしているのは実際にあった高校の敷地内なのですが、実は、ドラマに出てくる向かい合う正門は新たに作りました。本当の正門の奥にすごく広い駐車場があって、そこに2つの正門を作ったんです。校舎が見える角度なども工夫しているんですよ」と教えてくれた。
主人公一家である難破家の造形もにぎやかな装飾が施されているが、「まず外観の撮影から始まったんですけど、普通の住宅地の、普通のお家を『これはやり過ぎかな?』というくらい飾ったんです。でも、あの家族たちが出てきたのを実際に見たら『飾りがキャラクターに負けてるな』と思ったんですよ(笑)。そこで、家の中のセットは後の撮影だったので、鎧を飾ったり、お母さんのキッチンに電飾を付けたり、もっと『やり過ぎかな?』というくらい飾り付けました」と思い切った。
しかし、「あれだけ飾ってみても、まだまだ強烈なキャラクターに負けてしまうなと思い、3話以降でこっそり飾りを増やしています(笑)。それだけ面白い家族になればいいかなと思います」と、自主的に加えたアイテムも。動画配信サイトで見返してみると、思わぬ発見があるかもしれない。
■『やんごとなき一族』スタジオ目いっぱいに作ったリビング
『やんごとなき一族』では、「『元彼』と『やんごとなき』が、“豪邸かぶり”してしまったので、最初はちょっと焦りました」という事態が。それでも、『元彼』はクラシックという部分にこだわり、『やんごとなき』は田中(亮)監督が、彼らしいポップさを求めて、画面を重たくせず役者さんの衣装が映えるように、リビングをとてつもなく広くて明るく豪華な感じにしました。また、一族の当主役の石橋凌さんがとってもかっこいいので、モダンに寄せて、重厚感というよりもセンスがある方向性へ持っていき、『元彼』とは違った豪邸を作ることができました」と差別化に成功した。
今作でユニークなのは、リビングに鎮座する“家族が向き合わない大きなテーブル”だ。「最初は原作通りというか、『元彼』の第1話の別荘にも登場したような大きなテーブルを想定してデザインを描いていたんですけど、監督に『家族団らんをしない、向き合わない家族にしたい』と言われて、家族が一列で横並びになるテーブルを作りました。“横並び”は、実は監督の発案で、家族が向き合わないテーブルをメインポジションにして、リビング全景を見せる空間を作りました」。
“大豪邸の外観”は規格外の豪華さだが、お屋敷はゴルフ場、家族や使用人たちが帰宅を出迎えて並ぶ大きな廊下は芸術劇場でロケをしている。しかし、「監督があの場所を選んだとき、大丈夫かな…って心配になりました(笑)。というのも、湾岸スタジオでも今回は小さいほうのスタジオだったので、あの外観に合うリビングのセットを作れるだろうかと思ったんです」と不安を抱えることになった。
この解決策として、通常のドラマは複数のセットをスタジオ内に建てるところ、「やっぱり大げさにしないと面白くないということで、リビングルームはスタジオを目いっぱい使って、これだけ建てています。ということで、主人公夫婦の離れの部屋を撮るときは、リビングがある巨大なセットの一部を移動して組み替えて…と作っているんですよ。分かる人には分かるのですが、リビングの壁と離れの壁は共有しているんです(笑)」と、知られざる工夫が凝らされている。