民放初の自己検証番組として1992年4月にスタートしたフジテレビ『週刊フジテレビ批評』(毎週土曜5:30~ ※関東ローカル)が、放送30周年を迎えた。「視聴者とテレビ局がお互いに語り合いながら番組作りを進める」というコンセプトを掲げてスタートしたが、インターネットの発達とともに、視聴者のテレビ局に対する声も変わってきているという。
30年にわたってテレビを見つめ続けてきた同番組は、メディアをめぐる環境変化に伴い、その役割もより大きくなっているようだ。荒木勲チーフプロデューサーに、話を聞いた――。
■「最近のフジテレビはどうですか?」とひたすら質問
第1回放送で、当時の日枝久社長(現・相談役)が「放送番組が独善に陥らないように、本当に大切にしていかなければならないのは、視聴者の目であり声。テレビが一方的に視聴者に語るだけでなく、視聴者とテレビ局がお互いに語り合いながら番組作りを進めることが、よい番組を作り、放送文化の向上につながる」という姿勢を説明してスタートした同番組。
荒木CPは「今ではネットもあるので、様々なご意見を頂くのは普通になっていますが、当時は視聴者の方が声をあげるというのが難しい状況の中で、放送のクオリティを上げるためには、ご意見を取り上げるということをやったほうが良いのではないか、ということで番組が立ち上がったと聞いています」と解説する。
現在は局に届いた視聴者意見を毎週紹介しているが、番組開始当初は街頭インタビューを実施。初回放送では「最近のフジテレビはどうですか?」とひたすら質問し、その回答を放送していくというスタイルだった。
局には毎週数千単位の視聴者意見が寄せられ、ドラマの最終回などは好意的な声が多く、スポーツ中継などは番組終了のタイミングや延長の是非などをめぐって様々な指摘が増えるという。そこから番組では毎週6~7個程度を紹介。ここで意識するのは、“フジテレビに対する意見”を選ぶということだ。
「番組への批判ですとMCの方に直結するケースがかなり多いのですが、制作側の演出で出演者の方にやってもらっている部分が多分にある中で、そうしたご意見を紹介するとご迷惑をかけることになるので、気をつけています。あくまで我々が放送していることで責任を負うことを紹介したいので、そこはスポーツ中継のアスリートやニュースの当事者に対するご意見についても同じですね」
■視聴者意見が番組作りに生きる場面が増加
視聴者の声は、この30年でどのように変わってきているのか。1つは、ネットが発達して従来のハガキや以外にも意見を届ける間口が大きく広がったことで“量”が増え、一方通行だったテレビと視聴者の双方向の関係が活発になった。
それに加え、「ご意見の内容が非常に細やかになっていると思います。おそらく、TikTokなど短い動画に慣れているので、1秒のカットでも違和感があったり、良いシーンだと思ってくれたりして、テレビマンが気づかないようなポイントも感じ取って意見をくださるようになりました。制作サイドがMCの言葉に注目してテロップを入れていても、その後ろにいるゲストの方のちょっとしたしぐさを指摘した意見があったりして、すごいなと思いますね」と、その“質”も高くなってきているという。
さらに、「今の視聴者の皆さんは自分で動画編集もされるので、編集点が分かるんですよね。だから、ニュースで首相会見を流すときに編集を入れると、『その間に何を言っていたのかを知りたい』というご意見もあります。なので、カットした部分で発言の意図を変えているというような疑念を抱かれないように、制作側もより気を引き締めないといけないなと感じます」と話し、以前に比べて視聴者意見が番組作りに生きる場面が増えているそうだ。
■「自分たちを見つめ直す機会」として放送するもの
番組では、月1回行われている「番組審議会」「社外モニター会議」というそれぞれ識者・一般視聴者が番組について意見を交わす会合の模様を放送。これをテレビで流すことによって、「制作者が頂いた意見を客観的に見て、番組作りに反映させるんです。どうしても会議に出ていると当事者としての対応でいっぱいいっぱいになってしまうのですが、これをテレビの放送で見るとまた違う構図が見えてくるので、メディアとして奢らず、自分たちを見つめ直す機会になっているのではないかと思います」と意義を語る。
他局の自己検証番組では、ナレーションで短く紹介する程度だが、毎週放送の30分番組という比較的放送枠が大きい『週刊フジテレビ批評』では、会議の映像と音声を生かしてVTRを編集。「『爆買い☆スター恩返し』では番審の識者で意見が分かれたのですが、討論の言葉をそのまま使わないと伝わらない熱があるんです」と、その狙いを明かした。