藤井アナは、今回の本を出版するにあたり、“地元局アナ”にスポットを当てたいと強調。1都6県を放送エリアとしてカバーするキー局の日テレなどと違い、地元の学校により密着して取材することができるため、「春の新人大会からずっと取材に行って、そのたびに成長する姿を見て、冬の選手権の代表校が決まると、そこから何度も取材に行くので、選手たちが弟みたいな感じになっていくんです。大会に入るとほとんど毎日会って話を聞いて、チームの一員のような気持ちになりながらベンチリポートをして、勝ったらまた次の試合があるけど、負けたらその子たちと我々もお別れになってしまう。本当に行動を共にしている感じです」(福岡アナ)という関係性になる。

決勝を担当する日テレのアナウンサーは、そんな地元局アナからの寄せられた情報を集約して臨む。藤井アナは「前夜の宿舎で『監督がこんなことを言っていました』ということまで教えてくれるんです。僕らが話を聞いても、バリアを張られてしまいますが、信頼関係があるからこそできるんですよね。みんな地元校に熱い思いがあるので、もらった情報を全部紹介したら4時間くらいかかってしまいます(笑)」と、その取材力を評する。

強豪の代表校には藤井アナ自身も取材していたが、第85回大会決勝の「盛岡商業(岩手)×作陽(岡山)」は、時間的な制約で両校いずれも取材することができなかった。それでも実況が成り立ったのは「地元局アナのおかげなんです」と感謝した。

時には局の担当が代替わりし、現場慣れしていないアナウンサーがいても、他局のベテランアナたちが取材の甘いところに赴いてカバー。ここでも、局を越えたチームワークが発揮されている。

■“高校サッカーの沼”へ…「あんなにきれいな涙を見たことがなかった」

情報の収集(=インプット)に加え、その伝え方(=アウトプット)の面でも、高校サッカーの経験は大きいという。

福岡アナは「高校サッカーというのは、プロ野球やJリーグなどと違って、情報ゼロから見る人が多いんです。このゼロベースの視聴者の方々に、どうやったら彼らの頑張りを理解してもらい、パッとチャンネルを合わせたときに分かりやすい放送ができるかというところがすごく大事になってきます」と話し、「スポーツ実況以外でも、視聴者の皆さんが分からない情報を配慮して伝えることができるようになったのは、高校サッカーのおかげかなと思いますね」と、アナウンサーとしてのスキル向上につながったそうだ。

『アメリカ横断ウルトラクイズ』に憧れ、クイズ番組やバラエティ、情報番組志望で福岡放送に入社した福岡アナ。しかし、高校サッカーの魅力に取り憑かれ、今はスポーツ中継やスポーツ番組を中心に活躍している。

きっかけは、「負けた選手たちが流す、あんなにきれいな涙を見たことがなかったんです。3年生は最後の大会で、負けたら3年間一緒にボールを蹴っていた仲間たちと明日からサッカーができなくなる。だから、花道にしてあげたいという思いが大きいですね。貴彦さんから、『高校サッカーというのは、終りがあるから美しい。主役は負けた子たちなんだよ』というのを教えてもらい、たしかにその通りだと思いましたね。そうして、ズブズブと“高校サッカーの沼”へハマっていきました(笑)」。

そんな熱い思いを持った福岡アナは8日、生まれ変わった国立競技場での準決勝「大津(熊本)×関東第一(東京B)」の実況という舞台に臨む――。

●藤井貴彦
1971年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学卒業後、94年日本テレビ放送網に入社し、スポーツ実況アナウンサーとしてサッカー日本代表戦や、クラブワールドカップ決勝、2010年バンクーバー五輪の実況などを担当。高校サッカーでは、第85回(06年)、第86回(07年)、第87回大会(08年)の決勝などを実況した。10年4月からは夕方のニュース番組『news every.』のメインキャスターを務め、コロナ禍で視聴者に寄り添うコメントが注目を集めている。21年4月からは音楽番組『MUSIC BLOOD』のナレーションも担当する。

●福岡竜馬
1976年生まれ、福岡県出身。上智大学卒業後、98年福岡放送に入社し、スポーツ取材歴20年。福岡ソフトバンクホークスやアビスパ福岡、サガン鳥栖の中継などにも多く携わり、18年のプロ野球日本シリーズ・第4戦や、19年のラグビーW杯予選リーグの実況を担当した。06年から高校サッカー選手権全国大会へ派遣され、第96回(17年)、第100回大会(21年)で準決勝実況を担当。現在は、スポーツ番組『夢空間スポーツ』。プロ野球、高校サッカーなどスポーツ中継、夕方の情報番組『めんたいワイド』などを担当する。