マイアミ:『街録ch』は、あのサムネ(イル画面)がすごいですよね。
木月:そうそう、サムネがすごい。圧倒的な文字数。
三谷:最初はYouTuberのセオリーに則って、7~10文字くらいで考えて、それにプラスして一般の方が出るから顔を大きく映してカッコいい風に見せてあげたらどうかな…くらいの感じでやってたんですけど、今の文字数の量にしたらめっちゃ伸びたんですよ。最初は片側にしか文字を入れてなかったんですけど、ある時、そこには書き切れないくらい情報量が多い人に出会って、かつそれまで蓄積された傾向だとものすごい伸びそうな文言が入れられるなと思ったので、試しに3行にしてみたらめっちゃ再生されたんです。当時は、世の中で誰も知らない人ばかり出ていたので、顔よりも文字が情報になるから、それをいっぱい並べればいいかみたいになっていってどんどん増えて今の形になりました。よく「週刊誌の中吊りを意識したんですか?」って言われるんですけど、勝手に予期せず近づいていった感じで。だから、週刊誌の中吊りが優秀なんでしょうね。
木月:誰の回でそうなったんですか?
三谷:淳子さんっていう方で、タイトルで言うと「元女受刑者、33歳当時、覚醒剤で逮捕/母はストリッパー、父はヤクザ/元風俗嬢バツ3」です。
マイアミ:すごいタイトル(笑)
三谷:テレビで街頭インタビューをやっていると、使えないけど面白い話が聞けちゃうときが時々あったんですよ。人の悩みを聞く街頭インタビューで、美容師のきれいなお姉さんの経営の悩みを聞いてたら、その先に「実は旦那が逮捕されてるんだよね」っていう話を聞けたんですけど、結局それはコンプラ的な問題もあってテレビでは使わなかったんです。それで、「めちゃくちゃ面白いのに使えないのか、でもそりゃそうだよなあ」というモヤモヤがあったんですけど、YouTubeはこっちの覚悟だけで使うか使わないかが決められちゃうので、そこがいいところだと思いますね。その動画に広告がつかなくてもいいから出そうと自分で判断した結果、登録者数が増えれば後々プラスになるということも考えられるし。
■テレビ時代の嫌だった編集指示を反面教師に
木月:一般の人は、どうやって取材対象者を決めているんですか?
三谷:最初は街を歩いてそこにいる人に声をかけてたんですけど、その後はTwitterで見つけた人にDMでオファーしたりするようになって、最近では動画の概要欄に取材希望の方への応募の仕方を書いておいて、「これは聞いたことのない種類の話だな」とか「面白そうだな」とか「赤字にならない程度の再生数が取れそうだな」というのがあれば、だいたい火曜日か金曜日に取材してるのでアポを取っていくという段取りですね。不思議だなと思ったのは、有名になりたいとかSNSのフォロワー数を増やしたいという人が応募するのはまだ分かるじゃないですか。でも、SNSを全然やってない人も時々応募してくれるんですよ。それに、有名になりたい願望もない人で、「なんで出たいんですか?」と聞くと、「誰かに話を聞いてもらってスッキリしたいと思ったんです」と言うんで、そういう需要があるんだと思って。
木月:もうお寺のお坊さんじゃないですか(笑)
(一同笑い)
三谷:そうなんですよね、それがちょっと困ったもんだなと思って(笑)。お坊さんほど人間ができてないし、編集してるときに「こいつヤバいな」と思っちゃってることもあるくらい性格も悪いので。すべてを包み込んで「あなた大丈夫よ」って言ってあげられるような瀬戸内寂聴的な人間じゃないのに。
木月:分からないですよ。将来そういう風になっていくかもしれない。
――瀬戸内寂聴さんも、若いうちはヤンチャされていた方ですし。
三谷:でも、そういう感じを出すのはよくないと思って、こういう取材を受ける機会があったら、めちゃくちゃ性格悪いところをアピールするようにしてます(笑)
木月:ただ、根底には取材対象者の思いをちゃんと伝えてあげようという思いがあるわけじゃないですか。
三谷:それで言うと、テレビ時代に総合演出とかにVTRの直しを指示されるときに、明らかにその指示通りの編集をやることによって取材対象者が損をするものにしないといけなくなる場面があって…。最初は言う通りにやってたんですけど、ちょっとずつ知恵をつけて、「この人は『こんなふうに編集された』ってTwitterでつぶやくタイプの人ですよ」とかウソついてかわすようになったんですけど、そういう編集をやりたくないっていう蓄積があったから、その逆をやってやろうという思いがありますね。
木月:そういう優しさがあるんですよね。
三谷:「一般人を扱う番組で、こっちの思ったように見せることこそが俺の実力だ」みたいに威張ってる先輩とかいたら、だいたい性格悪くて嫌いだったんですよ(笑)。その逆が『神ギ問』の話のときにも出てきた渡辺剛さんで、人生を変えてくれた3人を挙げるとすると、間違いなく1人に入りますね。渡辺剛さんには「お前がやってるこんなことじゃ、ダウンタウンさんを笑わせるなんて一生ねぇからな」って怒られたりして、「俺、才能ないんだ…」とショックになりながら頑張ろうと思えたので、めちゃくちゃ感謝してます。本質をちゃんと突き詰めてやらないと意味がないんだということも教えてもらって、自分が今ネットでさらされる活動になっても、それがめちゃくちゃ生きてるなと思います。
次回予告…~テレビを飛び出したディレクター編~<2> “最高の遊び道具”ヒロミのYouTubeが伸びる理由
●マイアミ啓太
1986年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学卒業後、09年にフジテレビジョン入社。『笑っていいとも!』『もしもツアーズ』『キスマイBUSAIKU!?』『AKB48選抜総選挙』などに携わり、『人生のパイセンTV』で初めて演出を担当。その後『とんねるずのみなさんのおかげでした』『いただきハイジャンプ』ディレクター、『アオハルTV』総合演出を担当。19年に同局を退社し、株式会社MOOOVEを設立。『週刊さんまとマツコ』(TBS)や、ヒロミ、石塚英彦、後藤真希らのYouTube、ABEMA番組などの映像制作、オンラインサロン、美容サロン、リゾート開発のプロデュースなど、幅広く事業を展開する。
●三谷三四郎
1987年生まれ、東京都出身。法政大学卒業後、情報番組や『笑っていいとも!』などのADを経て、『さまぁ~ずの神ギ問』『有吉ジャポン』などのディレクターを務める。20年にYouTubeチャンネル『街録ch~あなたの人生、教えて下さい~』を開設し、一般人のほか、東野幸治、田中聖、坂口杏里、和歌山カレー事件・林真須美死刑囚の長男など話題の人物にインタビューしている。
●木月洋介
1979年生まれ、神奈川県出身。東京大学卒業後、04年にフジテレビジョン入社。『笑っていいとも!』『ピカルの定理』『ヨルタモリ』『人生のパイセンTV』『AKB48選抜総選挙』などを経て、現在は『新しいカギ』『痛快TV スカッとジャパン』『今夜はナゾトレ』『キスマイ超BUSAIKU!?』『ネタパレ』『久保みねヒャダこじらせナイト』『出川と爆問田中と岡村のスモール3』『バチくるオードリー』などを担当する。