木月:三谷さんはその後、塩谷(亮、現・共同テレビ)さんが総合演出の『(さまぁ~ずの)神ギ問』をやってたじゃないですか。あのファーストクラスの調査(「飛行機のファーストクラスって差額分の価値はあるの?」)のVTRを三谷さんがやってたのが面白くて印象に残ってるんですよ。ファーストクラスでズケズケいく感じがすごいなと思って(笑)
三谷:あれは渡辺剛(ディレクター)さんが監修してくれたのが大きいです。飛び立った後は1人でやらなきゃいけなかったんですけど、手前の導入部分とかをしっかり組み立ててくれたので、渡辺剛さんがいなかったらあんなに「面白い」と言ってもらえるVTRにならなかったと思います。ありがたいですね。
木月:あのズケズケいく感じが、今の『街録ch』につながる感じがするんですよ。
三谷:ちょっとあるかもしれないですね。『神ギ問』の中で、「池袋にいる人の8割が埼玉県民ってホント?」っていうのを検証するときに、塩谷さんが『トリビアの泉』のときに「2,000人に聞けば大体の統計は取れる」というのを聞いて、それを裏付けてくれる専門家を見つけちゃったもんだから、何か調べるときは毎回2,000人に聞くことになっちゃったんですよ(笑)。僕はそのときディレクター1年目だから、知恵も使わずバカ正直に2,000人のインタビューを撮って、今思うとそれが初街頭インタビューかもしれないですね。
木月:『街録ch』は、あの独特の聞き方が面白いんですよね。
三谷:そもそもが下品な人間性なんで、ああいう聞き方になっちゃうんでしょうね(笑)
木月:でも、相手が心を許してしゃべってくれるんですよね。
三谷:やっていくうちにこういうのが得意なんだというのは、『街録ch』を始める前から思ってました。だから、自分でも楽しくできるなという感覚があったんです。心を許してもらうために、冒頭はゴマをすって心地よくしゃべってもらうために下手下手にいくみたいな技術は、『神ギ問』のおかげで身につきましたね。
木月:その片鱗はADのときからあったと思うんですよ。『いいとも』のとき、坂上(忍)さんが、三谷さんのことをすごくかわいがっていたじゃないですか。
三谷:『スマスマ(SMAP×SMAP)』をやってた出口(敬生ディレクター)さんの曜日でやってたときに、坂上さんと岩井志麻子さんと金曜レギュラーの草なぎ(剛)さんが芸能人のお悩みに答えるみたいなコーナーがあって、坂上さんと志麻子さんが生放送で言えるギリギリを攻めるために、1回リハーサルをしてたんですよ。そこに、草なぎさんのポジションはいなくていいはずなのに、「お前がやれ」って言われて僕が草なぎさん役で入ったんですけど、2人が激しいことを言うからこっちも合わせたほうがいいのかなと思って、およそ放送では使えないようなことをベラベラ言ってたんです。
――草なぎさんのポジションなのに(笑)
三谷:そしたら、作家の都築(浩)さんとかがめっちゃ笑ってくれて。坂上さんも気に入ってくれたのか分からないんですけど、それから「坂上さんを本番呼びに行くのはお前の役目だ」みたいになって、僕のことをブログにも書いてくれたりしてんです。
木月:こうやって、人に好かれるんですよ。東野(幸治)さんもそうだったんでしょ?
三谷:東野さんがMCのTBSの深夜番組(『その他の人に会ってみた』)をやってたんですけど、好かれてたかどうかはわからないんですけど、変なVTR作ってたので、おそらく覚えててくれてるだろうなと思ってDMでオファーして『街録ch』に出てもらったんです(※)。
(※)…三谷氏から東野に「街録chの登録者数1万人になったらインタビューさせてください」と依頼して実現。
木月:あれはノーギャラで。
三谷:マジのノーギャラですね。
木月:三谷さんは相手を油断させるところがうまいんですよね(笑)
三谷:たぶん、図々しいんですよね(笑)
■「人は全然好きじゃないです(笑)」
木月:マイアミさんは、『街録ch』をどのように見てますか?
マイアミ:今のテレビって、良くも悪くも作られすぎちゃってる感じがしているんです。「はい、どうせこうやって言わせてるんでしょ」っていう目で見てしまう。でも、『街録ch』はウソがないドキュメンタリーだから、その人の人生を感じられて、素敵ですよね。その中で、三谷さんはよくあそこまで人に聞けるなとか、何があそこまで動かせるエネルギーなんだろうと思いながら見ています。人が好きなんですか?
三谷:別に、人は全然好きじゃないです(笑)
(一同笑い)
三谷:どちらかと言うと、テレビをやってたときの恐怖心からだと思います。テレビで、専門家に話を聞いてくることがあるじゃないですか。OAで使われるのは1分とか長くても2分なんですけど、プレビュー(=スタッフの試写会)でめちゃくちゃ質問されて、それに全部答えられないと“使えないやつ”みたいなレッテルを貼られることに気づいて、かつ、情報を知っていたとしてもカメラに収めてなかったら「なんでそれ撮ってなかったんだ!」って怒られるから、1分しか使われないのに1時間カメラ回して、「全部答えられます」「全部映像あります」ってしておく癖があったんですよ。それで、とにかく「なぜあなたはそういうことをしたんですか?」というのを全部聞くようになっちゃってるんです。
木月:なるほど。それをずっとやっていたんですね。
三谷:『街録ch』でも、「鉱脈なさそうだな」と思いながら一応粘って聞いてみるとそこに宝があったみたいな経験が何回かあって、ますます聞く癖がついてるかもしれないです。人が好きかどうかは、マジでその人によるという感じです(笑)。取材し終わってから、あんまり好きじゃなくなることも多々あるし。
木月:でも、好きと興味は違うんですよね。
三谷:そうですね、興味はあります。分からないことがあっちゃいけないっていう強迫観念のもとやっているので、(話を聞き出すのが)うまいと言われてもそんな自覚はなくて…。でも、テレビ時代に培ったことで言うと、ブレイクしたけどその後落ち着いちゃった芸人さんに出てもらうと、最高月収と現在の月収を聞かなきゃいけないときがあるじゃないですか。現在の月収を聞くときは気まずい空気になるから、ウソでもいいから自分の月収を言ってから聞くということをしてましたね。女子がいじめられないためにやってた処世術にちょっと近いかもしれないです。
木月:自らオープンにしていくという(笑)
マイアミ:でも、うれしいですよね。テレビ出身のディレクターさんが、テレビのノウハウとか知恵を生かして違うメディアで活躍して、プロの技を使ってくれているのって。
木月:そうだよね。『街録ch』って、どれくらい先まで撮り溜めてるんですか?
三谷:最近は1カ月先でストックを押さえてますね。ひどい時は3カ月先まで埋まってて、7月に撮影したのが11月に流れるみたいなことがありました。『街録ch』って旬とか季節感とか関係ないと思ってるんですけど、取材した人を待たせすぎるとよくないなと思って。歴のある芸人さんクラスになると2時間くらい撮っちゃうんですけど、一般の人だったらだいたい1時間以内ですから、そんなに編集も手間がかからないので、どんどん溜まっていっちゃうんですよ。