――そもそもアロマンティック・アセクシュアルについて描きたいと思ったきっかけを教えてください。

海外のアニメを見ていて、アロマンティック・アセクシュアルという言葉を知ったのですが、興味を持ったという意味では、その前後ぐらいから、男女の恋愛しか存在しないように描かれる物語に違和感を抱いていました。海外ドラマなどではいろんなセクシュアル・マイノリティの人が登場する。日本もそうなるべきだなという気持ちがあり、自分の中の勝手なルールとして様々なセクシャリティの方を出すように意識しています。

――今後、どのような作品を描いてみたいと考えていますか?

生きづらさを感じている人を描きたいという気持ちは変わらず、もう1回アロマンティック・アセクシュアルの方について書きたいと思っています。1回書いておしまいというのは嫌で、主人公でなくても、アロマンティック・アセクシュアルの人が登場し続けるような作品を作りたいなと。そして、何年か経ってアロマンティック・アセクシュアルの認知度が上がったときには、その人たちの苦しさやしんどさではなく、生きやすい世の中に変わったというお話が書けたらいいなと思っています。

――『恋せぬふたり』をきっかけにアロマンティック・アセクシュアルについて知ったという方も多いと思いますが、どんどん理解ある方が増えていくといいですよね。

本当にそう思います。今、ゲイやレズビアンが作品に登場していても、いちいち「男性が男性に恋愛指向を、女性が女性に恋愛指向を持つこと」なんて説明もないですよね。アロマンティック・アセクシュアルもそうなっていくためには、それに関する発信をする人が増えていくことが大事なのかなと。その発信を当事者個人に強いるではなく、社会やエンターテイメントで補える部分があると思うので、私に限らずアロマンティック・アセクシュアルに関する物語を正しい知識で書く方が増えていくといいなと思います。

――エンタメの力というか、エンタメだからこそ届けられるものがありますよね。

ニュースは見ないけどドラマは見るという方もいますし、エンターテイメントを通して世界を広く感じられたり、世の中に対して優しくなれる人が増えたら素敵だなと思います。

――ちなみに当事者の方の気持ちはどのように掘り下げているのでしょうか。

『恋せぬふたり』では、当事者の方が考証として入ってくださっていたので、言葉を汲み取りやすかったですし、取材もたくさんさせていただきました。また、当事者の方が発信されているブログやSNSをチェックしたり、本を読んだりしています。

――セクシュアル・マイノリティのお話を伺いましたが、ほかにも挑戦してみたいことがありましたら教えてください。

以前、ティーン小説を書いていたことがあるのですが、最近また若い人や子供向けの作品にも興味が出てきました。感受性豊かな子供のうちに一歩踏み出すと、知識はそこからどんどん根を広げていくと思うので、それを投じられるのは素敵だなと。

――子供向けの作品も多様性を伝えるものを?

そうですね。男の子のプリキュアや女の子のライダーがいるというのもその一つだと思いますが、もう少し踏み込んだセクシュアリティをエンタメでやってみたいなと。それを見て育った子が生きやすくなるというようなことができたらうれしいです。

――生きやすい世の中にしたいという思いが本当に強い方なのだなと。それにつながる作品にやりがいを感じるようになったきっかけがあったのでしょうか。

セカンドライターを務めたアニメ『DOUBLE DECKER! ダグ&キリル』(2018)でLGBTQに触れるキャラクターを出したり、親が亡くなる子供の話を描く際にソーシャルワーカーという言葉を出したりしました。お勉強チックになりそうな題材でも、ちゃんとエンタメに昇華できたなと自分の中で自信につながったので、『ダブデカ』が大きいですね。『ダブデカ』がなかったら、『チェリまほ』で原作にないセクシュアリティに触れるキャラクターを提案することはなかったので、『恋せぬふたり』にもつながってなかったと思います。

――『チェリまほ』や『恋せぬふたり』でさまざまな男女の関係を描いていく中で、ご自身の人生観や恋愛観など変化はありますか?

恋愛話を聞くときに、以前は「最近どう?」というようにワンクッション置くぐらいでしたが、ツークッションぐらいは挟むようになりました。『恋せぬふたり』の考証の方が、「兄弟の話をする時に『兄弟はいるの?』から始めるように、『恋愛の話するの嫌じゃない?』とか『恋愛の話していい? 聞いていい?』から始めるだけで傷つく人が減る」とおっしゃっていて、なるほどなと。誰しも恋愛をすると決めつけて話をするのはやめようと、それはすごく大きな気づきでした。