今回は16人のアナウンサーが執筆陣に名を連ねているが、藤井アナの元に寄せられた原稿は「みんな思いがあふれすぎていて、そのままだと辞書みたいな本になっちゃうくらいでした。1本でと言っているのに3本書いてきたり、10ページと言っているのに44ページ書いてくる人もいるし(笑)」と苦笑い。
そこから、どこをカットするかを打ち合わせしながらスリム化させていくのだが、「これもサッカー実況と同じで、取材をすればするほどチームのことが分かるんですが、全て実況で言うことはできないので、やはりスリム化させていくんです。この本には僕らが高校サッカーで培ったスキルが、そういった意味でも生かされています」といい、さらに、「実況が上手い人は文章もうまいです。竜馬もまた、うまいんですよ」と称賛した。
そんな福岡アナは、今大会であす8日に放送される準決勝の実況を担当する。全国大会の決勝は日テレのアナウンサーが担当するため、準決勝は系列局のアナウンサーのトップだ。藤井アナは「てっきり実況を卒業したメンバーで書いていると思ったら、現役がいたんです(笑)。でも、それがすごくうれしくて、現役の実況者も入ることで多角的な視点をこの本に入れることができたのが、良かったなと思いましたね」と喜びを語る。
■垣根を越えてノウハウが継承される「白鳥の間」
高校サッカーの実況アナウンサーは、局の垣根を越えて先輩から技術・ノウハウの継承が行われてきた。
福岡アナは「これは日本テレビ系列独特の風習だと思うんですが、先輩アナがとてつもなく面倒を見てくれるんですよ。私も、札幌テレビの岡崎も、うちの松井(礼明)というアナウンサーも、高校サッカー実況の師匠はここにいる貴彦さんで、全部教えてもらいました。だから、貴彦さんが指導してくれたことを自分の技術や知識にして、そこに自分のテクニックを付けてまた下の世代に教えていき、さらに次の世代に教えていくというDNAがずっとつながっているんです。地方局によっては先輩がいないアナウンサーもいるので、横のつながりで面倒見の良いおっちゃんたちが教えていくという文化がありますね」と話す。
その継承が行われるのは、大会期間中に全国の参加局の関係者約200人が一斉に宿泊するホテルの会議室、通称「白鳥の間」だ。各試合会場で実況を終えたアナウンサーたちが集まり、それぞれがお土産に持ってきた地元のお菓子やおつまみを食べながら、その日の実況を振り返って「ここはこうすべきだ」「こういうときはこうしたほうがいい」と、直接指導してくれるのだという。
また、高校サッカーの担当になると春のサニックス杯、夏のインターハイ、秋の全国選手権・地区予選、冬の全国大会と1年中取材しているため、その現場で他局のアナウンサーと会い、そのまま飲みに行くというコミュニケーションも行われていた。局が違い、同じレギュラー番組を持たない藤井アナと福岡アナが「竜馬」「貴彦さん」と親しく呼び合う仲なのは、そのためだったのだ。
しかしコロナ禍に入り、そうした交流ができなくなってしまった。継承が途切れてしまう危機感を持った藤井アナは「この本は、後輩アナウンサーたちへのメッセージでもあるんです。『先輩たちはこういうふうに上からスキルを受け継いできたんだ』というのが、伝わるはずだと思って」と、もう1つの狙いを語る。