「生放送のドラマ」と言えば、最近では『恋仲』(2015年、フジテレビ)、『彼女はキレイだった』(21年、カンテレ)での最終回のラストシーンなど、番組内の一部で実施する事例はあるが、フジテレビで31日に放送される『生ドラ!東京は24時』(24:25~ ※関東ローカル)は、「完全ワンカット生ドラマ」にチャレンジするということで話題だ。
主演に勝地涼、番組ナビゲーターに八嶋智人、脚本・演出に劇作家の奥村徹也氏(劇団献身)を迎え、深夜のカラオケボックスを舞台に、いつまでも青春にしがみつく男たちのシチュエーションコメディーが繰り広げられるが、なぜこのような前代未聞の試みに挑むのか。
仕掛けるのは、『ホンマでっか!?TV』『アウト×デラックス』といったバラエティ番組のプロデューサー・五十嵐元氏(フジテレビ第二制作部)と、『コンフィデンスマンJP』『ミステリと言う勿れ』などのドラマプロデューサー・草ヶ谷大輔氏(同第一制作部)。部署の垣根を越えてタッグを組んだ同期入社の2人に、この挑戦の狙いや、出演者・スタッフの熱気、そして緊張の本番へ向けた意気込みなどを聞いた――。
■新しいクリエイター発掘も主眼に
学生時代、自ら舞台に立っていたこともあり、演劇が大好きだという五十嵐氏。このコロナ禍で、多くの公演が休止に追い込まれるなど逆風にさらされている現状を見て、「“生の芝居の面白さ”をもっとたくさんの人に知ってもらいたい」という思いから、草ヶ谷氏に相談してこの番組を企画した。
企画を通す判断を行う編成が評価したのは、生放送でやる面白さもさることながら、「新しい才能を発掘する」という点だった。
「コロナで舞台の数が減っている中で、我々バラエティのスタッフもドラマのスタッフも、劇場に足を運ぶ機会が少なくなり、新しい才能と出会うきっかけも、この2年でなかなかなかったんです。また、80~90年代にあった、いわゆる小劇場ブームから、三谷幸喜さんや宮藤官九郎さんなど、誰もが知る国民的な劇作家が出た一方、最近の若い世代には、なかなかそこまでの方がいらっしゃらないという現状があるので、今まで一緒にやったことのないクリエイターや劇作家の方を発掘していくというのも、大きな目的としてあります」(五十嵐氏)
そこで白羽の矢が立ったのが、今回、脚本・演出を務める奥村徹也氏。2014年に劇団献身を旗揚げし、16年に劇団ゴジゲンへ加入。俳優としても活躍しながら、演出した舞台『アルプススタンドのはしの方』(19年)で「浅草ニューフェイス賞」、脚本を担当した短編映像作品『利用規約の男』が「第25回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門審査委員会推薦作品」に選出されるなど、小劇場界で注目を集める人物だ。
五十嵐氏は演劇関係者の口コミで名前を知り、配信で舞台作品を見て、最初はTwitterのDMでコンタクト。「『突然すみません、フジテレビの者なんですけど、一度お話させていただいてもいいですか?』と、いかにも怪しい感じで連絡が来たと思うんですけど(笑)、自分も演劇をやっていたとお話をさせていただいたらすごく共感していただけて、『ぜひ一緒にやりましょう!』と言っていただきました」(五十嵐氏)と、実現に向けて動き出した。
■『FNS歌謡祭』やスポーツ中継の技術スタッフが参加
カメラ1台で場面の切り替えもCMもなく、一気に生放送する「完全ワンカット生ドラマ」を謳う今作。入念な打ち合わせが必要になるカメラ・照明・音声など技術チームには、普段ドラマを撮っているスタッフではなく、『FNS歌謡祭』といった音楽番組やスポーツ中継など、生放送の経験豊富なメンバーが参加するため、通常のドラマと全く違う撮り方になるという。
草ヶ谷氏は「そもそもの発想として、ドラマは画や照明を作り込んで丁寧につないでいくことこそが醍醐味だったりするのですが、今回はなるべく作り込みすぎないで世界観を作っていく作業なので、これはドラマにはない発想だと思いました。制約の中で、ある種の割り切りによって、ライブ感や緊張感が多分に伝わる映像になるので、非常に新しいものになっていると思います」と解説。
さらに、「今回はいわゆるNGがないんですけど、生をやってる技術さんがすごいと思うのは、ハプニングやアドリブのお芝居があってもそれを拾える俊敏さを持っているんです。何か面白いことが起きそうな予感がしたら画を広くするとか、極端な話、画がもたないと思ったら動いてくれる。そういう技術さんの腕も、普通のドラマと違う面白さだと思います」と予告した。
1時間の番組枠のうち、ドラマパートは30分を予定する。一見余裕をもたせているように思えるが、ドラマ以外でオープニングアクト、メイキング、アフタートークを設定し、CMを入れるタイミングも決まっているため、芝居が盛り上がって予定時間を大きくオーバーするのはNG。本番では、ここの緊張感も味わえそうだ。
これまでも、ドラマ内の一部を生放送にするという取り組みはあったが、その多くが作り込まれた通常のドラマへいかに近づけるかを目指していた印象だった。それに対して今回は、ハプニングも楽しんでしまおうという意識で臨んでおり、草ヶ谷氏は「カラオケボックスの建物からはみ出たところでもお芝居が繰り広げられていきますし、ワンカットなのにめちゃくちゃ画変わりします。手前味噌なんですが、映像のイメージを見て『フジテレビ、すごいことやってるじゃん』って自分でも思ってしまったくらいです」と胸を張る。